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魔王様と16人のヨメ物語  作者: 九重七六八
覚醒モード
20/139

夏妃と側室戦争~中編~隆介参戦

いよいよ側室戦争も中盤に…女夏は元馬と合流して2人目の魔王様を誕生させます。でも、男夏の方は悪魔娘リィといけない方向に…彼女の立松寺ちゃんにどう言い訳したものか…

 女夏はすべて元馬に話した。宗治を魔王に覚醒させたこと。宗治と契ったこと。今も宗治が好きなこと。元馬と別れるために自分の心にあきらめてもらうために。

話し終わると沈黙が続いた。「さよなら・・」という言葉が来るはず。そのために、自分はすべて話したのだ。これで終わる。元馬は去り、自分は一人ぼっちになる。

だが、女夏の想像した言葉ではなかった。


「そんなこと聞いて、俺が君のことあきらめると思ったのか?」

「えっ?」


思わず聞き返す夏。


「そんなこと関係ない。俺は今でも君が好きだ。大好きだ。例え、宗治先輩に先を越されても俺はあきらめない。好きだああああ、夏!!!」


力いっぱい抱きしめられる。

リィの真実の鏡の赤い光が青いエリアまで侵食し、全て赤に染まった。元馬190、夏10の割合である。

きゅっと元馬のシャツを握る夏。元馬はそっと放して夏の顔を見る。


「それとも、君は俺のことが嫌いなのか?」

「嫌いじゃない・・。ううん。好き、好き・・大好き!」


真実の鏡の青い光が赤い光を消し、半分まで引きあがった。元馬100、夏100.


「相思相愛成立だな・・これ以上は無粋だな。まだ、時間は十分ある」


二人が固く抱き合い、唇を重ねるシーンを見て、リィは鏡をしまった。セブンにより展開されたバトルエリアが消えるまで、あと70時間はある。明日の朝まで自分たちも夏たちもしばしの休息である。


 ファナは少し焦っていた。時間は十分ある。だが、あの3人はうまく見つけだせない。自分を含めて6人の側室で仕掛けた戦いではあるが、セブンのクリスタルの守りに2人は必要であり、5人でこの7キロ四方を探索しているが、意外に見つからない。十中八九、どこかの建物に潜んでいるに違いないが、グールは数は多いが知性がないから、ただ、這いずり回っているだけ。そして、ウェポンが粉々に壊れ、倒れているカイとクリュシュナの遺体を見つけて、ファナは溜息をついた。


(おそらく、No.8の仕業だろうが、それは想定内だ。おそらくクリスタルに向うだろうが、あそこにはあの方がいらっしゃる。問題は正室が覚醒させた魔王の方だが、そちらにはそろそろ天界の奴らも動き出す頃だろう。だが、3人では時間がかかりすぎる。)


「やむを得ない・・本当は使いたくないが使う」


ファナは両耳のピアスをはずすと、空に放り投げた。


「魔獣召喚!ケルベロス、オルトロス・・来たれ!」


魔獣を召喚すると魔界や天界に知られる。今、この町にいる連中以外に援軍が駆けつけてくる可能性がある。魔獣は人間界の秩序を乱すものだからだ。だが、こいつらの人間を見つけ出す嗅覚はすさまじい。リィと行動しているまだ人間の正室と魔王候補の男の臭いを嗅ぎ取り、必ず見つけだすだろう。


「ううううっ・・・うおおおおおおっ・・」


ものすごい咆哮をあげる両魔獣にファナは命じた。


「人間を見つけ出せ。このバトル空間で存在できる人間はすべて敵だ」


たちまち、町に消える2匹の魔獣。嗅覚のするどい彼らなら、いずれ見つけることができるだろう。


 

 隆介は手にしたモデルガン、パイソン357マグナム4インチを2発撃つ。2匹のグールが倒れ、たちまち消えうせる。昨日からこの繰り返しである。一昨日、夏とのデートがあった日の夜に英語教師のドミトルが家に現れ、6発のエアガンの弾を手渡した。6mmBB弾を仕込む長さ4cmの薬きょうである。プラスチックではなく、金属でできておりずっしりしている本格的な仕様である。


「趣味で持っているエアガンに合うものがあるだろう」

「先生、訳が分かりません。生徒宅に夜に尋ねてきて、こんなおもちゃを手渡すなんて、どうかしてる」

「ふふん・・。まあ、訳が分からなくても持ってなさい。もちろん、6発じゃ、きっと明日は生き残れない。これと、これと、おまけにこれ・・」


そういってポケットを探ると銃弾の入った小箱3つを手渡す。


「全部で77発。ああ、1時間に1発じゃあ、うまく使わないとすぐなくなっちゃうな。君が一番、苦労しそうだけど知恵があるから生き残れるだろう」


「はあ~?」

「大事な彼女を救うためだ。健闘してくれたまえ・・」


そういって闇に消えたあの教師。(バカじゃないのか・・・。)と思い、もらった弾は机に放り出したが、次の日、起きてみれば家には誰も居なく、外は薄い霧で覆われ、誰一人いない。そして黒い薄気味悪い化け物が徘徊しているではないか。昨日の英語教師が手渡した6発の薬きょうと弾が入っているはずの3つの小箱を眺めた。(まさかな・・。)

自分の持っているモデルガンの中で最も気に入っているパイソン357マグナムにセットする。撃ってみる・・バシュウ・・・すごい反動で銃が跳ね上がった!


