スバルと揺れる新記録
スバルちゃんは、流行の「陸上女子」です。一直線に駆け抜けるイメージですが、
走るのに邪魔なものを与えました。運動系女子だけに簡単には落ちません。
元馬は陸上部の練習を眺めている。もちろん、短距離走でダッシュを繰り返している短距離選手の群
れ、特に宮川スバルを見ている。
「さすが、揺れる新記録というだけあるなあ…」
ダッシュの度に右左に揺れる2つの双丘。揺れるたびに反動でスピードが加速されるのではないかと錯覚する揺れ方である。陸上部を眺めている男子も何人かいるが、みんなスバルが走ると会話をやめて注目する。無論、揺れる双丘を中心にだが…。
練習が終わって、スバルは他の陸上部の女子たちと会話をしながら手洗い場に来た。蛇口をひねって水を出し、手を洗う。水をすくって口を濡らした。そして首にかけたタオルで顔の汗をそっと抑える。そこへ元馬がスポーツドリンクを目の前に差し出した。
「宮川、差し入れだ。冷えているぞ」
キャーと周りの女子が騒ぐ。女子には結構人気のある源元馬が、一人の女子に差し入れ。これは何かあると思わないわけがない。
「もらえないわ、なんでくれるのよ」
「ちょっと、話があるんだが、いいか」
「3分なら時間をあげます。でないと、今後また付きまとわれるから」
宮川スバルはそう素っ気なく言った。
(くーっ。普通、おっぱいキャラならもう少し愛想がよいと相場は決まっている。こういう冷たい反応は貧乳キャラだろ!)
と俺(夏)なら突っ込みを入れたくなるのだが、元馬は、
(くーっ。どうして夏妃一筋の俺がこんな軟派なことをしなくてはならないんじゃあ)
と己の不幸を呪っていた。硬派、夏妃一筋の男がその夏妃のためにこれから女の子を口説き落とさなければならないのだ。
元真とスバルの後姿を見て、他の女子は
「えーっ!源くんて、夏妃さんと付き合ってるんじゃないの?」
「いや、夏妃さんって、3年の宗治先輩と付き合ってるから、スバルに乗り換えるんじゃ?」
「私は生徒会長って聞いたけれど?」
「え?みんな週刊乙女林見てないの。元馬くんと夏妃さん付き合ってるよ」
「じゃあ、まさか?」
「ふたまた?あの元馬くんが、うそー」
「でも、こんな堂々とふたまたなんてしないよね」
みんなこっそり、2人の後を追う。
元馬は体育館裏にスバルを連れて行った。
(約束時間は3分だったな?いや、ここに来るまで3分以上たったが、よかったのかな)
なんて律儀な元馬。
スバルはたタオルを首にかけて腕組みをしている。
「源君、時間がないわ。要件を言いなさい」
元馬はスバルの目を見て、右手でスバルの肩を掴んだ。
「ズバリ言う!俺の側室になれ」
「・・・・・・・・・・・・・」
ふつう、「俺と付き合え」とか、「お前が好きだ」とかというセリフだろう。たぶん、そんなことを言うだろうなと思ったスバルはあんぐりと口を開けてきっちり10秒固まった。
「宮川、返事はYESかNOか、いや、YES以外俺は認めない!」
強烈な平手打ちが元馬の頬を直撃する。
「そ…側室?側室ですって?えっ?あなた、何時代の人?あなた、お殿様なの?」
殴られた元馬は痛む左頬を抑えて律儀に答える。
「いや、俺は魔王だが…」
怒りに身を震わせるスバルには「魔王」という言葉が頭に入ってこない。
「側室って愛人ということよね。正室、本命は夏妃さんかしら。そう、夏妃さんに相手にされないから、私と遊ぼうってこと。見損なったわ!」
スバルはこれまで源元馬の直情的な性格を嫌いではなかった。体育会系の熱血硬派はどちらかというとタイプで、以前は元馬に少なからず好意を持っていたことは事実である。でも、今日、他の男子と同じように自分の練習風景をイヤラシイ目で見ている姿を見て、幻滅してしまった。挙句の果てに「愛人になれ!」これで怒らない女子がいるわけがない。
「答えはNO!バカにしないで。正妻ならともかく、愛人なんかになれるか!」
「いや、愛人じゃなくて、側室」
「一緒じゃ!」
今度はグーで元馬の腹にパンチし、前かがみになったところに左の平手打ちをお見舞いする。元馬は魔王に覚醒しているのだから、人間の女のそのような攻撃は蚊が止まった程度にしか感じないのだが、それよりも拒絶された精神的ダメージの方が大きい。
(いったい、何がだめなんだろう?俺は正直な気持ちを言ったまでだが…)
夏妃の時だって思ったことを口にした。そうしたら、夏妃が看病に来てくれて、あれよあれよという間にデートする中になり、そしてキスまでした。男たるもの、ストレートであれ!というのが元馬のポリシーであるが、このスバルの冷たい態度にどう対処していいか悩んでしまった。




