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魔王様と16人のヨメ物語  作者: 九重七六八
胎動モード
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みくにちゃんの大冒険 その5 ~胎動モード~

桃花先生とドミトル伯爵の戦い中に救世主現る…みくにちゃんのピンチは去りますが、主人公の夏の方が別の意味で窮地に立たされます…

「立松寺さ~ん…それは誤解です!」

「おい、どうしたんだ!何してる!」


2人の学生が大きな声で近づいてくる。一人は女子学生、一人は男子。カップルで歩いていたところでこの騒ぎを聞きつけたのだろう。普通、争っているところに駆けつけるのには躊躇するものだが、2人は躊躇しない。戦っているのが男の方は2人のよく知っている奴で、女の方は背後で顔が分からないが、明らかに一連の騒ぎに関係あるであろう。魔界の過激派の幹部であるドミトル伯と同等に戦っているところをみると人間ではありえない。

 2人は土緒夏と立松寺華子、つまりイレギュラーの魔王とその正室であった。遅くなったので華子を駅まで送る途中でこの騒ぎに気付いたのだった。夏はドミトルと戦うなんてありえないと思ったが、今は最強のヨメさんである華子がいるので、その点は安心しており、傍らに倒れている女子生徒を救わんがために大声を上げた。


「ちっ…ヘタレ魔王様に妃殿下ですか。魔王様はともかく、妃殿下の札の舞を食らうとやっかいだ。エゼル嬢、ここらで中断しますか。その女生徒はまあ、お馬鹿さんで有名だから私のことを話しても信じてくれる人間はそうはいないでしょう。ここは様子を見ますよ」


「そうしてくれるとありがたいわ。私の職場でやっかいごとはごめんだわ」


「あなたは消えなくていいんですか?」


「そうね。土緒くんは私の好みではないし、ここは私も消えておくわ」


ドミトルもエセルも姿を消した。


「おい、大丈夫か?おい!」


ぺちぺちとほっぺたを叩かれて私は本日2回目の気絶から立ち直った。目を開くとな…なんと憧れの夏先輩ではないか!


「せ…先輩~、みくに、怖かったよう」


無意識に思いっきり抱きついた。傍らに彼女さんの立松寺さんがいるなんて気が付かない私。おかげで先輩が大変危険な状態になってしまった。


「あら、ずいぶん、親しいようね。土緒君」


「いや、これはその、俺にもわけが分からなくて…」


小さい女子に抱きつかれてどうしてよいか分からない俺。最初は中学生か小学生?と思ったが立松寺と同じ制服で胸のバッジで1年生と分かった。後輩には違いない。でも、立松寺の目が炎に包まれている。ぐいと耳を引っ張られて引き裂かれる俺。


「全然、知らない人に抱きつくわけがないでしょう。白状しなさい!」


「いや、白状も何も…」


実のところ、同じシチュエーションでリィの時も、最近ではファナの時も白状させられた。

ファナ編はリィも含めて相当な修羅場となったから、これは後日語られるが、今回ばかりは俺は白だ。信用ないけれど…


「いや、本当に知らないよ。第一、1年生の女子には知り合いいないし、接点もないし」


「う~ん。確かに年上好きの土緒くんの趣味じゃないわね」


(年上好きとは失礼な…確かにリィもファナも年上だが…)


立松寺はその小さな女の子の傍に座る。そして手を取って優しく頭を撫でた。


「あなた、乙女林の1年生だよね」

「は…い…雪村美国ゆきむらみくにっていいます」



 俺はその名前を聞いてほっとした。全然知らない名前だ。ひょっとかしたら、自分でも知らないうちに手をつけちゃったのかしら?と不安になったが、記憶にはまったくない。リィやファナみたいに


「責任とってね」


の展開にはならなくて心から安堵した。


「あなた、どこかで見たことある。確か、週刊乙女林の三ツ矢先輩のところで」


「は…はい。私、週刊乙女林の記者やってます。立松寺先輩」


うるうると涙をためて夏先輩を見る私。先輩がぎくっ…として目をすらす。


「私と土緒君のこと知ってるようだけど、それは乙女林の記者だから?」


「えっと…それもあるけれど…」


ちょっとお馬鹿で考えが足りない私は爆弾発言して、ますます夏先輩を危険に追い込んでしまった。


(ごめんなさい!先輩)


「せ…先輩には、私のうさぎパンツ見られちゃって…その、あの…」


本当は彼女さんの前で堂々の好き宣言をするつもりだったのに、あんまり夏先輩との接点がないものだから、つい一番衝撃的な出来事を口走ってしまった。


「うさぎパンツですって!」


立松寺の目が炎から三角になる。確か彼女は嫉妬深くないと言っていたのに、最近の態度は明らかに嫉妬魔である。


「土緒くん~。こんないたいけな女の子も毒牙にかけたの!あなた、欲求不満解消ならリィやファナとすればいいでしょ」


「いや、してない、してない!リィやファナだって欲求不満でしたわけじゃない」


何だか、話がそれてきた。確かに二人きりだとデレデレするリィもたまらなくかわいいし、ファナは男心をとろけさせる色気で迫る痴女モードで俺の鉄の意志もとろけてしまったが。


「いや、欲求不満であなたはすぐデレデレしてしまうの。リィやファナばっかり可愛がって…望んでくれれば私だって…」


「えっ?立松寺さ~ん?」


華子は顔を真っ赤にしてわなわなを震える。


「と…とにかく、あなたは美国さんを送っていくこと。私はここでいいわ」


かしこい華子は、夏とこの1年生とは関係ないことは頭では分かっていた。何かあったら必ず正直に話すのが土緒夏という彼氏だ。だからと言って、リィやファナとの浮気?を白状させもて気分はよくなかったが、自分が知らないことがないことが華子にとっては安心なのだ。

俺は駅に向かって駆けて行く立松寺の姿を見送るしかなかった。確かに今の立松寺なら人間の痴漢なんて恐れるに足らず。本当ははるかに弱い俺に送られる意味合いはないのだが、そこは彼氏と彼女(正確には夫と妻だが)、やはり他愛のない話をして一緒にいたいのだ。


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