アレクと裸エプロン その2
通常は猫に化けてるから…という彼女の言葉に騙されて、安アパートでなし崩し的に同棲をしているわけだが、妹の満天にばれた時はちょっとした修羅場であった。
「お兄様は硬派で、夏妃お姉様一筋だと思っていたのに、こういうことをなさるのですか」
「いや、これはいろいろとあって…それに一人でも多く側室を集めないと困るって、ハンのじいさんが言ってたじゃないか?」
「分かっています…分かっていますが!」
正室の夏妃には嫉妬しないのに、同じ立場だと何故だか腹が立つとこの勝気な妹は言った。ただ、側室は序列の違いは階級間で絶対服従が原則であった。満天は中学1年生にもかかわらず、この10歳近く年上の女性に自分が訪ねてくるときは猫の格好でいるようにと命令したのだった。兄の側に女性の姿を見たくなかったのだろう。
それで満天は夜討ち朝駆けでアパートを訪ねてくるから、アレクサンドラも同棲中とはいえ、元馬と落ち着いていちゃいちゃできなかった。元馬にとっては幸いだったが…。
だが、今日は満天もどうしてもこれない用事があるということで、アパートには来ない。アレクサンドラにとっては愛しの魔王様と愛し合うチャンスなのだ。だが、当の元馬は、間違いでアレクサンドラと関係を持ったとはいえ、やはり好きなのは夏妃。慕ってくれるアレクサンドラには悪いが、淫欲に溺れるつもりは全くなかった。
「殿下、殿下のよいところは正直でまっすぐなところ。変に小細工するのはよくないと思います。スバル殿にも率直に誠実に接すれば、きっと心を開いてくれます。側室として運命づけられていれば、そうなるはずです。私のように…」
アレクサンドラと元馬が出会ったのは、側室戦争の終盤、戦場で相対した。同じ拳系の武器だったので、まさに拳を交えた死闘を繰り広げた。あの時、まさか、こんな関係になるとはアレクサンドラも思ってはみなかったが、やはり運命なのだろう。
「殿下、食事の後、お風呂に入ってから…その…あの…私にお情けをくださいますか?」
「えっ、いや、その…君は確かに魅力的だし、そりゃ、俺も一度はやってしまったけれど、俺は夏妃が好きだ。だから、こんな関係は…」
アレクサンドラは元馬の唇に人差し指を押し付けた。
「分かっています。夏妃様が一番で結構です。私は2番、いや、3番目でもいいです。こうやって短い時間でも魔王様に愛していただくことで、私は魔界のために戦えるのです」
「その仕組み、どこか間違っていないか?そりゃ、男(魔王)にとっては都合がいい話だが」
アレクサンドラは言う。側室は序列で生まれ持った力は決まるが、後天的な要素でその力は伸びる。いかに魔王に愛されているかで序列を超える能力が身に付くこともあるのだ。
「アレクサンドラ、つまり、側室は魔王に愛され、慈しまれると能力以上に強くなるというんだな」
「はい。アレクとお呼びください、殿下。私は側室の中でももっとも敵と接近して戦う直接打撃系です。これはこれでなかなか勇気がいるのですよ。その勇気は、殿下にどれだけ愛されているかで決まるのです。だから、夏妃さまのためにも私を愛して」
「ア…アレク…、それで君はいいのか?」
「殿下、それが私の望みなんです」
元馬の脳裏に愛する夏妃の顔が浮かんだ。だが、今は目の前の健気な女性への思いを強くすることにした。そっと口づけをする。
「殿下、お風呂は後でいいのですか?」
「あ、ああ」
「殿下、あの…初めてじゃなくてごめんね」
この言葉はすでに元馬が抱いてしまったからではない。おそらく、その前のことを言ってるのであろう。なにしろ、彼女は前魔王の側室であったのだから。