みくにちゃんの大冒険 その2 ~胎動モード~
胎動モードの主人公、みくにちゃんがドミトル伯爵の正体を暴く…はずなのですが、お約束のドジぶりで話がどんどんややこしくなります。
みくにちゃんの恋は成就するのか?
「あの~ドミトル先生はいますか?」
私は職員室のドアを開けて小声で尋ねた。一応、取材の要請は前に予約はしておいたのだが、正確な時間を告げるのを忘れていたので、いなくても仕方がない。案の定、ドミトル先生は職員室にはいなく、校内のどこかにいるらしいということだ。
(あ~ん…広い校内を探さなきゃ…でも、探しているうちにドーナッツ先輩と出会ったりして…)
お約束のようにどーんとぶつかって…(きゃ)とかいって可憐に転ぶ私。パンチラはほんのちょっとがミソ。今日は定番の水色の縞パンだ。以前、不覚にも転んだときには想定してなかったので、ウサギさんプリントのパンツを先輩に見られる大失態をしたが、あの時は顔を見られなかったので幸いした。もし、まともに顔を見られていたら、ウサギパンツの女と言われそうだった。
(でも、今日は水色の縞パン…清楚な中にも少年誌的なちょっとなHな感じでドーナッツ先輩を悩殺するのだ)
でも、残念ながらドーナッツ先輩にぶつかることなく、さらに転んで無防備なパンチラを見せることなく、私にしては上出来にドミトル先生を発見した。
校舎裏の木陰にそのイケメンの外国語教師はいた。私は声をかけようとしたが、寸前で止めた。なぜって?だって、先生ったら、一人の女生徒を抱きしめていたんですもの。
(こ…これって…スキャンダル?教師と生徒がいけない関係?)
びっくりしたけれど、これは思いっきりスクープだ。私はばれないようにデジカメのシャッターを押す。これは消音付の特別な取材用カメラだ。私は先生がどんな言葉で女生徒を口説いているのか気になり、そっと近寄った。もちろん、茂みに隠れて近づく。
いつもはドジの私もスパイ並みの動きである。でも、近づいて思わず体が硬直してしまった。ドミトル先生ったら…あろうことか…女生徒に…そう!
ドミトルは女生徒の首筋に牙を立てた。甘い香りが口いっぱいに広がり、純潔の味が喉を伝っていく。
(うまい…この学校はよい処女がたくさんいるから、食事には困らない。まあ、親衛隊が増えるのも考え物だが…)
吸血鬼であるドミトルが血を吸えば、副作用で吸われた生徒は魅了されてしまう。いつでも食事を提供できる子猫ちゃんになるわけだが、ドミトルは血を吸うのは一度きりとしている。
別に人間界に食事のために来たわけではない。あまり吸うと死んでしまう恐れもあったし、何回も吸うと意図せず、吸血鬼化することもあるので、騒ぎを起こしたくないことからだが、彼の目的は魔王の正室土緒夏妃をモノにすること。組織からはさらってこいという命令だったが、自分のモノにしてしまえば一緒だとこの軟派な吸血鬼は勝手に解釈している。
魔王の正室の血はさぞかし美味だろう。しかも正室にもかかわらず、いまだに生娘ときているからたまらない。3人の魔王の手が付かないうちにさっさと味わいたいところだが、序列8位の側室新堂ひかるがべったりで護衛しているし、3魔王の目も光っている。特に暴虐の魔王である一柳宗治とは戦いたくないと思っている。
戦えば不死の体を持つ彼でも魂ごと滅殺されるに違いない。それでとりあえず、この学校の教師を続けて様子を伺っているのだ。いくら3魔王やその側室どもが私をどうにかしようにも、真昼の学校ではどうにもできないだろう。
現に今日の英語の授業でも夏妃の席に行って甘い声でささやいた。(完全無視だが…)その目標である夏妃も下手をすると攻撃力はないとはいえ、完全回復の力を自分に対して使われると瞬殺されかねない。その緊張感も快感に思えるのはどういうことだろうか。
(いずれにしても…まだ、この学校には側室候補は何人かいるし、魔界や天界の住人も紛れ込んでいる。さらに最近だが、嫌な気も感じる。)
ガサガサ…という音がした。ドミトルは人間の小娘の匂いを感じた。たぶん、ずいぶん前から感じていたのだろうが、甘美な血の味と考え事で分からなかったのであろう。
(しまった!人間に見られたか?)
食事風景を見られたとなると、今後不都合な事態になる。証拠は隠滅せねば…
ドミトルは振り返って茂みを見た。たぶん、この光景を見て驚いて逃げ出すに違いない。不本意だが魅了の能力を使って下僕にするか、血を吸って仲間にするか、いっそ始末するか…ドミトルは出てきた女の好みで選択することを瞬時に決めた。
上玉なら下僕、並みなら仲間、ブスや男、さらに上玉でも非処女なら始末だ。(ひでえ…)
だが、逃げ出すのではなく、その人間はドミトルに向かって来た!正確にいうと転げ出てきたのだ。おそらく、近づこうとして木の根に足を取られたのであろう。まったく、考えられないドジな奴だ。
私はドミトル先生の秘密に迫るべく、そっと近づいた。さっきのデジカメも遠いので映りも不確かだ。近づいて撮れば動かぬ証拠になる。それにあろうことか、ドミトル先生は唇にキスどころか、女生徒の首筋にキスしている。これは…まさか?エッチ?
私の心臓がドクドクと音を立て、顔が真っ赤になってくる。
(こんなシチュエーション、ドラマや映画しかありえない。いや、昼間にエッチなんてありえない!)
「正義のジャーナリスト魂が許さないわ!」
いつも三ツ矢編集長が活動前の訓示で話す言葉が頭をよぎる。でも、そんな正義感が勇み足となって、私ときたらそっと近づくはずだったのに、足がもつれてさらに木の根につまずいて、濡れ場のシーンに乱入してしまった。
右手に握っていたデジタルカメラが転がって、ドミトル先生の足元に行ってしまった。先ほど撮った映像がモニターにくっきり映し出されてる。
「きゃっ…いたた・・・」
「おや、どんな娘かと思えば、かわいい子猫ちゃんではないですか」
ドミトルは出てきた少女が自分好みではないにしても、かわいらしい処女だったので、先ほどの始末するという文字を引っ込めた。こういうチンチクリンも悪くない。足元に来たデジタルカメラを足で軽く踏みつぶした。
そして目をかっと見らいて赤い目でチャームの特殊能力を発動する。一瞬で魅了完了するはずだったのに、あろうことかその少女は、倒れている女生徒の首筋に血が流れているのを見て失神しやがった。これでは魅了ができない。しかも、気を失っている女の血を吸うのは自分流儀に反している。
「ちょっと!お嬢さん…いきなり出てきて失神するのはちょっと反則でしょ」
ドミトルはその女生徒の胸ポケットから生徒手帳を取り出した。
「雪村美国、1年生F組か…」