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魔王様と16人のヨメ物語  作者: 九重七六八
胎動モード
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許嫁と復讐と…その2

カルマが初めて宗治と会ったのは小学5年生の時。4年生の宗治は小学生らしくなく、物静かで落ち着いていた。小学生のくせに哲学の本を読み、カルマがゲームで遊ぼうと誘っても、


「お姉さん一人で遊んでください」


と一言。


(バカヤロウ!お前のためを思って誘ってやったんだ!だれがこんなゲームなどするか、クソガキ!)


自分もガキの部類なのに顔は笑顔で心は怒り心頭であった。それから父に連れられて宗治の家に行ったり、宗治が来たりしたが、まったく打ち解けない。というより、宗治の方が完全無視でわれ関せず、自分のしたいことをするのみであった。年上だからといつも気を使っている自分だけが疲れるだけであった。


 小6の時に家にやってきた宗治に父に言われてお茶を出した時に、宗治がそのお茶を飲み、一言、


「お茶を煎れるのはうまいな…」


とつぶやいたのを聞いてカルマは何故かうれしくなってしまった。それからお茶を入れるのはカルマの仕事であった。「うまい…」と褒めたのは一度だけだったが、家政婦が煎れたお茶は、まったく口をつけないのにカルマの煎れるお茶は飲み干すのだ。これは特別な感情からというより、自分の煎れ方が完璧だからということは分かっていたが、カルマは自分が宗治の特別な存在であると思っていた。


 中2の時に正式に宗治が許嫁であることを父から告げられ、仮の結納を交わすことになった時には、さすがに混乱した。薄々感じていたこととはいえ、あの年下のぶっきらぼうの男の子が自分の夫なんて冷静に受け止められなかった。だが、現れた宗治は中学生であったが、かなりのイケメンに成長しており、容姿だけでも自分の夫たるにふさわしいと思った。そして媚びないクールな接し方は、どんな時でも変わらず、いつも沈着冷静であった。カルマはたくさんの男を見てきたが、宗治のような男は出会ったことはない。


確かにイケメンで金持ち、優しい男は自分の周りに何故か集まってくるが、その誰もがカルマのことを褒め、「付き合ってくれ」だの「きれいだね」だの「愛している」などのセリフを吐く。


(もうそんな言葉は聞き飽きた)


宗治は違う。もう出会って9年経つがそんなことを自分に言ったことがない。彼は自分より一段高いところにいるのだ。


 学校内の生徒に聞いて、土緒夏妃を見つけるのはそんなに難しくなかった。生徒会室か武道場と言われて、まず武道場に行ったのであるが、そこで宗治と夏妃(雑誌に出ていた娘だから分かった)が一緒におり、あろうことか夏妃が宗治にお茶を煎れているではないか。そして、そのお茶を宗治は飲み干した…


(うそよ…うそ…私は夢を見てる)


カルマはそう言い聞かせた。


(あんな小娘のどこがいいのだ!)


確かにすらっとした姿、愛くるしい顔、お茶の出し方も手慣れたもので、いかにも女の子らしい感じだ。だが、カルマ自身、自分が劣っていると感じるものはなかった。


(彼女と話してみる。そうすれば分かるはずだ)


カルマは武道場にズカズカと上がり込んだ。二人っきりで会っていた夏妃と宗治は驚いたようにカルマを見たが、宗治はカルマの顔を見て動揺した様子はない。。


「宗治さん、久しぶりね。年始のあいさつ以来ね」


「ああ」


「そちらのお嬢さんは?」


カルマは週刊乙女林でこの女の名前を知っていたが、敢えて尋ねた。まさか、週刊誌を見て慌てて様子を見に来たなんて、宗治に知られたらマイナスになることをこれまで付き合ってきたから十分承知をしていた。


