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魔王様と16人のヨメ物語  作者: 九重七六八
覚醒モード
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夏と謎の小学生 ~覚醒モード~

第6部登場人物

エトランジェ・キリン・マニシッサ…天界の住人。見た目小学生だがリィと同級生の自称525歳。お人形のようなヨーロピアン顔なのに中国人が使うなまり日本語を話す。

新堂ひかる…高校1年生 かわいい男の子という風貌で上級生女子に人気の生徒会会計。でも、実は…

「だいたい、事情は分かった。それで、リィのことは」


立松寺にそう話を向けると、その当人、リィ・アスモデウスがぱつんぱつんのブラウスで現れた。スカートは小さくて超ミニ状態である。

(こんなイケナイ格好はまずいだろう!)

「ふふふ・・御台様の護衛として、私がこの学校に留学生と称して潜入した。一応、ステイ先は華子の家になっているがのう」

「ほんと、勝手ね」


立松寺がそういまいましそうに言った。


「潜入して分ったが、どうやらこの学校には魔王様候補が複数いる。あの源元馬もかなり確率が高い。今までの関係から橘隆介が一番近いと思ったが、あの御台様への執着心は、まさに魔王様の片鱗がある」

(執着心って・・ただの早とちり、勘違い野郎だろ)

「それで俺が入れ替わる前から、やたら夏がコケて元馬に助けられる演出をしておいたということか?」


先ほどの立松寺の話から、計ったように階段でコケて元馬の胸に飛び込むお約束がクサいなあと思っていた俺はそう言った。おそらく弁当を作って持っていかせたのも指示したのだろう。


「仕込ってわけね」


立松寺が嫌味たっぷりに言う。こういう口調は何故だか妙に立松寺の魅力を高める。


「それでリィは、元馬の側についてイベントを起してたわけだが、隆介よりも元馬の方が魔王様に近いと考えたということか」

「いや、実のところ、分らないのだ。魔王様である決め手がない。二人ともお前のことが好きなようだから、候補には違いないが・・」

「ふん。じゃあ、土緒君が二人にキスすればいいわけね」


立松寺の言い方は毒を含んでいる。


「あ、いや、ちょっと待て。立松寺、それはちょっと俺の人権というか、俺の気持ちが・・」


確かにキスすれば、魔王が復活する。方端からキスしまくれば、魔王が誰だかはっきりするが、それをするとこの清楚なイメージの夏のキャラが淫乱、キス魔ギャルになってしまう。それはいくら男でも屈辱的というか、勘弁してくれの世界である。


「普通の悪魔ならそれもありだが」


リィは言う。夏は魔王様の正妻である。もし、そのファーストキスが魔王自身ではなくて、別の男に奪われたら・・。魔王の怒りは計り知れない。夏付きの女官長であるリィとしては罪に問われかねない。


「だから、魔王様と確信するまでは、二人を対立させる。夏を巡っての対立なら本物の魔王様なら復活前でも何らかの兆候をお示しになられるはずだ」

「兆候ねえ・・」

「そうしたら、女夏がちょいと誘惑すれば、一発で封印を解くことができる」

「誘惑って・・そんないい加減な」

「華子ちゃ~ん。本当にあなたはウブねえ・・。男なんてちょっと誘惑すれば、据え膳は男の恥とかいって、やっちゃう動物なの。例え、魔王様でも・・」

「それ本当?」


立松寺が怖い顔で俺に顔を近づける。おれは否定する。そうしないと首を絞められそうだ。


「今回の体育祭決戦。夏を賭けての対戦だから、真の魔王様なら必ず勝利をものにするはず。勝利した方が魔王様と言ってもいい」

「・・・・・・。」

(それで勝った方に俺が勝利のご褒美キス?冗談じゃないぞ)

「まあ、お前たちが魔王様を見つけたい理由は、私や御台様とは違うことは分っているが、見つけるまでは仲間同士、仲良くやろう。私は用があるからこれで失礼する」

「また、仕込みでもするんでしょうね。」


立松寺の毒の含んだ言葉を軽く受け流し、リィは去っていく。そういえば、あいつ、大悪魔の孫とか言っていたが、いわゆる地獄で人を裁く悪魔なんだよな。それが、ぱつんぱつんの制服を着たイケナイ女子高生だからギャップがありすぎである。ちなみにそのイケナイ姿に悩殺されてフラフラと近寄った男は、一撃で吹き飛ばされている。伊達に悪魔ではない。


