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魔王様と16人のヨメ物語  作者: 九重七六八
覚醒モード
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夏と生徒会長 ~覚醒モード~

第4部登場人物

土緒夏(女)…転生した主人公 優等生で性格もよく学校のアイドル 天然なところがあるが、本当はしたたかな一面も…

橘隆介たちばなりゅうすけ…主人公の幼馴染の生徒会長。頭脳明晰、スポーツ万能のスーパー高校生。でも、女には特に夏にはヘタレらしい。

源元馬みなもとげんま…裏生徒会長を名乗る隆介のライバル。少々熱血が過ぎる好男子。女夏に一目ぼれしてしまう。

橘隆介たちばなりゅうすけとは幼稚園からの腐れ縁である。はっきりといえる悪友である。遊ぶときはいつも一緒。なんでも話せる奴である。男の自分から見てもなかなかの男前で、家はホテル、銀行、鉄道などを経営する橘財閥の三男坊である。


自分とつるんでバカばかりしているが、頭は驚異的によくこの学校で1番。立松寺ですら、一度も勝った事がない。スポーツも万能で、中学時代はバスケ部で全国大会も出場するというスーパー高校生である。当然、女にはもてるはずだが、俺はそれに関して親友だけによく知っている。


「隆介は、女に対してはクソ真面目でヘタレだ。」


隣の立松寺が聞く。

「あの顔でヘタレはないでしょう。かなりのイケメンよ。」


2階のベランダから外で2,3人の男子生徒と話している隆介を見ながら、俺は言う。


「立松寺~それって、俺よりもいい男って思ってるのか?」

「なにバカ言ってんの!」


立松寺が怒って詰め寄る。


「いや、だって心配で・・。俺の好きな立松寺が他の男に取られるのは絶対嫌だ。」


そう、今の自分は正統派美少女の姿でイケメンどころではない。むしろ、立松寺が女の自分を見捨てて、他の男に恋をしてもおかしくはないのである。立松寺が他の男のものになるなんて考えただけで、俺の心は張り裂けてしまう!


「やだ、土緒くんたら・・」


立松寺のほおが急にピンク色に染まってくる。

うわあ・・可愛い・・可愛すぎる。思わず、立松寺を見つめる。


「立松寺~」


思わず、立松寺の手を握る。だが、不意にこんな声が耳に入ってくる。


「立松寺さんとドーナツちゃんて、最近いつも一緒にいるよねえ」

「なんだか、危ない感じしない?あの二人。何だか、女同士でラブラブみたいな」

「いやあだあ・・。きゃ・・」


おいおい・・聞こえるって。おかげで立松寺は手を振り払ってしまった。(くそ!)


実のところ、今回のターゲット、橘隆介と女夏の関係はこれまでのところ極めて密接だ。

まず、生まれた病院が同じ。同じ幼稚園のサクラ組で同じ席。小中学校通じて9年間同じクラスという仕組まれたとしかいえない関係。


さすがにこの乙女林高校では、クラスは違ったものの、2年生になって生徒会役員で顔を合わせる中らしい。生徒会では隆介は会長をしているのだが、自分はその第1書記。この学校は、生徒会選挙は会長選だけで、当選した会長がその他の役割を指名して組織を作るらしい。


役員の数は自由だが、現在は副会長1人、書記2人に会計1人という陣容。第1書記は会長の秘書兼スポークスマンの役割を担う。会長の女房役である。

 

最初はここまで運命を感じる密接な幼馴染状況なら、隆介の奴、魔王当確じゃんと思ったが、さすがヘタレ。生徒会室で二人きりでも気のアルそぶりすら見せない。男の時と同じで幼馴染と言う点は同じであったので、生徒会役員の指名もただ単に知っている奴で使えそうな奴ということで指名か?と思い始めた。


「でも、幼馴染って、結構、ドラマや漫画じゃあ、ヒロインになるんじゃないの」


立松寺が書類を持って生徒会室へ一緒に向かう。一応、立松寺は自分の助手ということになっている。


「ちっちち・・。それは甘いよ。確かに幼馴染は未来の結婚相手みたいな描かかれ方するけど、大抵、ヒロインのライバルでトンビに揚げをさらわれる役割だし、主人公の男も結婚は無難な女を選ぶかもしれないが、恋愛は自分が知らない女に惹かれる。分かりきった奴には魅力を感じないものだ」


