カミラちゃんの悪巧み
「あれが土緒夏か」
乙女林高校へ続く道脇の木の上からカミラ・ラ・ツエッペリは、ターゲットである男の子を見つめていた。
(う~ん。特に目立つような感じでもなく、まあ、顔はそこそこ…まあ、私の好みと言えなくはないわ。どちらかというと可愛い系かな)
自分も小柄な小悪魔可愛い系なのに生意気なことをつぶやくカミラちゃん。だが、そのターゲットの男の子の傍らにはすらっとしたスレンダー系の女生徒が一緒に歩いている。
(立松寺華子…魔王の正室、白き衣の舞姫。それに…)
走ってきて左手に絡みつくダイナマイトボディで制服がぱつんぱつんのいけない女生徒。
「リィ・アスモデウス…あの女がねえ…。となると、あの子、かなりいい味ね。みくにちゃん、ありがとう。いい食べ物を紹介してくれて…」
思わずじゅるじゅるするカミラちゃんであった。ただ、夏自身には魔王であるにも関わらず、何の力も感じないが、周りにいる女の子はカミラにとってはかなり危険であるので、どうやってアプローチするか悪知恵を働かせた。
(やっぱり、みくにちゃんに手伝ってもらおうかな…)
そういうと木から飛び降りた。チンチクリンの元気な女の子が立ち止まった。
突然、目の前に降りてきたゴスロリファッションの少女。私は目を見開いた。
「カミラちゃん、カミラちゃんじゃないの!おはよう。どうしたの」
「あ、いや。急にみくにちゃんに会いたくなって来ちゃった」
「来ちゃったって。カミラちゃん、朝から大丈夫なの」
私もさすがにカミラちゃんが普通の人間じゃないことを知っている。普通ならこのような友達に朝あったような態度では接することはできないのだが、あまりにカミラちゃんが普通に接してくるのと、昨日のカフェで遊んだことが楽しくて違和感がないのだ。それに昨日まであったあの背中の小さな羽も今日はない。一応、カミラちゃんは吸血鬼ということで(本人が自称している)朝から出てきていいの?と尋ねたのだが、どうやら太陽の光は全然問題ないらしい。そういえば、昨日は午後から起きだして、夕方とはいえ日に光をたっぷり浴びていたっけ。
「大丈夫よ。みくにちゃんと遊ぶために夜型から朝型に変えたから…」
(吸血鬼に夜型と朝型があるの?)
私は少々疑問に思ったが、あのドミトル先生も朝から学校に来ているからそうなのだろう。この時には三ツ矢編集長がドミトル先生に襲われて入院しているなんて知らなかったので、私もまだこの兄妹が危険な存在とは感じていなかった。
「遊ぶと言ったって、カミラちゃん。今日は私は学校があるから」
「その学校を案内してくれない?」
「えっ?別にいいけれど…」
乙女林高校は幼稚園から大学まである総合学園施設なので、少々、部外者が歩いていてもあまり問題にならない。ただ、校門のところで生徒が所持するカードでIDチェックがあるので、部外者は入り口で登録する必要がある。自分の関係者ということで登録すれば、問題はないだろう。入り口で生徒の服装チェックをしていた山下先生にそのことを申し出る。カミラちゃんの両耳に付けていた赤い宝石のイヤリングが学生にふさわしくないという理由で先生の預かりになった以外は、カミラちゃんは、教師であるドミトル先生の妹でもあるから、学園内のゲストとして校内に入るのは難しいことではなかった。私はカミラちゃんにビジターカードを首にかけてあげた。
「はい、カミラちゃん。私、これから全校朝会だから、行くね。休憩時間は10時30分だから、それまで学園内をブラブラしていいわ。休憩時間に学校を案内してあげる。あと、お昼休みに一緒にご飯食べましょ」
「はい!了解しました。ところでみくにちゃん、この学校で静かであまり人が来ないところはどこ?」
「そうねえ。体育館裏の倉庫かしら」
(変なことを聞くカミラちゃん…)
カミラちゃんのうれしそうな顔に私は彼女が、大好きな夏先輩に邪なたくらみを持っているなんて全然思っていなかった。
「み、美国」
私に話しかけてくる男子が1名。幼馴染の良輔だ。家が近いのに一緒に登校しないのは彼が野球部で早朝練習があるからだが、それがなくてもきっと一緒には登校はしないだろう。だけど、だいたいいつもこの時間にこの場所で良輔は話しかけてくる。まあ、大抵は一言二言で終わるけれど…
「その子って、昨日の?」
「カミラちゃんよ。良輔、朝練終わったの?」
「ああ。今、終わったところ。美国、早くしないと全校朝会が始まるぞ」
「あ、本当だ。それじゃ、カミラちゃん、また後で…」
私は良輔と一緒に体育館へ駆け出した。