(うそ!エアガンだぞ、これは・・。)


しかも弾丸は黒い化け物をとらえ、そいつはバタリ・・と倒れた。


「マジ・・かよ・・。」


 その衝撃的な出来事は26時間前。夏のことが気になり、彼女の家に向ったのだが、家に近づくに連れて、黒い化け物だらけで容易に近寄れない。なるべく数が少ないところを通り、周り道をしていったので、夏の家に着いたのは次の日であった。


 不思議なことに夜にもならない。時間は腕に巻いたタグホイヤーのクロノグラフで確認したものの、途中、安全な場所(公園の展望台)で眠り、やっとここまでたどり着いたのだ。途中、30発ほど撃ち、30匹以上は倒したが(貫通して後ろの化け物まで倒した・・)さすが、マグナム・・(モデルガンだけど。)そもそも、おもちゃの銃がここまで威力があるのは、あの英語教師ドミトルの持ってきた弾のおかげである。黒い化け物も多くに取り囲まれなければ逃げられるし、最低限、排除する時にだけ撃つことにしたが、自分の身を守るのに使える弾は、あと42発・・。ポケットから弾を出して一発ずつ装填していく。6発しか撃てないから、取り囲まれたらお仕舞いだ。


(だが、あと少し。)目的地の夏の家まではあと少しである。幸い、化け物の数は少なくなってきた。これならそんなに撃たなくてもいいかもしれない。隆介は家に夏がいて欲しいようでいて欲しくない気持ちだった。できればこの狂った世界の部外者であってほしいという思いもあったが、一目見て無事を確かめ安心したい気持ちもある。気持ちが急いて、自然と走るスピードも速くなった。だが、夏の家の前ではすさまじいバトルが繰り広げられていた。集まる黒い化け物を次々となぎ払う槍、伸縮自在に伸びる棒に弾かれて次々と消滅する化け物、さらに光るお札が次々と発射されて、化け物が次々と排除されている。隆介は戦う3人に見覚えがあった。


「えっ・・立松寺にランジェちゃんにめぐる??」


3人が振り返った。


家の周りが静かになり、化け物は完全に排除したようだった。ランジェはいつも見せるあどけない表情ではなく、眉毛を吊り上げてキッ・・・とにらみつけた。


「だれかと思えば、魔王候補の橘隆介アルな」


身長に似つかわしくない洋槍を握るランジェ。呼び捨てである。


「会長、土緒君、いや、夏を見なかった。男の・・」


とこちらは学校の制服姿の立松寺華子。だが、彼女は手に巻物を持っている。先ほど、お札の弾丸を発射していたのはこの巻物だった。めぐるに至っては、運動会の時のおサルさんのコスチュームで、朱色に塗られた棒を持っている。ご丁寧に尻尾まで生えているのだが、なんだか本物っぽい。


(おまえは、孫〇空か!?)


「いや、俺も今ここに着いたところで、生きている人間に会ったのは1日ぶり」

「ふん、お前などまだ覚醒前なら、我々のターゲットじゃないアル」

「ターゲットって?」

「一番のターゲットは、魔王と化した一柳宗治先輩。2番は正室になっちゃった夏さんかな。これ以上、ターゲットを増やさないために。3番はファナを始めとする側室軍団かな」