「何だか、分かったような口を利いてるけど根拠はあるの」

「いや、ゲームやアニメの一般的な見解を言ったまで」


はあ~と立松寺の溜息。だが、俺自身はこの困難なミッションに思いを巡らせた。100日以内にこの隆介が自分にベタボレになり、ラブラブキス(自分で言って背中にぞわ~とした寒気が・・。)をすればいい。彼が魔王ならそれで決まりだ。


だが、魔王でなければ次のターゲットに・・となる。だが、キスしておいて次の男に行くのはどうなんだ?それに魔王が復活したらどうなるんだ?どんな力があるか未知数だし、そんな変な奴を復活させる行為はファンタジーの世界では厳禁である。


もし、リィが言うようにヨメになる女夏と自分が分かれればいいが、もしウソだったら?自分はそのまま魔王のヨメ決定である。哀れ新妻生活が始まってしまう・・これは深刻である。ヨメだとキスどころか、それ以上されてしまうのは間違いない。


(ど・・どんなこと?)鼻血がすーっと出てきた。思わず、鼻ではなく、お尻を押さえてしまう俺。(なに想像してんだ!?)

だが、リィの言葉を信じるなら100日以内に魔王を探さなければ、これもアウトである。さらに倒そうとする勢力があることをリィはほのめかしていたから、邪魔が入ることも予想できた。いったいどんな奴か?


(それにしても・・・男時代の親友が候補の一人とは・・やりにくい。)


それに・・・俺の心の中に一抹の不安があった。何だか、自分でないようなそんな気持ち。

そうだ。俺はこれまでの女夏の記憶は一切ない。ということはこの17年間、確かに女夏として暮らしてきた奴がいるわけで、そいつが心の中に眠っていて今はいないだけなのだ。


今日は金曜日、午後4時に定例会見がある。この高校の生徒会はかなり活動が活発で、週に1回、定例会見で活動報告と一般生徒の質問を受ける。生徒会長の隆介が直接、会見に臨むことがあるが、通常はスポークスマンを務める夏が行う。


隆介が会見するときは、新聞部や放送部の代表の他に女生徒が多数黄色い声を上げるが、夏の場合はファンの男子が前列にひしめくのだ。ファンがいるというのも驚きだった。さすが魔王のヨメ候補だ。


「それでは、定例会見を行います。生徒会書記、土緒夏さん、お願いします。」


会計の1年生新堂ひかるが司会をする。彼は1年生ながらも次期リーダーとして隆介に抜擢された逸材だが、まだ、中学生のにおいを残す男の子という感じ。幾分、高い声の元気な少年なのでこれまた年上の女生徒を中心にファンが多い。


「うおおおっ・・。ドーナッツちゅあん!」

「今日もかわいい・・ファンシーリングドーナッツ!」


ウホウホウホ・・変なリズムで踊り始める。コアな夏のファンである。アキバのアイドルと勘違いしてないか?俺はその輩たちにも輝くような笑顔を作って壇上に上がる。媚を売っておくのも何かの役に立つかもしれない。


「えっと・・生徒会は来る体育祭に向けて、全校生徒が楽しめる企画を募集します。実際に活動する体育委員会と共同で近日中に募集方法を発表する予定です。」


俺は用意してきた原稿をにこやかに読み上げる。


「最近、男女交際が公然と行われていて、廊下で手をつないだり、周りの目を気にせずいちゃいちゃする姿が見られます。これは由々しき問題で、生徒会としてはそういう態度は自粛するよう要望します。」


(そうだ、そんなうらやましいこと公然とやるんじゃない・・。)心の中の俺。


「ドーナッツさん、それは生徒会が男女交際を禁止するということでしょうか?」


新聞部の生徒が質問する。確か、2組の遠藤良太えんどうりょうたである。男だった時には他の男子とともに一度ラーメンを食いに行ったことがある。


「いえ、交際を禁止するわけではありません。ただ、高校生らしい清純な交際を望むということです。」


(そう、おれと立松寺みたいな・・キスまでだ!)


