夏と新しい側室探し
いよいよ、覚醒編も終わりに近づきました。主人公はリィ様と立松寺にはさまれてウハウハ状態ですが、あのお方が加わって、事態はさらに複雑に…
自分たちの状況は理解できた。そして、魔界に向かう前に残る側室(この場合、魔王の戦力として)を見つけることが言い渡された。人間界にいる候補を100日以内に見つけるのだ。魔王に使える側室は16人と決まっている。現在、リィ、満天、ひかる、メグル、蝶子の5人だから残りは11人。ひかるは何故か夏妃にべったりなので、現在、魔王に一人ずついるわけだ。人間界で見つけられなければ、後は魔界なり、天界なりから選ぶらしい。
戦うためとはいえ、やはり、魔王の愛人探しということだから、正室の夏妃と立松寺華子はそれぞれ複雑な気持ちであった。だが、それに嫉妬していてはいけないと華子は思っていた。
(リィとはともかく、土緒くんは誠実な人。彼が私のことを愛していることは十分理解している。だから、彼に側室の1人や2人や3人いようと…)
そう思った立松寺だったが、リィに腕をとられてその爆乳にぐいぐい押しつけられている俺を見て、そんな殊勝な決心は消し飛んだ。バシッ!と平手打ちを俺の頬にかますと、
いつものツンツン口調で言い放った。
「土緒くん!」
「は、はい」
「私の前で他の女といちゃいちゃするなんて、許せません」
(えっ…いちゃいちゃしてないけど…あくまでもリィのバカ力に押さえつけれているだけですけど…いや、おっぱいは確かに気持ちいいけれど…)
内心、俺はそう思ったが直立不動で敬礼をする。
「はい。立松寺の前で他の女といちゃいちゃしません」
「約束よ。それとリィと私以外の女の子とは…その、あの…なるべく、関わらないように努力しなさい!」
立松寺も無茶を言う。残りの11人を全部、隆介、元馬、宗治に押し付けるのはちょっと心苦しいし、第一、自分の戦力が落ちる、ただでさえ、4魔王の中では一番ヘタレなのである。せめて強い側室が幾人かいないと今後困るのは俺だ。そんなやり取りを俺の傍らで聞いていたリィは八重歯のような牙をちょっとのぞかせて、
「おやおや、華子ちゃーん…意外と嫉妬深いわね。正妻たる者、寛容の精神が大事だと思うがのう。先代の魔王陛下の御台様は16人の側室には誕生日にプレゼントを手ずから渡し、嫉妬のしの字も感じさせなく任期をまっとうしたというぞ。それに比べて、夫に数人の愛人ができるだけで怒り狂うとは器が小さい」
リィの奴、立松寺の怒りに火を付ける。
「じゃあ、あなたは嫉妬しないというの!」
「しないね。私は魔王様の寵愛を独占する自信があるかな。今だって、魔王様は私の肉体に首ったけなのじゃ」
そういって、ますます腕をぐいぐい自分の胸に食い込ませる。それに抵抗できない情けない俺…すまん、立松寺…この感触は気持ちよすぎ…
「わ、わたしだって正室の意地にかけて!」
立松寺も俺の右腕をぐいぐい慎ましい胸に押し付ける。これも慎ましいがたまらない!
そんなうれしい状況の俺とは別に女夏を中心とした3魔王は、複雑な心境であった。夏妃も複雑だ。隆介や元馬、宗治がさらに他の女の子と付き合うなんて、心が穏やかではない。だが、自分はその3人を夫にしているのだから、とやかく言う資格はない。だが、現在のところ、隆介の側室のメグルは相変わらず、会長と書記の関係だし、宗治と蝶子は完全に召使いとご主人様。そこに恋愛感情なんて微塵も感じない。元馬と満天は兄妹だから、恋愛どころではない。(満天は兄ラブなようだが、肝心の元馬が夏に首ったけである)
「私は、気にしないから…。魔界、天界、人間界のために力のある人を見つけるということですから、よき人を選んでください」
健気に夏妃は言う。その背中にべったりとくっつくひかるのせいで、説得力が少々欠けたのが残念だが、夏にべたぼれの3魔王には、その言葉でますます夏妃にほれ込む。
「夏妃、あくまでも戦力としてだ。俺の愛はお前のためだけにある」
そう夏妃の手をとって宗治先輩が渋く決めると、
「先輩、抜け駆けはいけないぜ。夏妃は俺がもらう。俺の女はお前だけだぜ!」
と元馬が熱く語り、
「夏妃…この状況は納得いかないが、俺は小さな時から君がそばにいて当たり前だと思っている。いつまでも俺のそばにいてくれ!」
と隆介がスマートに決める。
(おいおい、どんなけ、男を手玉に取るんだいコイツは)
正妻と愛人の両方にくっつかれてウハウハ状態の俺だったが、この勝負は引き分けだ。巨乳もいいが、貧乳もまた然り。どちらも気持ちいい!埒があかないので、ついにリィが、
「まあ、よい。華子の前でいちゃつかなければよいということだから、時間を見て私のところに訪ねてくるがよい」
そう言うと俺にカギを渡す。こういう状況になったことで、ついに魔界は人間界に出張所を開設したらしい。華子の家に居候はやめて、町の高級マンション1フロアを借り切った7LDKの豪邸にリィは住むことになった。(ランジェも住むので天界も家賃を折半しているらしい)リィは帰り際に俺に耳元にこそっとささやいた。
「夜に来てくれれば、お前の青春の熱いほとばしりを私が処理してやるからな」
そういって、ウインクして飛び去った。
(いや、行ったらおいしい思いをするどころか、喰われる…)
「土緒くん…」
リィの後姿を見送りつつ、立松寺が俺をにらみつけた。
「リィのところにいっちゃだめよ。そりゃ、土緒くんは健全な男の子で魔王陛下でいらっしゃるから、夜も寝つけない時があるかもしれない。そういう時は私に言って!」
(えっ?)
俺は思わず、心の中で問い返した。あのツンの立松寺が思いがけないことを口にしている。
「私だって、正妻、正室なのだから、そういう仕事は義務だわ。側室に任せていては正妻の名折れ!」
「た…立松寺~」
俺のうれしい悲鳴に急に我に返ったのか耳たぶまで真っ赤にする立松寺。
「な…なに言わせるのよ!この私に…」
プイと背を向ける立松寺。そのまま駆け出すかと思ったが、急に俺の方を向いて、背伸びしキスをしてきた。長い、長い、甘いキスだ。唇をそっと話すと立松寺は、
「正直まだ、土緒君とするの私は怖い。だから、もう少しだけ待って。いつか、あなたに、私を…その…あげるから…今は、これだけ」
そういって、また軽くキスをすると、今度は本当に駆けて行った。
(立松寺…かわええ…。かわいすぎる!おれはお前を妻にすることができて幸せだ。リィは仕方ないが、女はお前とリィだけにする。)
そう心の中で固く誓ったはずの俺だったのだが…。まさか、あんなことになるとは…。