「土緒くん、これはチャンスかもしれないわよ」

「えっ?チャンス?」

「これだけ大騒ぎになれば、リィの言っていた敵対勢力というのが何らかの接触をしてくるわ。私たちはその勢力とやらの力を借りるかもしれないから。土緒くん、二人の間をうまく泳ぎまわって、二人の嫉妬心を燃え上がらせるのよ」

「それはそうだが」

「そうすれば、魔王とやらも正体を現すはず」

「だが、立松寺、もし、二人がその・・あの・・」


俺は男ならではの考えが浮かび、立松寺に告げようとしたが止めた。

そう、もし二人が強引に迫ってきたら・・・。魔王じゃなくても女のか弱い力では抵抗できない。ましてや魔王だったら・・。キスされて・・いや、濃厚なキス・・いや、ヨメならそれ以上されてしまうかもしれない・・。


(うおおおおっ・・。それだけは・・それだけは勘弁してくれ!)


もしそうなれば、立松寺とも永久の別れである。


「リィの狙いは分ったけれど、どうだろうね。恋心は計画通りにはいかないものよ。例え魔王だとしても。そうでしょ、土緒くんの中の女夏ちゃん」


そういって、立松寺は俺の胸にそっと手を置いた。女夏に話しかけるように・・。だが、傍らで二人を見ていた女子高生のグループは、


「うあ、立松寺さん、だいた~ん」

「やっぱり、あの二人あやし過ぎるよね」

「女の子同士で?わあ・・ちょっとアレだけど、2人ともきれいだから絵になるよね」


その話し声が耳に入って、立松寺と俺は顔が真っ赤になってお互い後ろ向きになってしまった。


(くそ~、俺が男ならものすごくうれしい状況なのに・・)

 

立松寺は用があるといって消え、他にすることもない俺は家に帰ろうと玄関に行く。

外は雨が降っている。

(しまった!傘忘れちまったぜ。)

走って帰ろうにもこの雨ではかなり濡れてしまう。立松寺を待っていっしょに帰ろうかと思ったが、駅までで家は別方向だから結局困る。


(隆介のやつ・・普段は世話をしてやっているのだから、こういう時くらい送っていくよ・・とか優しい気持ちにはなれないのだろうか?)


隆介は金持ちのボンボンらしく、毎日、スリーポインテッドスターが輝く高級輸入車で送り迎えされている。生徒会室はとっくに空で後輩の新堂ひかるが、


「会長ならもう帰りましたよ」


とか言うので、夏を置いてさっさと帰ったらしい。もともと忙しい奴だが、男時代にはもっと付き合いがよかったと思う。心の中で女夏が(橘くんは忙しいから仕方ないの!)と言い訳するが、少しでも好きなら気にかけてくれるはずだ。


(残念だ、女夏・・)


どうしようか思案していると、ふいに大きな気配がしてそっと広げた傘を差し出すのが見えた。


「げ・・元馬・・いや、あの、源くん」

「夏さん、これを使え」

「えっ、でも・・」


あの事件の後に元馬とあいあい傘で帰ったら、それこそ明日の号外が恐ろしい。それを察してか、元馬は、


「本当は一緒に帰りたいけれど、今は君が困ると思うから、今日はこれでさよなら・・」

傘を渡すと雨が降る中、駆け出した。あいつも大金持ちなのに、車の送り迎えはせず、体を鍛えると称して徒歩通学(電車も使わず2駅を歩くツワモノ)と聞いている。

「お・・男の子だなあ・・」


思わずつぶやいてしまった。それに夏のことを考えて傘を置いて自分は去る心遣い。勝手な男なら強引に一緒に帰るだろう。去り際も暑苦しいキャラの割りに(爽やか)である。

思わず(どきゅん・・)としてしまった。男に?女夏は心の中で(いい人よね。もしかしたら、源君が魔王様かも・・。)とつぶやいている。元馬に貸してもらった傘を差して校門を出る。まっすぐ歩くと大通りに出て駅は5分ほどである。校門のすぐ脇にスリーポインテッドスターの輸入車が停まっていたが、夏は気づかずに通り過ぎていく。頭の中は雨の中を駆けていく元馬の後姿が焼きついて視線は雨が激しく打つ地面を見つめている。


