みくにちゃんの大冒険 その6 ~胎動モード~
「それで、君はドミトル先生の秘密を知ってしまったから、消されようとしたというの」
「は…はい。そうなんです。絶対そう!ドミトル先生は学校の女子たちの敵です」
(いや、そういう色恋沙汰ではないだろう。あいつの本命は姉貴のはずだし。たぶん、美国ちゃんは、食事の現場か何かを目撃して…そうなるとやっかいだな。ドミトルの奴、秘密がばれるのを嫌って目撃者を消そうとするに違いない。この子が危ないし。それに先ほどの闘いを見るとまだ学校には魔界や天界の関係者もいそうだ。)
美国ちゃんを送っていきながら、俺は思案に暮れた。あと何人かこの世界にいる側室候補を見つけ、魔界に行かなければならない。自分たちに残された時間はあまりないのだ。
魔王の側室は単なる愛人ではない。魔界においては魔王を助ける戦士、一軍を率いる将軍に該当するのだ。その戦闘力は1人で何百、何千人の軍勢に匹敵すると言われている。
あの巨大なケルベロスを一撃で倒したリィの力を見れば、納得せざるをえない。
(それにしても…)
俺は隣を楽しそうに週刊乙女林でのエピソードを話しながら歩く女の子を見て、
(普通の子というのもいいもんだなあ)
と思った。美国ちゃんなんかは、この一連の出来事には関係ないだろう。なにしろ、このキャラでは側室とか、戦う!なんて論外である。だが、そこかに一抹の不安みたいなものを感じていた。俺に話しかける言葉の端々に「好意」みたいなものを感じたからだ。
「あの…先輩聞いてます?」
「あ、ああ」
明らかに生返事で私の話なんか聞いてない夏先輩。
(あ~ん、もう!)
この千載一遇のチャンスに何話してるの!わたし。こんなチャンスなんてきっとない。
(せ…先輩が好きです!と告白するチャンス。そりゃ、あんなきれいな彼女さんがいるから100%断られてしまうかもしれないけれど、これは私の気持ちの問題。告白することでこの気持ちもすっきりするに違いないわ…)
私は勇気をふりしぼった。一世一代の告白だ!
「あのう…先輩、あの、その、美国は先輩のこと…す…す…」
急に先輩が立ち止った。私のハートがドキン、ドキンと脈打つ。
(さあ!言いなさい!美国)
「みくにちゃん、着いたよ。雪村って表札だから君の家だよね?」
がーん…
今日ほど学校から私の家が近いことを呪ったことはない。近所のおばさんが、
じろじろ見てくるので、私としてはお礼を言って夏先輩と別れるしかなかった。
あ~ん…美国のバカバカ…
でも、家に入ろうとする私は急に手を掴かまれた。
(えっ?せ、先輩…何?)
こんなシチュエーション、少女マンガで読んだ中にあった。
振り返ると愛しの夏先輩が…
ぐいと両肩を掴まれて先輩の顔が近づいてくる。
「美国、君を返したくないんだ。君を愛してる…」
あ~ん、こんなところでダメだよ。玄関先なんてロマンチックだけど、お母さんに見つかっちゃうよ。それに近所のおばさんもガン見してるし…でも、美国、先輩となら…
そっと目をつむる私。
「美国ちゃん、美国ちゃん…ちょっと、聞いてる?」
両肩を揺さぶられて目覚める私。口はにゅうっと突き出したまま。
「ふえええ?せ、先輩?」
妄想から覚めて急に恥ずかしさで足の先から頭の先まで真っ赤になる私。
「いい?美国ちゃん、今後、ドミトル先生には近づかないこと。本当なら、明日からしばらく学校休んだ方がいいけれど、そんなわけにはいかないよね。危ない目にあったら、とにかく生徒会室に逃げ込むこと。いざとなったら、立松寺やリィ、そうだ、1年生なら新堂ひかるちゃんに頼ること、分かったね?」
「は…はい」
「それじゃ!」
と後ろを向いて、手を挙げる夏先輩。後姿はかっこいいと思ったけれど、何だか腹が立つ。
(三ツ矢編集長も夏先輩も、ドミトル先生に近づくなの一点張り。もう、美国のこと子供扱いして!見てらっしゃい!)
私は決心した。明日から極秘の取材でスクープをものにしてやる。ドミトル先生の悪事を暴いて、週刊乙女林の敏腕記者としてデビューしてやるわ!
「おーほほほっ…」
近所のおばさんたちが集まって、私の方を見てひそひそ話している姿にもめげず、私は左手を腰に右手の甲を頬に当てて高笑いを響かせた。