夏妃クライシス
郊外の道路上でその事故は起こった。突然、後ろから追い抜きをかけてきた国産のスポーツカーがカルマたちを運んでいたメルセデスに体当たりしてきたのだ。ハンドルを取られたメルセデスはガードレールに激突し、さらに跳ね返ったところに再度、そのスポーツカーが突っ込んできたために転倒してひっくり返ったまま、50mほど滑って止まった。
ただ、さすがドイツ製の高級車らしく運転手の御曹司はエアバックに顔を埋めて気を失ったものの、けがはなく、後席のカルマと夏妃はシートベルトと後席エアバックで守られ、しばらくショックで口もきけなかったものの、ごそごそと車からはい出た。
「ちょっと、あなたたち!どういう運転してるのよ!」
カルマはガードレールにぶつかり、エンジンから煙を出しているスポーツカーに怒鳴りつけた。だが、そこには運転手らしい姿が見えない。
「シッシシ…これまた生きのよい人間の女が一緒とは…」
後ろから声がした。カルマが振り返ると小柄で珍妙な格好をしている男がいた。顔を白く塗ればまるで道化師だ。
(人間の女?人間じゃない女がいるのかしら)
ふとカルマは疑問に思い、そっと夏妃の顔を見た。先ほどまでの平穏そうなお嬢さん顔だった夏妃の目が厳しいものに変わっている。
「初めまして、王妃殿下ともお呼びすればよいですか…それとも、3人の魔王をくわえ込むビッチ妃殿下でしょうか。シッシシ」
小男は、汚い言葉を汚い唾を飛ばした。
「ビッチですって?」
カルマは夏妃と小男の顔を交互に見た。どうやら、奴は夏妃が目当てのようだ。
「カルマさんは下がって」
夏妃は胸のペンダントを握りると何やらつぶやいた。光が拳を包み込み、それは短剣の形に変わった。
「アンスウェラーの短剣ですな。だが、武器はあっても妃殿下様自身は非力。私と一緒に来てもらいましょうか。もちろん、その後に辱めを受けていただきますが。シッシシ、おおっと失礼しました。まだ、名前を名乗っていませんでしたな」
そこまで言った小男は自分の顔を一本の矢がかすめていくのを見た。カルマが持っていた弓を使って小男を射たのだ。無論、わざとはずして威嚇したのだが、油断していたこの時に当てていれば状況は幾分早く解決できたかもしれない。
「シッシシ…人間の女でも威勢のいい奴はいるらしい。俺はフラッシュ、カオスのフラッシュだ」
小男はそう叫ぶと口から息を吹きかけた。これがものすごい突風となって二人を襲う。スカートがめくれあがる。
「きゃああ…」
カルマも夏妃もうら若き乙女だ。右手に武器を持っているので左手で慌てて抑える。フラッシュはその名の通り、電光石火のごとく夏妃に急接近する。それこそカメラのフラッシュのスピードだ。夏妃の右手を掴む瞬間に殺気を感じて慌てて、後ろへ飛びのいた。
(この殺気は人間の女のものでも、魔王の妻のものでもない)
フラッシュは新たに現れた人物に目をやった。小柄ながらも胸はバイン…と出た美少女だった。