アレクと裸エプロンその1
ちょっとしたきっかけで男女の仲は進むといいますが、元馬の場合は、夏妃への思いがカラ回りした結果…合掌
「元馬様、それはスバル殿の言う通りだ。そのような言い方で元馬様に仕えようなどと思う女はいないと思う」
元馬の安アパートで台所に立ち、なぜか味噌汁を作っているアレクサンドラ・ド・バレリウス。元馬は畳に寝転がり、途方に暮れていた。
「それは隆介にも言われた」
「お前、いきなり側室になれ!なんて、どれだけ上から目線なんだ?」
生徒会室で隆介にたっぷりと嫌味を言われた。正直、夏妃一筋の元馬に他の女を口説けというのは超酷なのは隆介も認めている。そういう隆介も夏妃一筋で、彼女の前ではヘタレなのだが、朴念仁の元馬よりは自分の方が上だと思っている。
「いや、俺はまだるっこしいのは嫌いだから結論を言ったまでだ」
元馬は体を横にし、アレクサンドラを見て思わず、息をするのを忘れた。その後姿!
学校から帰ってきたときにはまったく気がつかなかった。派手なエプロンだなと思った程度であった。形の良いお尻に食い込んだTバックの下着にノーブラ…男の夢、裸エプロンだったのだ。しかも、鼻歌を歌いながら少々大きめのお尻を左右に振り、味噌汁の味見をしているアレクサンドラ…
(こいつ、戦った時に下着だけになって「きゃあ」とか言っていたのに、なんて大胆というか、露出狂になったんだ)
味見をしてくるりと振り返るアレクサンドラ。気品のある顔立ちで、聞けば、魔界の貴族出身のお姫様。前魔王の序列7位の側室。今は激熱の魔王たる源元馬の序列第10位の側室である。
「どうなされた?元馬様。この格好は、はしたないか?」
正直、夏妃には悪いがうれしかった元馬であるが、硬派な心もまだ失われていなかった。
「ああ、女性たる者、もう少し、慎み深い方が俺は好みだ」
心にないことを言う元馬。夏妃がこういう格好だったら、間違いなく速攻押し倒しである。
「そんなこと言わないでくれ。今日は満天がいないから、久しぶりに元馬様と2人きりの夜だ。私なりに期待しているのだが…」
「はあ…」
元馬はため息をつく。そう、あの出来事が間違いであった。アパートの軒下で見つけた茶トラの子猫。ケガをしていたので部屋に連れ帰ったのだが、翌朝になると子猫はいなかった。代わりに台所で立つ背の高い女人が…元馬の好きな味噌汁の匂いを嗅いで、朝一番に元馬のラブラブビジョンが発動してしまった。
「な…夏妃?」
そう夏妃がいつぞやにあったように朝ごはんを作っている。そっと近づき、その夏妃を後ろから抱きしめる元馬。
(あん、そんなに抱きしめたら痛いよ、元馬くん)
「うあっ、いきなり抱きつくとはどうしたのだ魔王!」
「俺のために朝ごはん作ってくれているの」
(お礼よ…それとも、ごはんだけじゃダメ?、あん、そんなところに手を入れちゃ嫌)
「かくまってくれた…お礼のために作っているだけだ…あん、そんなところ揉んじゃ…嫌」
「本当に嫌なのか?なんならやめちゃってもいいけれど。嫌ならもう一度言ってごらん」
(そんなこと、夏妃の口からは言えない)
「そんなこと私からは言えない」
「いいよね。君を抱いても…」
「元馬様、あなたはとてもたくましいわ。今までに見た男の誰よりも…前魔王さまよりも素敵だわ」
(前魔王さま?)
実はここでラブラブビジョンから目覚めるフラグがあったのだが、元馬は見逃してしまう。
夏妃一筋ルートから、複数攻略ルートへ突入してしまったのだ。
「キスして…元馬様」」
そっとキスをする…その場で崩れる元馬とアレクサンドラ。アレクサンドラの体から光が放たれる。まだ、相手が夏妃だと思い込んでいる元馬は大胆にもそのまま、押し倒してしまった。
1時間後…興奮冷めやらぬ元馬は、自分の布団でぐったりとして自分の胸に顔をうずめているアレクサンドラを見て固まってしまった。
(いや、なぜ?俺は夏妃と…その、ことを及んだんじゃ?)
だが、うっすら、とろんとした目を開けてアレクサンドラがとんでもないことを口にした。
「元馬様、体の力が入らない。こんな激しいのは初めてだ。」
「いや、初めてって…」
「1時間で3回も、しかもすべて後ろからなんて、さすが魔王様。こういうこと、初めてなのにお・ま・せ・さん」
(どうして俺が童貞だと分かったんだ?)
「いや、後ろといったって…えっ?後ろからだって!」
「でも、4回目は優しく顔を見てしてくれるのでしょう?」
元馬の首に手を回すアレクサンドラ。元馬と側室戦争では拳を交え、圧倒的な力で蹂躙されてしまったために、その力にほれ込んでしまったのだ。猫になって逃げだしたものの、けがと疲れで倒れていたら、当の元馬(魔王)が優しく解放してくれた。これで恋に落ちないわけがない。
朝起きて、愛しの魔王様の寝顔を見ていたら、急にお世話がしたくなり台所に立って朝ごはんの支度をしたのだ。アレクサンドラは魔界では中流貴族の令嬢だったが、中流だけに自ら料理を作ることもあったし、こちらの世界に来てからはこの国の典型的な朝ごはんに出てくる「味噌汁」なるものがお気に入りだったために、作ってみたのだが、それがよかったのか、起きてきた愛しの魔王に押し倒されてしまった。
アレクサンドラはとっても幸せな気分を味わっていた。傍らの元馬は複雑な気分で固まっていたが。