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魔王様と16人のヨメ物語  作者: 九重七六八
覚醒モード
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夏妃と側室戦争~後編~ファナの闘い

ただ今、人気急上昇中のちょっと悪役で気丈なファナちゃんが戦います。対するは非情な「暴虐の魔王」の一柳宗治。ファナちゃん、大丈夫か?

「きゃあああああ・・」


すさまじい女の子悲鳴で宗治はその場所に駆けつけた。自分と同じ学校の女子高生が2つ首の犬の化け物に襲われている。口から炎をちろり、ちろりと吐き出し、大きさはちょっとしたダンプカー並である。その化け物が魔界の番犬ケルベロスであることを宗治は知っていた。なぜ知っているのか不思議で普通の人間なら恐怖で動けないはずだが、自分はそんなことは一切ない。一歩一歩前進する。襲われている女子高生を助けようという気持ちはないが、なぜだかこの化け物を斬ってみたくなったのだ。手にした新しい武器「毘沙門改」は赤いオーラを放ち、オーラだけでもこの犬っころを斬ることができると知っていた。犬の方がこちらに気が付き、危険だと感じたのであろう。一声吼えて、跳びかかってきた。だが、

宗治は冷静に毘沙門改を振り上げて、普通に振り下ろした。真っ二つになるケルベロス。

何事もなかったように毘沙門改を左の腰に収めた。


「ああ・・宗治・・宗治じゃない。やっぱり、助けてくれたの・・宗治・・私、うれしい」


宗治は意図なく助けた女が顔見知りであると気づいた。


「蝶子か・・」


藤野蝶子ふじのちょうこである。彼女も学校へ行く途中にこの世界に取り残された。黒い化け物に追われて逃げ回った。そして、今、恐ろしい魔物に襲われてもうだめだ!と思った時に宗治が現れて助けてくれたのだ。この恐ろしい世界に一人ぼっちと思ったら、自分が大好きな宗治がいる・・そう思っただけで蝶子は勝手に宗治との運命を感じた。


「やっぱり、宗治と私は運命なんだよ。あの女なんて気の迷いよ。ねえ、そうでしょ」


蝶子は宗治の腕に絡みついた。そうだ、この世界で宗治と二人きりなんて夢みたいだ。


「運命か・・・それもおもしろい」少し考えて、宗治はつぶやいた。

「世は魔王である。蝶子、我に身を委ねるか?」

「えっ?」


藤野蝶子は宗治が普通でないことに気づいた。目が赤くなっている。


「宗治・・」


一柳宗治は、右手で蝶子の細い腰を引き寄せると、懐に取り込んだ。蝶子の形のよい顎をぐいっと上げて強引に唇を重ねる。蝶子はうれしさになすがままであったが、心のうちからこみ上げてくる何かに自分が支配されていくことに気づいた。だが、何もできない・・。

光が蝶子を包み、そして収まった。


「どうやら覚醒したようだ。それでは供をせよ!蝶子」


蝶子の首に11の文字が浮かびあがった。


「はっ・・宗治様。側室No.11藤野蝶子・・お供します」

「で・・あるか。だが、客人が一人来たようだ」


 その女は、一部始終を見ていた。そして、この決意を秘めて手にした武器を握り締める。


「あなたが全ての元凶、新魔王ね」

「その通り、我は魔王だ。我は、我が妻を捜している。邪魔だては無用!」


宗治は冷たく言い放つ。まるでその女性が障害にもならないかのような余裕である。


「妻か・・本当なら、お前の妻を血祭りにあげるところだが、ここで会ったのは私の運命。しかも、また、適当に女を側室にしてもて遊ぶとは、私は許さぬ。我に来たれ!ウェポン、魔槍ロジェアール」


この側室戦争を仕掛けた、前魔王の側室No.8、ファナ・ド・マウグリッツである。ファナは自らのウェポン、魔槍ロジェアールを構える。魔王の力は自分が使えていただけに強大であることは十分知っている。だが、自分のウェポン、魔槍ロジェアールは、魔王の魂を打ち砕くことができることも知っている。上位の側室の持つ魔槍、魔剣の類は魔王すらも倒せる力を持つのだ。だから、最も信頼し愛している側室にしか持つことができない。


