友だちのモノはわたしのモノ
小悪魔カミラちゃんの本性が明らかになっていきます。三ツ矢編集長が大変な目にあっているとも知らず…ノー天気なみくにちゃんですが。
三ツ矢先輩がそんな大変な目(命に関わる大事件)にあってるとも知らず、私こと、雪村美国は、ドミトル先生の妹さんのカミラちゃんと手をつないで、町のカフェに乗り込んでいた。私はいつものホットチョコレート、カミラちゃんはスペシャルトマトジュースを注文した。
実のところ、全身真っ黒の服(半袖シャツにベスト、ミニのラップスカート)に身を包み、短いスカートと黒いタイツの絶対ラインに垣間見える白い足、お人形さんのようなカミラちゃんと歩くのは周りの視線くぎ付けでちょっと恥ずかしかったが、背中から生えている小さな翼は、おそらくコスプレの一部だろうと思われて騒ぎにはならなかった。よく見れば、その翼はカミラちゃんの意志でちょいちょい動いているのだが、だれもそこまで気が付かない。
まあ、気が付かれて大騒ぎになるのはちょっと困るのだが、よく考えてみれば、こんな子と友達になるなんて私っておかしい?
「ねえ、みくにちゃん、あそこの席の男子グループ。私たちを見てるわよ」
「えっ?」
カミラちゃんの視線の先にその男子グループがいた。足元にアニメの美少女の絵柄が目立つ紙袋を持っているから、こいつら2次元キャラ大好きのオタク男子だろう。5人のうち、3人は見覚えがあった。同じ学校の男子たちで1人は、近所の幼馴染であった。
(良輔くんって、オタクだったけ?)
杉原良輔は、幼稚園から同じ学校に通う男の子だ。小学校4年生までは一緒に遊んでいたが、さすがに5年生辺りから離れ始め、今では必要な時以外は口を聞いたことはない。高校では野球をやっている汗臭いスポーツ系の男の子だ。中学生の時に、女友達が良輔のことを紹介してくれというので、軽い気持ちで引き受けたら、えらい不機嫌で怒られたことを思い出した。
(あの時、なんで私が怒られなきゃならないの!と思ったけれど、ははあん~)
良輔の奴、2次元の女の子が好きだから、私の好意を迷惑に思ったんだ!と勝手に勘違いする私。ごめんなさい。この時は男の子の気持ちって奴、全然理解していない私でした。
「おいおい、あそこの席の女の子、可愛くない?」
「いや、俺のヨメ、ラフィーナちゃんに比べれば、あんな3D女子なんかは…」
「一人は雪村だよな。もう一人だれ?」
「あのコスは、決まってるよなあ。昔の何だっけ?あのアニメのヒロインのコスかな」
「おい、良輔、おまえ、雪村と知り合いだよな」
「ちょっと話して、俺たちに紹介してくれよ」
「えっ、やだよ。なんで俺が…」
良輔は冗談じゃない…と思っていた。この4人とは店の前で偶然会い、一人が一応友達だったので、この店に入ったものの、趣味のアニメ話を聞かされて辟易していたところに、美国が現れて、この状況だ。一応、4人の関心は雪村美国じゃないと分かったので、良輔は安心したが、彼女が得体のしれない怖いくらいの美少女と話しているのを見て、かなり気になった。
それだけ、雪村美国のことを気にしてるのだろう。冗談じゃない…とは思ったものの、相手が誰だか聞くくらいは幼馴染として不自然じゃないだろうと思った。それにこのキモい連中と同じに見られているかもしれないという誤解は解いておきたい。
「おい、美国」
「良輔くん、めずらしいわね。こんなところにいるなんて」
「いや、別に入りたくて入ったわけじゃなくて…」
「良輔くんたち、カミラちゃん目当てでしょう?」
私は意地悪く、良輔にカミラに聞こえる声で聞いた。
「バカ!俺じゃない。あいつらが、この人誰か聞いて来いって言うから」
良輔は心の中で(俺の狙いはお前だバカ!気が付け、この鈍感娘!)と叫んだが、美国が2年生のドーナッツ先輩が好きと知っているので、出かかった心の声を抑えた。
「私、カミラ・ラ・ツエッペリと申します。あなた、みくにちゃんのお友達?」
「いや、友達ってわけじゃないけど…」
「カミラちゃんはドミトル先生の妹さんなのよ」
ノー天気な私が続ける。良輔はカミラの顔をマジマジと見つめた。確かにフランス人形のような顔立ちはイケメンのドミトル先生と同じだが、その白い顔はまるで死人のような白さで怖いくらいであった。この娘に比べて、美国の顔の方がどれだけ健康で癒されるか。そう思いつつ、一応、先生の妹と知って安心した良輔は、席にそそくさと戻った。
(しまった、雪村の奴に俺はオタクじゃない!と言うのを忘れた!)
良輔の報告を聞いて盛り上がる男子を無視して、私とカミラちゃんは恋バナに夢中だった。
「ねえ、ねえ。さっきの男の子。みくにちゃんとどういう関係?」
「近所に住んでる男の子」
「ふ~ん…幼馴染って奴ね。みくにちゃん、可愛い男の子隠してるじゃん」
「あんな奴、可愛くないし、それにあいつとは関係ないよ。今じゃ、滅多に口きかないし」
(みくにちゃんって、バカね…。どう見てもあの子、あなたのことが好きってバレバレなのにねえ)
「それに…」
私はモジモジして、夏先輩のことを話す。
「私の好きなのはドーナッツ先輩だから?」
「ドーナッツって、あのお菓子の」
「違う違う、同じ高校の2年生の先輩、土緒夏先輩」
そして、私は夏先輩がいかにかっこいいか、そして、先輩には完璧な彼女がいて、その彼女から、どう私が夏先輩を振り向かそうかを熱弁した。
(灯台元暗し…とはよく言うけれど…)
カミラは心の中で良輔の不幸を悼んだが、それより美国の話す、土緒夏という男の方に興味を持った。
(みくにちゃんが言うとおり、そんなに魅力的な男なら、私が食べちゃおうっと…)
「友達の物は私のモノ。私の物は私のモノ」
小声でごにょごにょ言うカミラちゃん。
「えっ?何か言った?カミラちゃん」
「いや、ちょっと。このトマトジュースおいしいね」
カミラちゃんはストローで残ったジュースを吸い上げた。