「ドーナッツさんは、そういう交際をしたいと思っているということでしょうか。」


今度は「週刊乙女林」という雑誌を作っているサークルの女子が聞いてくる。3年の三ツ矢加奈子である。この雑誌は校内の噂話や恋愛話を売りにしている雑誌である。結構、人気を博しているようで生徒会メンバーも度々、取り上げられる。この三ツ矢という女生徒、将来は雑誌編集者を目指しているということだけあって、かなり購読者の関心をひく記事になるような質問をズバズバしてくる。


「そういう相手がいれば・・・そういう交際をしたいです。」


おおっ・・と周りを囲む男子生徒の歓声が起こる。


「噂によれば、ドーナッツさんは最近、同じ組の立松寺さんと仲がよろしいようで、一部、ゆりじゃないか?といった疑惑が浮上していますが。」


(ええっ・・ゆり?って、女の子が女の子を・・って奴?)俺は慌てて、かぶりを振った。


「立松寺さんは、最近、私の悩みを聞いてくれるようになった親友です。」


(ちくしょう・・親友じゃなくて本当は彼女なのに・・)すました顔で答えながら心は泣いている俺。


「わたし、ノーマルですから。やっぱり、男の子が好きです。きゃ・・言っちゃった。」


ふいに自分じゃない声に我に返った。いや、言ったのは自分だが自分の意思とは違う言葉が出てくる。


「ドーナッツさんは、生徒会長とできているという噂もありますが、それは本当ですか。」


「ええっ・・そんなこと答えられません。」


もじもじする俺。待て、そんなしなを作っては、誤解されるではないか。

バチバチとデジカメのフラッシュがたかれる。心の奥底に眠っていたはずの女夏がしゃべっているのだ。俺は必死で代われ!と女夏に向かって叫ぶが、心の中の女夏は俺に向かってアッカンベーをした。こいつ、可愛い顔してかなりしたたかな性格のようだ。


「とにかく、私は特定の人とはお付き合いはしていません。夏はフリーです。私の心をときめかす男の子募集中です!」


うああああっ・・・男子生徒共の大歓声。中には俺と付き合ってくれ~という声も聞こえるが百万点の笑顔で夏は答える。


(この女、超マジメのマジ子さんじゃなかったのか?)


普段は真面目で清純派だった夏の思いがけない発言で、定例会見がアイドルコンサートのようになってしまった。三ツ矢加奈子は、スクープ記事をモノにしたとばかりにメモを走らす。強烈な印象の雑誌の見出しが浮かんだようだ。


盛り上がる会場でスッと手を挙げた生徒がいた。司会の新堂ひかるが最後の質問ですと指名する。立ち上がった人物を見て、夏も立松寺もあ然とする。赤い女、リィ・アスモデウスである。


「留学生のリィです。この学校には正規の生徒会の他に裏の生徒会があります。その影の生徒会が体育祭で正規の生徒会に挑戦したいと言っていますが。」


おおっ・・・会場にどよめきが起こった。放送部のテレビカメラがリィと夏を交互に映す。

確かに影の生徒会と称する団体があることは確かである。というのも、前回の生徒会選挙で隆介に破れた対立候補が、選挙の無効を叫んで同士を集めて作ったのだ。


その対立候補というのが、物静かな貴公子風の現生徒会長、橘隆介とは違い、熱血体育会系で少々暑苦しい。家はこれまたホテル、鉄道、デパート等を経営する隆介の商売敵、源グループの御曹司なのだ。


「そういう団体があることは正式には認められていません。認められていない団体が挑戦・・と言われても・・」


女夏がどぎまぎして答える。男夏は心の中でリィがなぜここに現れたか考えていた。そもそも留学生?高校の制服がぱつんぱつんで、シャツのボタンがはじけそう。こんなイケナイ制服姿は反則である・・というより、何か裏がありそうだ。