「なんだ、あいつ傘持っていたのかよ」

「お坊ちゃま、夏様にお声をおかけしましょうか」


いつも送り迎えをしてくれる運転手の須藤が親切にそう聞いてきた。だが、隆介は夏の後姿を眺めながら心とは正反対の言葉をだした。


「いい。出してくれ」

「よろしいのですか」

「ああ・・」


もう一人、はあはあと息を荒げて玄関に走りこんできた人物。後輩の新堂ひかるだ。


「しまった。さっき、やっぱり言えばよかった。先輩と一緒に帰るチャンスだったのに」


彼の右手には大きい黒い傘が握られていた。残念そうにネクタイを緩め、シャツのボタンをはずし、パタパタと仰いだ。首元の下に見ようによっては「8」に見える黒いシミがちらりと見えた。



駅に着くと見慣れたランドセル姿の女の子が目に入った。妹の秋である。めずらしく女の子の友達を連れていた。秋よりも小柄ないかにも小学生という青いワンピースに短いフリル付きの靴下、丁寧につばの広い帽子までかぶっている。黄色い傘を差して振り返ると白い髪の美少女だ。あきらかに外人・・と思ったら、俺の脳裏にとても嫌な感覚が走った。そうあのリィと同類の匂いがするのだ。

その女の子はじっと青い瞳でこちらを見る。


「あっ、お姉ちゃん。今から帰るの?」

「ええ。秋、そちらの子は?」

「エトランジェ・キリン・マシニッサちゃん。今日、秋のクラスに来た転入生」

「エトランジェある。よろしくある」


ヨーロピアン顔なのに中国人の使う日本語。こいつ、キャラが強い。小学生だがあなどれない。だが、リィの言っていた敵対勢力ではなさそうだ。こんなガキが例えそうでも、リィと戦えるわけがない。


「ははは・・いや、思い違い。思い違い・・」

「・・・・・・・。」

いや、考えすぎだ・・。そう思った3分後、俺は後悔することになる。


「ランジェちゃんは、私と同じさくら組よ。私たち意気投合しちゃって、お友達になったの」

「秋はいい奴ある。お前の妹とは思えないある」

(お前?って俺のこと知ってるのか。)

「お姉ちゃん、私、図書館へ行ってから帰るから」

「あまり遅くなっちゃだめよ」

「はーい。でもお姉ちゃんこそ、こんな早く帰るようじゃだめだよ。男に車で送らせるようじゃないと・・。それじゃねランジェ」

(大きなお世話じゃ。お前こそ小学生のくせに男に車で送らせるんじゃねえ。)


いつぞや、それこそタクシーで帰ってきたことがあった。彼氏、と言っても小学生のガキであったが、どこぞの会社の御曹司だということだが、小学生は自転車だろ!

秋がいなくなったら、そのエトランジェ・・何とかという小学生。急に俺の手を引っ張って物陰に連れて行く。小学生とは思えないものすごい力で。


「おい、魔王のヨメ。魔王はどこにいるアル」


いつのまにか取り出したと小さな杖を頬にペタペタ当てる。言っておくが杖は魔法ステッキではなさそうだ。


「いや、今、そいつを探しているところで」

「ふん。私は天界から魔王を監視するためにやってきた聖獣キリン一族の者アル。魔王のヨメ、心配は無用アル。人間であるお前をどうこうすることは考えていないアル。私はお前の復活させた魔王を監視し、天界に害を成すなら倒すのが役目アル」

「倒すって、お前、その体で?」(小学生じゃ無理だろ!?)

