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魔王様と16人のヨメ物語  作者: 九重七六八
覚醒モード
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夏と夏妃と新たなる敵

一乗寺は宗治の家の菩提寺である。宗治はここで夏妃とデートして魔王として覚醒した。

今そこに4人の魔王と2人の正室、側室が一同に集まった。俺は月夜に浮かぶ山門を見上げて、不用意な言葉を発してしまった。


「こんなところで初体験なんて、ムードがないよなあ…」


一同が凍りつく。俺は夏妃がこの寺の本堂で宗治先輩にやられてしまったものだとばかり思っていたが、確かにその後に戴いた元馬や隆介の前では不用意だった…と言ってから気が付いたが、事態はもっと意外な方向への流れた。


「だ・・誰が初体験ですって!!」


当の夏妃が俺に食って掛かってきた。顔を真っ赤にしている。そりゃあ、宗治先輩や元馬、隆介といった当事者だけでなく、俺の正室の立松寺やリィ、ランジェ、メグル、満天、ひかる、蝶子たち女子の前でも暴露されれば恥ずかしいに違いない。


「いや、ごめん、つい口がすべって…」

「滑ってって!私は宗治先輩といくところまでは行ってませーん!」


夏妃のカン高い声が山々に響く。そっちの方が恥ずかしい。


「えっ、だって、お前、宗治先輩とのデート編で全裸で、あんなことされたらとか、もう体がガタガタとか言ってたじゃないか!」

「そういういやらしい意味では言ってません!全裸なのは、魔王様覚醒の熱で服が燃えてしまったからで、覚醒中の魔王様を抱きしめていただけだから!!」

「えっ?」


俺は宗治先輩の顔を見る。宗治は黙って顔を横に振った。俺は最後までやってないという返事だ。


「えっ?」


今度は元馬を見る。元馬の時だって、カーディーラーの展示車の中で熱い一時を過ごしたんじゃないのか??なんだか意味ありげにシャワーも浴びたじゃないか?だが、元馬も悔しそうに首を横に振る。


(ということは…)


リィがそっと俺の耳元にささやく。


「最後まで関係したのは私とお前だけだ。正室の華子には悪いが、おいしく戴かせてもらったぞ」


「リィ!側室になるにはキスまででいいのに、だましたなあ!」


「だましてなんかいないぞ。お前がケガをして弱っていた私を押し倒したんじゃないか」


「うそだ!押し倒したなんて…」


「ふふ…可愛いのう。そんなに焦って。またやりたいなら私はいつでも相手をするぞ。また、激しくめちゃめちゃにしてくれていいからな。私の魔王様」


「リィ!ふざけるのもいい加減に…」


いや、ふざけるというより洒落にならない。立松寺が気配に気が付いてきっとにらみ、俺の右腕にしがみついたかと思うとグイッと引っ張ってリィから俺を引きはがした。


(やばい!立松寺怒ってる!)


俺の腕を取ってキッと目の前の山門をにらみつける立松寺に何も話しかけられない。心なしか立松寺は、自分の慎ましい胸に俺の腕をぐいぐい押しつけているような…フニフニする感覚で俺の意識はそれこそ(ふにゃふにゃ)である。


そんな俺の情けない姿を見て、ランジェが、


「リィ…お前、早まったな。あのヘタレに体を許すとは」


「ふん。ランジェ、うらやましいのだろう。夏はヘタレではないぞ。現に私は側室NO1。彼の潜在能力の高さが現在の私の力が証明している。おそらく、3魔王よりも強大な力を秘めていると私は思うぞ」

「ふん。別にうらやましいなどとは思っていない」


ランジェはそう言った。それは半分は真実だ。だが、半分は自分よりもはるかに強くなったリィに嫉妬している自分を自覚していた。魔王と契ることで強大な力が得られるならばそのくらい…ランジェ想像しては顔を真っ赤にした。


「こ…この不埒もの!」


前を歩いている俺にドロップキックをかませる。何だか分からない俺。


「お…お前なんかにそんな恥ずかしいことできるか~」


 寺にはすでにアスモデウス公爵とウリエル総参謀長が上座の左手に座していた。まずは正面上座に4魔王の宗治、元馬、隆介、俺が座り、その左に正室の夏妃と華子が座る。次の間の前列から側室が序列ごとに並ぶ。


リィ(1位)、満天(3位)、その後方にメグル(7位)とひかる(8位)、一番後ろに序列11位の蝶子となる。ランジェはウリエル総参謀長の傍らに控えている。部屋は広いのにわざと空けて座らせる理不尽さに俺は少し憤りを感じたが、アスモデウスのじいさんがにらむので文句を言う機会を逸した。考えてみれば、特殊能力が何もない自分が一番立場が弱いのかもしれないから、下手なことを言えないのだ。


「まずは、御台様の力の覚醒、お喜び申し上げます」


アスモデウスのじいさんが夏妃にそう祝いの言葉を向ける。


「力の覚醒?」


夏妃がそうつぶやいた。


「そうです。御台様に備わる力。絶対回復の力です」


 アスモデウスのじいさんは続けた。ちなみに魔王の正室たる夏妃のことを御台様と呼び、同じく正室の華子のことを妃殿下とこのじいさんは呼んで区別している。じいさんが言う夏妃の力は絶対回復。つまり、どんなにダメージを食らおうと瞬時に元に戻す力だという。


(なんだ、大した力じゃないじゃないか!)