そう思ったとき、会見場になっている教室の後ろのドアががらり・・と開いて、熱血漢の裏の生徒会長、その人が現れた。


「聞いているか!隆介! この俺、源元馬みなもとげんまが率いる真の生徒会は、お前の偽生徒会を木っ端微塵に粉砕し、どちらが正義かはっきりさせてやる」


そう宣言し、ドカドカと会見場正面に進む。リィ・アスモデウスも立ち上がり、その隣に立つ。元馬の子分と思われる男子生徒も立ち上がる。


「このリィを俺の真の生徒会の副会長に任命した。立っている生徒も生徒会役員としてこの学校を盛り上げて行くことを誓っている。そして、夏さん、この勝負に勝ったら俺と付き合ってくれ!」


「え?」


呆然とする女夏・・・。


「いいか!隆介!生徒会も夏さんも俺のものだ!この挑戦、受けてみろ。それとも逃げるのか?」


放送部のカメラに目線を向けてわざとらしく宣言した後、どさくさにまぎれて、元馬は夏の手を握る。目に決意の炎がめらめらと燃えている。


(ア・・熱い・・というより暑苦しい。)


バチバチとフラッシュがたかれて会見場は大混乱に陥った。


(それにしても・・・リィの奴、いったいどういうつもりだ。最初のターゲットは橘隆介じゃないのか?)



「で、君は元馬に圧倒されて、何も言えず、結果、生徒会が挑戦されたという事実だけが残ったと言うわけか。」

(源元馬、吼える。生徒会に挑戦状!)

(ドーナッツちゃん争奪戦!恋の行方はどちらに!)

(オーマイハニードーナッツ、裏生徒会長の大胆告白、交際宣言!!)

(生徒会長とは破局?ドーナッツちゃんの新しい恋人発覚!)


生徒会室の机の上には、学校新聞号外、週刊乙女林、スクープ写真紙など校内メディアが発行する作品がずらりと並んでいる。手を握られている夏の困った顔や元馬とのツーショットの写真が大きく取り上げられている。


「ご・・ごめんなさい。」

「まあ、いい。夏、お茶を入れてくれ。」


そそくさとポットからお湯を注ぎ、急須を温め、さらに置いている隆介の湯のみ茶碗(推定3万円の茶碗)に煎茶を入れる夏。その手際のよさから、たぶん、いつも隆介のためにお茶をいれていたのであろう。心の中で男夏は大きく溜息をついた。


「まあ、元馬が君の事を好きだとわめくのはしょうがない。人間、誰かを好きになることは自由だ。だが、それを受け入れるかどうかは相手次第。そうだろ、夏・・。」


隆介が茶碗を置く夏の手を握った。


(えっ・・ちょっと待て・・。)


二人きりの生徒会室である。今日は他の部員も来ない予定だ。もしかしたら、ヘタレの隆介の奴、勇気をふりしぼったか?このままだと何かされそうな雰囲気が漂う。思わずぎゅっと目をつむってしまう俺。

(いや、これはOKサインじゃないぞ。)


第3者的に見れば告白OKよ・・状態とも見えなくもないが、逆にそんな態度を取られて隆介の奴は急に真っ赤になって手を離した。


(おいおい、幼馴染なら何度も手はつないだだろうに・・。俺まで恥かしくなるじゃないか・・。)


「君が誰と付き合おうと勝手だけど、幼馴染があの暑苦しい奴と付き合うのは何だか、面白くない。本来ならあのような非正規団体と争うこと自体ありえないが、有能な生徒会のメンバーを盗られるわけにはいかない。正々堂々と勝負して叩きのめす。」


照れ隠しなのか、いつも冷静な口調の隆介が今日は激しい。日ごろの無関心な感じとは少々違う。


(こういう隆介は、男時代には見たことがないなあ・・。もしかしたら、嫉妬で積極的になろうとしてるのか??)


この分だと隆介は女夏にメロメロに惚れていると思っていい。もう少し様子を見て、間違いないと思えば、男のプライドを捨ててキスしてやる。できれば、女夏の時にして欲しいがどうやら人格の主導するのはランダムに変わるようで、昨日、急に女夏が目覚めたが朝起きたら俺に主導権が戻ってきていた。男だろうが、女だろうが、とりあえずミッションは進めておくにこしたことはない。


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