「ふん、バカにするな。これでも私は525歳アル」

(ご・・525歳?うそでしょ・・。人間ならババアどころか屍じゃないか。)

「いや、だけど私の護衛には魔界の伯爵令嬢とかいう奴がいるんですよ。あなたなんかにあいつをどうにかできるわけがないでしょ」

「ふん。リィ・アスモデウス、アルな。あ奴は私の同級生アル」

「ええっ?ど・・同級生?」(ありえん。)

「生きる世界は違えど、同じテンペスト魔法大学で学んだ仲アル。今回、敵味方に分かれたわけだが、私の実力は奴とはほぼ互角アル」


おいおい、互角だと?一方は魔界の大貴族の孫でパツンパツンのいけないアダルト女子高生、一方は天界の貴族でどう見てもお人形のような小学生。キャラが強い、強すぎる。

いったいどんなファンタジーじゃ?


「ナニディア・・エレノア、マイグ、ナム。心の住人よ、今は眠れ・・マインド・フリーズ・・。」

エトランジェが何かぶつぶつ唱えると俺の右手を握った。凍りつくような感覚が脳髄まで響く。心の中にいた女夏が倒れこむのが分った。

「な・・何したんだ」

「なに。スパイを眠らせたアル。心配するな、心の中にいる女の意識は眠らせたアル。リィに報告することはないアル」


エトランジェが言うには、これから言うことは女夏には知られたくない。知られれば、リィに筒抜けになってしまう。


「お前は男に戻りたいのだろう?」

「ああ、ぶっちゃけそうですが」

「戻るにはお前が完全に女化する前に復活した魔王を倒さなければならないアル。私が倒せばよいが、リィが護衛していては簡単にはいかないことも考えられるアル。」


エトランジェは、一本の短剣を取り出した。銀色に輝く刀身はゆるやかにSの字に曲がり柄には角の生えた馬が彫刻されている。


「アンスウェラーの短剣、別名、魂殺しの剣アル。あらゆる魔法を無効化し、魔王の魂を撃砕くことができるアル」

「これで隆介か元馬を殺すの?」


そんな恐ろしいことをするのか・・。そんなことではできない。ブルブルと震えてくる。


「心配するなアル。アンスウェラーの短剣は生身の肉体は貫くことはできないアル。この短剣は心の中の魂のみを破壊するアル。魔王を刺せば、その魂のみ打ち砕くアル。そうすれば、魔王は元の人間に戻ることができるし、魔王がいなくなればお主も元の男に戻ることになるアル」


ニヤリと微笑するエトランジェ・・。だが、その無邪気な微笑を見て俺の心の中は都合によいその話に疑問が湧いていた。(何だか、都合がよくないか?)そもそも、こいつが天界の住人である確証はない。天界だから正義の味方という考えも人間が勝手に作ったファンタジーでしかない。


(信じていいのか?)


エトランジェが短剣の束に埋め込まれた宝石を触るとたちまち光と共に小さなペンダントに変わった。それを背伸びして俺の首にかける。


「念じて宝石に触れば、ペンダントは剣として実体化するアル」

「なあ、エトランジェ・・」

「ランジェでいいアル。お前(男夏)と私は同志アル。もう一人、同志はいるが、お前のよく知っている人物だから紹介はいらないアルな」

「えっ?同志?」


その疑問には答えず、ランジェはランドセルを翻して駆け出した。そして振り返る。


「それと魔王は体のどこかにアザのような数字の刻印が刻まれているアル。」


(数字のアザ?)いつの間にか女夏が目覚めてつぶやいた。

(それはいいが・・体のどこかって・・。どうやって確認するんだ?)


まさか、元馬や隆介なりをひん剥いて確認するわけにはいかないだろう。そんな事態を引き起こしたら、自分の方(貞操)が危ない。

俺はすばやく携帯を取り出して、立松寺にメールを送る。


エトランジェに接触 奴を知ってる?


すぐ着信音が鳴る。


知ってるも何も

本日からホームステイですって。

勝手すぎるよね。

プンプン


やっぱり・・。そういうことか。どうりで立松寺は用事があるとか言ってたわけだ。おそらくオヤジにからの連絡で、新しい留学生うんぬんがと言われたのだろう。


(しかし、立松寺の家には敵であるリィも住んでいるはずだ。敵同士一緒に住んでどうするんだ?)


立松寺の家で起こっている騒動は想像したくない。魔界も天界も人間界に出張所ぐらい用意したらどうなのだと思う。


リィ様に続いて可愛いランジェちゃんもやってきましたが、この2人は何やら敵対関係の微妙な様子。2人の狭間で悩む主人公ですが…

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