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魔王様と16人のヨメ物語  作者: 九重七六八
胎動モード
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ドミトル伯討伐作戦

「作戦は完璧だった」


生徒会室で隆介が夏妃に入れてもらったアールグレイの紅茶の香りを味わいながら、一口飲んだ。カチャと元馬の座る副会長席にも夏妃がカップを置く。これには元馬の好きなブルーマウンテンのコーヒーが香ばしい香りをたてていた。


「ありがとう、夏妃。君の煎れてくれたコーヒーはいつも最高だよ。向こうへ行っても毎朝、君のコーヒーで目が覚めたいなあ」


「コッホン…。夏妃は魔界では魔王の正室、御台様だぞ。お前にコーヒーを入れるのは侍女の仕事だろう。それより…」


 隆介の前ふりを無視して、勝手に夏妃ラブラブビジョンに入りそうな元馬を話に引き戻した。作戦は完璧だったが、結果は失敗であった。目標であったドミトル伯爵の討滅はできなかった。大ダメージで当分ちょっかいは出してはこれないので、完全な失敗ではなかったものの、何がいけなかったのかを分析し、次に生かすことが大切だと思っていた。


「確かに、まず桃花先生が仕掛け、続けさまに俺とお前の攻撃、周辺は立松寺の攻撃性の呪符で遮断して容易には逃げられない…」


元馬は先ほどの戦いの回想をした。


 次の英語の授業に向かおうと1階の階段に足をかけたドミトルは、階段の踊り場でこちらを見下ろしている三輪桃花エセル・バールを見た。超タイトなスーツに身を包んだ女教師のスカートの中が見えそうで見えないぎりぎりの絶妙な角度であった。


「おや、桃花先生、授業が始まりますよ」


「バトルフィールド展開!」


無表情にそう桃花先生は、例のアニメ声でつぶやいた。


「ここで戦うのですか?なるほど。いつかは来るとは思っていましたが、今日とは。さては、エセルちゃん、願いがかなったということですかな」


ドミトルはエセルのスーツの胸元、右胸に数字らしき文字の断片を見、さらに彼女が右手に召還しつつある、魔剣「レーヴァテイン」を見て確信した。


「相手は誰ですか?暴虐の魔王ですか?それとも、激熱の魔王?いや」


エセルの最初の一撃を左にかわすと、エセルの相手が誰だかこの吸血鬼おとこは理解した。すでに自分は周りを攻撃呪符による結界が張り巡らされており、エセルの後ろにそれを実行している立松寺華子が控えている。いつのまにか、後ろにはリィとファナが魔槍を構え、攻撃体制に入っており、その後ろにはカテルが魔剣を手にして目を閉じている。


「私ごときに、ロイヤルファミリー総動員ですか?これだけで、10万のカオス軍を葬ることができますのに」


「光栄に思え、ドミトル伯。昨日の三ツ矢さんへの襲撃、完全なる我々への宣戦布告と見なし、ここでお前を討伐する」


「やはり、天智の魔王様ですか。用意周到な布陣ですこと」


ドミトルは隆介自身が乗り出してきたことで、今の状況が自分にとって絶望的なことを知った。おそらく、この魔王は何十にも攻撃体制を敷き、水も漏らさぬ作戦を立てているだろう。今、目の前にいる者一人ですら、ドミトルとは互角の勝負だ。おそらく、宗治も元馬も来ているに違いない。全員、自分を確実に倒せる武器を所持しているものばかりである。誰か一人を盾にして窮地を脱する方法すら選択する余地がなかった。だが、ここでむざむざと討たれるわけにはいかない。リィのフィン・マークルの槍の切っ先とファナのロジェアールの切っ先を左右ギリギリにかわしながら、脱出の機会を伺う。だが、思わぬところから魔力のこもった銀の弾が2発自分の体に命中する。

「鎮魂の双魔銃」を持つ、橘隆介(天智の魔王)の射撃だ。以前、喰らったものよりもはるかに威力のある攻撃である。


「ぐああああ…体が焼ける…」


倒れて転げまわるドミトルの胸ぐらを掴み、グイと持ち上げる源元馬(激熱の魔王)


「これだけの人数でボコるのはちょっとかわいそうで俺のポリシーに反するが、夏妃の前でいいところ見せなきゃならんから、死んでくれ」


元馬の身に着けた「雷神の籠手」によるすさまじいボディブローがさく裂し、ドミトルは空中に舞い上がる。さらに太陽を背にして現れる黒いシルエット…

一柳宗治(暴虐の魔王)が一刀の元に切り捨てる。ドミトルの体は四散し、無数のコウモリになる。


「一匹も逃がすな!そのコウモリ1匹1匹が、彼のたましい。1匹でも逃がせば、奴は復活する!」


リィが叫んで、魔槍フイン・マークルでコウモリを突き殺す。逃げようにも周りを高速で回る立松寺華子の呪符が遮り、それに当たるだけでコウモリは粉々になっていく。


「キイイ…キイイイ」(やばい、これでは私は死んでしまうではないか!)