(側室の武器は覚醒段階で決まるが、それは魔王の意思と深く関係していると言われる。)


自分は序列8位だが、前魔王の時代にこのロジェアールを与えられた時には、ファナはとてもうれしかった。魔王を倒せる武器を与えられたのは正室を含めても4人にしか与えられなかったからだ。その誇りが今回の側室戦争のリーダーとなった原動力でもあった。


「皮肉なものだ。この槍で魔王を殺そうとするなんて」


ファナは槍を見ながらつぶやいた。だが、魔王の傍らで控えていた新側室が攻撃を仕掛けてきた。銀色に輝く鎖を振り回し、その鎖がファナに向ってくる。


「一度、捉えたら絶対に外れない、束縛の鎖グレイプニル」


寸前でファナは鎖を交わす。


(チィ・・やっかいな。まずはこいつから・・)


ファナの槍が蝶子に迫る、蝶子はバック転して寸前で交わす。さらに迫るロジェアールの矛先をグレイプニルを回転させて防ぐ。


「甘い!突き抜けろ!ロジェアール!」


赤い衝撃と共にグレイプニルの螺旋の防御陣が突破され、粉々に砕け、蝶子が吹き飛ばされた。


「魔王にもて遊ばれて、最後は使い捨てにされる前に引導を渡してやる。感謝しろ!」


そう言って、トドメの一撃を繰り出した・・だが、ロジェアールが動かない。見るとロジェアールの刃の根元を魔王の男が手で掴んでいるのだ。そしてファナの胸ぐらをぐいと掴んだ。


(バカな・・動きが見えなかった)


「この者、まだ力が弱きけれども、世の忠実な室なり。まだ、寵愛もしていないのに消すことならん」

「ちぃ・・このスケベ魔王が。私に触るな!」


ロジェアールを5度顔に向って突き刺したが、全て避けられ、目の前まで接近を許した。


(ば・・バカな・・こんなバカなこと。)

「我は問う。お前の主人、前魔王はお前のことを愛していなかったのか」


(愛して・・)ファナは思い出した。前魔王の姿を・・


「ファナ・・お前の魅力は気の強いことと、自分の気持ちを真っ直ぐに表すところだな。その気持ちはいつまでも持っていてくれよ。そんなお前が好きなのだから・・」


「ま・・魔王様・・」


そうだ。前魔王は自分のことを大事にしてくれた。正室には適わないとは何度も思いしらされたが、それでも自分と過ごしてくれたときには優しく、慈しんでくれた。だから、魔王と何度も反乱の鎮圧に同行したときには死に物狂いで働いた。ロジェアールの矛先が魔王様に歯向かう敵の血で染められるくらいファナはがんばった。


「よくやってくれたファナ。今宵はおまえのところで語り明かそう」


前魔王の優しい誘いに有頂天になった。それを思い出したファナの目から涙が一粒流れた。


(そう、魔王様がいなくなった今、わたしの居場所はない…ならば、ここで潔く散る)


ファナはロジェアールをぎゅっと握りしめると渾身の一撃を宗治めがけて放った。黄金の光が宗治のバリアに接触し、激しく放射する。そして弾けた!


「おまえの一撃、前側室として申し分なし。だが、我には届かず…」


(終わった…)


バリアははじけ飛んだが、ロジェアールの矛先はわずかに新魔王の心臓寸前で届かず止まった。新魔王はゆっくりと右手に持った新ウェポン「毘沙門改」を振りかざし、9度斬撃を放った。

ファナは打ち砕かれ、後方に弧を描くようにゆっくりと舞い上がり、そして落ちていく。コスチュームがボロボロに破れ、ぼろ布のように地面に倒れた。


「よき敵であった…」


宗治は毘沙門改を収めるとゆっくりと歩き出した。蝶子がファナが倒れた方向を見てかすかな気を感じて、自分の武器を召還した。


「宗治様…まだ、息があります。私がとどめを刺します」

「蝶子、かまうな。まだ、息がありこの場を生きながらえるならば、あの者の命運は尽きていないということだ。生かしてやれ」


「はっ…」


2人は目的地である学校へと歩みを進めた。


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