などと思うのはド素人だ。例えば、ゲームの中で最後のボスキャラが毎ターンごとに全回復したらどうだろう。どんな勇者も倒すことは不可能だ。しかも彼女の力は、何でも「なかったことにする」という究極のリセット能力なのだ。


だから、毒攻撃だろうが、麻痺攻撃だろうが、即死魔法だろうがすべて、「なかったことに」できる。ただ、死んでしまった場合はさすがに「なかったこと」にはできないらしい。あくまでも回復の視点である。だが、彼女が味方の限り、戦いは完全勝利が約束されたと言っていい。


「わ…わたしに…そんな力が…」


夏妃がつぶやく。


「だが、その代り、戦場では夏妃が常に狙われる…」


宗治がそうポツンと放った。確かにそうだ。そういう回復キャラがパーティにいるなら、真っ先にそいつから倒すのが基本だ。


「だから、御台様には夫として、3人の魔王様がいらっしゃる。3魔王とそれを守る側室軍団の守りをかいくぐって御台様に危害を加えることはかなり至難の業」


「だからというわけではありませんが、魔界の過激派も当初はあなた様に狙いを定め、亡き者にしようと画策しましたが、途中でその価値に気が付いたのでしょう。あなた様を取り込み、自分たちのものにしようとしたと思われます」


ウリエルがそう話した。


その後、アスモデウスのじいさんとウリエルのおっさんが、交互に魔界と天界と人間界の関係とこれまでの歴史、現在それぞれが置かれた状況を説明した。リィやメグル、ランジェは分かりきったことだが、人間である俺や立松寺、夏妃らには貴重な情報だ。

 

 小難しい話を簡単に言えば、魔界と天界といってもそこに住む住人は、人間界における人間と容姿が大きくことなることはない。

(リィは口から少しのぞく牙ぐらいで、グラビアアイドル並みのボディを除けば普通の人間と言っても不思議でない)


それもそのはずで、人間が死ぬとその魂はその性質によって魔界、天界、人間界に振り分けられて再び生を受ける。人間の生まれ変わりだから見た目に大きな違いはない。違うのは身体能力、特殊な能力が備わっている点で、これは人間を凌駕する力だ。


それなら、魔界なり天界なりに人間界は侵略されてしまうはずだが、両世界とも人間界には極力関わらないことが不文律となっている。それは人間界が魔界、天界の魂の供給源であるためで、死んだ人間の5%がそれぞれ、魔界、天界に生まれ変わる。大半の人間はまた人間界に生まれ変わるわけだ。魂の性質については、難しすぎて理解しかねたが、要するに自分の都合を優先させる自己中心的な奴は魔界に行き、自己犠牲を柱に他を優先させるおせっかいな奴が天界に行くらしい。


(リィやランジェを見ていれば納得できる)


魔界と天界は昔から争いは絶えなかったが(そりゃ、性格が正反対では喧嘩もするでしょう!)、先々代の魔王の時に和議が結ばれて今日に至っている。先々代の魔王の第1側室に天界の住人が選ばれたことがきっかけであったが、双方が力を合わせて立ち向かわねばならない敵が出現したことが本当の理由であった。


「敵?」


俺は思わずアスモデウスのじいさんに問い返した。


「闇の混沌、深遠なるカオスから生まれし怪物どもだ。それは突然現れ、魔界や天界に破壊をもたらした。双方の勇敢なる戦士が立ち向かい、撃退したものの、その怪物ども幾度も復活し、未だに戦いは終結をみない」


「天界だけでは勝てず、また、魔界だけでも勝てない。我々は力を合わせてそのものに立ち向かわねばならないのだ」


ウリエルのおっさんが補足する。


それで結ばれたのが「テンペスト条約」


双方が力を合わせるために事細かな方法や政策を明文化した条約。条約に基づき、戦う人材を育てるためのテンペスト大学が設立された。(リィやランジェが学んでいたところだ)


また、魔王を先頭に専制君主体制をとる魔界は、魔王の資質によって政治体制が左右される。そこで条約では、天界と協調体制がとれない魔王が生まれそうな時には、それを天界は阻止できるという内政干渉の条項が盛り込まれていた。これは魔界にとっては、はたはだ屈辱的なことではあったが、共通の敵に力を合わせて臨まなければ双方が滅びるかもしれない状況では、やむ得ない譲歩であった。だが、当然、そのような屈辱を是としない者も魔界には存在し、それが魔界の過激派と称していた。彼らの目的は条約の破棄と天界の併合。併合した上で敵と相対するというのである。


「すでに知っている通り、魔王は人間界の時間でいうところの20年で交代するのが習わしとなっている。今回、魔界は4人の魔王を戴くという特殊な状況に陥っている」


「おじいさま、今回の状況は転機ではないでしょうか?」


リィが口をはさんだ。4人の魔王に2人の正室。それに女夏に覚醒した力を考えると確かに敵とやらに攻勢をかける時と言っていい。強力な魔王が4人もいる(俺自身は戦力外とは思うが)魔界の戦力は過去最大なのだ。


「過激派の邪魔も排除しなくてはならないが、今は力を合わせる時。もし、魔界も天界も滅びたなら人間界もただでは済まないだろうから」


ウリエルがそう締めくくった。


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