「私、土緒夏妃と言います。この学校の2年生です」


「初めまして、私は物部ものべカルマです」


婚約者と彼女?が相対しているのに取り乱した様子もない宗治の反応は立派だが、それがカルマには少々憎らしく感じた。そこで意地悪い質問を投げかけた。


「今年、わたくし、大学生になりまして。聞いているでしょ。聖レガリア女子大」


「ああ。親父から聞いている」


「宗治さんから、お祝いの花でも届くかと思ったのですが」


そう言って、夏妃の方をちらりと見る。目を丸くしてことの成り行きを見守っている。


(ふふふ…次の一言で驚くがいいわ。驚いて取り乱しなさい。そういう姿を宗治は大嫌いだから)


「宗治さんはわたくしの婚約者ですもの。婚約者からの花は女の子には一番うれしいのよ」


カルマは夏妃の顔を見たが、眉一つ動かさず、驚いた様子もない。


(何?この娘、今の聞いてなかったの?)


カルマは夏妃の態度が信じられなかった。もしや、この娘、宗治とは何でもないのかも…と一瞬頭に過ぎったが、ただ単に耳の遠いバカ娘に違いないと思った。


「だから、宗治さんはわたくしの婚約者なのです!聞いていますか!このドロボウ猫!」


最後は怒り口調で本音が出てしまった。こういう言動が一番、宗治が嫌いなことを知っていたのにカルマは言葉を発してから(しまった…)と思ったが、もう遅い。せめて、取り乱す相手の失点を期待するしかない…。


 だが、この娘は失点をするどころか、ひどく落ち着いた口調で、


「宗治先輩の婚約者ですか。お茶を煎れるのがお上手と先輩から聞いています」


(この娘、猫じゃない…キツネだ。女狐!)


カルマは話題をはぐらかす夏妃がずるいしたたかな女だと判断した。ならば、こちらはストレートにいくべきだと判断した。


「夏妃さん。いつも宗治にお茶を煎れてくれてありがとうございますわ。婚約者としてお礼を言います。でも、これからは必要ありませんわ。宗治さんの未来の妻として、あなたに命じるわ。宗治に近寄らないで」


(びしっと言ってやったわ!)


カルマは勝ち誇ったように夏妃を見下し、(カルマは170cm。夏妃より5センチ背が高い)そして宗治を見た。だが、宗治は恐ろしい言葉を発した。


「カルマ、夏妃は俺の現在の妻だ。未来の妻のお前とは違う」


(えっ?)


カルマは宗治の言葉を頭の中で繰り返した。


(妻、妻って、お嫁さん…この子が、うそ!)


「妻?うそでしょ、宗治。あなた、勝手に結婚したの?私に断りもなく…お、お父様にいいつけてやる!」


「どうぞ。ご勝手に…」


宗治は冷たく言い放つ。カルマは賢い女性でもあった。いくらなんでも高校生で結婚なんてしていないはずだ。ということは、せいぜい、結婚の約束をしている…という程度の中だろう。(甘いな…)とこの1歳上のお姉さんは思った。結婚は個人と個人の契約ではあるが、家と家のつながりでもある。古武道の家元である宗治の家が一般人の女を嫁になど迎えるはずがない。


(だが、朴念仁の宗治に言ったところで、埒が明かないわ。それなら、この娘の方から崩すべきね。)


そう思ったカルマは、夏妃の手を取ると歩き出した。


「あの、どこへ行くのですか」


「女の子同士の話です。夏妃さん、ちょっと付き合ってくれないかしら。いいでしょ、宗治。彼女を少し借りるわ」


こういえば、宗治は何も言わないはずだとカルマは思っていた。確かに、


「夏妃、注意しろよ…」


と言ったきり、カルマと夏妃を見送っただけだったが。


宗治は自分のところから夏妃が離れることについては、さほど心配はしていなかった。確かに夏妃は魔界の過激派に狙われているし、当面の敵であるカオスからすると要警戒人物である。だが、それは魔王である自分もそうだろうし、側室として覚醒した女の子たちも同じであろう。夏妃の場合、攻撃力が心もとないので常にリィかひかるが護衛についている。今も気配は消しているが、ひかるが護衛していることを知っていた。


(それにカルマも人間相手では最強だからな…)


と宗治は元婚約者をそういう言い方で褒めたのだった。


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