ドミトルの化けたコウモリがあと1匹、小さな小さなコウモリだけになった。だが、彼にも幸運が訪れた。その戦場に数学教師山下が現れたのである。


「なんだ?これは?お前たち、何してる?」


急に時が止まったようなバトル空間にとまどい、激しい音を聞いてやってきたのであろう。

息を切らしたただの人間に、攻撃側が意表をつかれた。


ドミトルはこの機会を逃さない。山下先生に憑依する。


「みんな、攻撃を止めろ!」


隆介が叫ぶ。


「ふっふふ…賢明だ。そうしないとこの人間は死ぬぞ!」


「ドミトル伯、無駄なあがきはよせ。降伏しろ。その魂の欠片じゃ、復活できるか分からないぞ」


リィがそう投降を呼びかける。


「魔王様と側室様方で私を集団リンチしておいて、降伏しろとは笑止。まずはバトルフィールドを解け。さもないとこの人間ごと死ぬぞ」


ドミトル伯が要求を突き付ける。状況はドミトル伯有利ではあるが、その声には余裕がない。紙一重の交渉だ。この集団リンチロイヤルファミリーが、人質の命を大事にしなければ、この交渉は簡単に打ち切りである。人質に取った人間が、学校ではまったく人気のない山下であることもドミトルの不安を増長していた。


バトルフィールドを解けば、一般生徒も動き出す。彼らを戦闘に巻き込むことはできない。

天智の魔王の完全なる作戦が失敗確定である。


(ちくしょう…どうするべきか?)


数学の山下先生が嫌な奴であっても、やはり、戦いに巻き込んで命を奪うことは、隆介にも元馬にもできることではなかった。2魔王がそういう態度だから、側室たちも攻撃をためらっている。だが、一人だけ、躊躇しない者がいた。


「降伏しろに笑止とは同感。この場合は人質ごと滅殺することが是だ」


暴虐の魔王こと一柳宗治には迷いがない。ここでドミトル伯を討ち取ることと、人間一人の犠牲など、魔王にとってはどちらかを選ぶのは明白であった。


「ま…待て!」


ドミトル伯の憑依した山下先生の顔が蒼白になる。この男なら100%実行する。容赦がないとはこのことだ。自分が同じ立場でもそうするだろう。それが、治世を担うリーダーとしての決断だ。隆介も元馬もその点では青二才だ。だが、今は何が何でも、生き延びねばならない。だが、その宗治と山下の間に立ちふさがる人物がいた。


「宗治先輩、やめてください」


夏妃である。彼女はこの戦いを見ていたものの、あまりにも一方的にドミトルがやられているのを敵とはいえ、とても気の毒になった。話し合えば分かってくれるのでは?と自分を狙っているこの吸血鬼にも博愛の精神を持って応えたいと思ったのだ。


「退け、夏妃。ドミトルはあと一撃で死ぬ」


「ドミトル伯も十分反省していると思います。ここは見逃してあげて」


手を広げてドミトルが憑依している山下先生をかばう。


(夏妃…なんて優しいんだ…さすがは私が見込んだ女。ますます惚れたぜ)


ドミトルは心の底から夏妃にほれ込んだ。


「チッ、お前という女はどこまで優しいのだ。まあ、そこがよいところだが」


宗治は武器を収めるしかなかった。夏妃ごと斬るわけにはいかない。これも惚れた弱みだ。だが、リィたちに目配せして追跡の指示は怠らなかった。夏妃のいないところで討つという判断だ。だが、結局は取り逃がした。


「俺たちは、やはり山下先生ごとドミトルを斬るべきだったんだろうな」


元馬がそう言う。隆介も同じことを考えた。魔界を総べる王ならば、この先、この程度の決断は犠牲を覚悟の上で下さねばならないだろう。


「なるほどね。それでドミトルの奴、ここへ逃亡してきたわけか」


俺はリィに事の結末を聞いて、ため息をついた。仕留めしそこなったせいで、今や、ドミトルの八つ裂きリストナンバー1に名前が載ってしまったではないか。しかも、宗治や隆介、元馬と違い、こちらは無力な人間なのだ。


「夏、心配しなくてもドミトルのダメージは甚大だ。復活できたとしてもずいぶん後の話だ。その時には我々は魔界にいるだろうし、お前のことは私が守るから心配するな」


「いや、お前は夏妃付きだろ」


「魔界に行けば、御台様には護衛がたくさん付く。それに私はお前の側室として正式に任官するから、昼も夜も一緒にいられる」


(昼も…夜も…)


俺の顔は自然にニヤける。だらしない顔を見てリィが俺の頬をつねる。


「言っておくが、正室の華子ちゃん、私、ファナ、カミラと平等に扱うことが魔王様の使命ぞ。側室は単なる愛人じゃない。魔界軍を指揮する戦士で将軍。その能力は魔王様にいかに愛されているかだ。誰かを悲しませたらそれだけで魔界の戦力は低下する」


そうだった。魔界に行ったら単なるハーレム暮らしではなかった。待っているのはカオスのと戦争だ。


(カミラが夏の側室に覚醒して、これで私、満天、ファナ、カテル、メグル、ひかる、エセル、アレクサンドラ、蝶子、加奈子、杏子の12人。残るはあと4人)


人間界に留まれるのは後1か月ほど。夏休み明けには魔界へ旅立つこととなる。カオスからの侵入者も撃退したというし、過激派のドミトル伯も当面は心配ない。リィは自分の伴侶たる男の横顔を見て、何だか愛おしくなりその腕のしなりかかって、頬にキスをした。


「な…なんだよ、急に…」


「ふん。何だか急にお前に触れてみたくなっただけじゃ」


俺は何だかどんどん可愛くなっていくこの魔界の悪魔に自分の心がどんどん近づいていくことを自覚した。


(いや、いや…俺には立松寺が…でも、彼女とはすれ違いでずいぶん会っていないなあ…)


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