何やら攻撃的なランジェに比べて、めぐるの口調はいつもの生徒会でとぼけているのと変わりがない。


「メグル、そいつはもう生徒会長じゃないアル。お前も部下じゃないアル。馴れ馴れしく話さなくていいアル」

「あらあ、冷たいのね。ランジェ隊長」

「隊長?」

「紹介が遅れたアル。私は乙女林高等学園附属小学校6年生児童会長ランジェとは仮の姿、天界から来た魔王監視団第27小隊隊長エトランジェ・キリン・マニシッサ、アル」

「私はその先遣隊隊員、メグル・インドラ・ハヌマーン。生徒会書記として潜り込んでいたけれど、天界の特殊部隊隊員ですう・・」

「私は人間だけど・・お母様が天界の人間で・・その・・」


ごにょごにょ言う立松寺。彼女だけは人間らしいことは分かった。


「いや、その何だか、俺にはさっぱり・・」

「頭のいい生徒会長にしては、飲み込みが悪い。とにかく、このバトルエリアに侵入するのに1日を費やした。ターゲットはこの家にいない。別の場所を探すぞ」


3人は隆介から去ろうとする。


「待てよ!」


前を通り過ぎる立松寺の腕を掴んだ隆介。


「男の夏って、どういうことだ」

「男の子の方の夏よ。女の子の方はあなたのお嫁さんだけど、男の方は私の彼氏なの。早くしないと、彼が危ないの」

「その分だと、俺の嫁さんになるという夏も危ないんだな」

「察しがいいわね。早くしないと側室軍団に八つ裂きにされてしまうわよ。それとも、あなたより先に他の魔王様が助けちゃうかも・・」

「メグル、そいつに手短に教えておけアル。先に学校へ行っている。このバトル空間を先に破壊した方がいいアル。お前はその魔王候補を監視しておけ。女夏に覚醒されるとターゲットになってやっかいアル」

「イエッサー」


ビシッと敬礼するメグル。立松寺はランジェに思い切ったように話した。


「ランジェ、私はここに残るわ。土緒くんはここに戻ってくるかもしれないし」

「ふん。お前の母親のようにならなければいいアル。その巻物は限りがあるから気を付けるアル。そう何回も使える代物じゃないアルからな」


そういうとランジェは消えた。メグルは手短にこれまでの状況を話した。魔王のこと、女夏のこと、宗治とのこと・・。隆介は黙って聞いていたが、最後に「うん」と頷いた。


「何がどうであれ、俺が夏のことを好きであることには変わりない。夏が今、危険な状態なら守ってやりたい」


そう言って手に持った銃の撃鉄を起した。パアーン・・と一発・・家の塀から現れたグールを打ち抜く。


「やるわね。それおもちゃの銃でしょ。どうして魔界の生き物に効くの?」

「弾に秘密があるらしい。ドミトル先生にもらったんだ」

「ドミトルって、あの魔界の過激派だけど、女夏に惚れちゃったというキモイケメンのこと?」

「魔界の過激派?よく分からないが、立松寺、君のその武器というか、巻物の方も不思議だ?ランジェにもらったのか?」

「ううん」


立松寺華子は首を振った。これは母の遺品なのだ。彼女の母親は人間界では、最上駒モガミコマ天界名コマ・クリスタエル・モガミ・・、天界の貴族の姫君にして魔界の魔王を監視する監視団の隊長であった。ところが先々代の魔王に惚れてしまい、駆け落ち同然で側室NO.1として君臨することになった。先々代の魔王はそれまで争いが絶えなかった天界と魔界に和平をもたらし、魔界の秩序と安定に力を尽くした善王として知られるのは、正室よりも寵愛したこの側室の存在が大きいとされている。任期の終わりには時の正室が亡くなったこともあり、母は正室として迎えられた。そしてそのまま、人間界に・・。


「ということは、立松寺のオヤジさんは先々代魔王?うそでしょ?」


俺はその話を聞いて思わず、声を出してしまった。(あの風俗通いのエロオヤジが?)俺は、リィとともに家に到着したのだが、立松寺と隆介の話を耳にしてしまったのだ。


「土・・土緒くん!無事だったのね!」


ぱあ~っと立松寺の顔の笑顔が戻り、華やいだ声になった。久しぶりに会う俺の彼女だ。

思わず、駆け寄ってきた立松寺を抱きしめてしまう。アイスフルーティの爽やかな匂いが鼻腔をくすぐる。彼女の匂いだ。しばらく、抱き合った後、立松寺華子は体を離した。後ろに下を向いてモジモジしているらしくないリィ・アスモデウスを見たのだ。女の勘でピーンときた。


(この二人・・何かあった)リィの右胸の上に01の文字が浮かび上がっている。

微妙な空気が3人を包む。だが、その雰囲気も強大な足音でかき消された。


「恋人同士の再会もそこまで、どうやら危ない奴が来たようよ」


メグルが武器を構えてそう言った先に、黒い獣、2つ首の凶暴な犬でたてがみが蛇という怪物が近づいて来ているのが見えた。


「オルトロスみたいね。かなり手ごわいわよ。ランジェ隊長がいればよかったのに、私と魔法の武器を持った2人の人間、それと・・まあ、楽勝じゃないけどいけそうね」


ちらりとリィを見たメグルがそう続けた。


「みんないくわよ。伸縮変化自在の杖、聖なるディパバリ、今こそ力を解放せん」


メグルの持った棒が伸びて先端がサスマタのように曲がり、オルトロスの首根っこを押さえつけた。


「今よ!」


隆介がマグナムを構えて撃つ。立松寺が何やら唱えると巻物が開いて体を螺旋の渦のように覆い、白いお札を連続発射する。そのお札はオルトロスに当ると爆発し、体の組織をえぐりとる。苦痛の咆哮をあげて炎を吐くオルトロス。怪獣大戦争の様相である。リィが右手にウェポンを召喚した。今までの黄金のハンマーではない。毒々しい派手な飾り付けの魔槍フィン・マークル・・第1の側室となったリィ・アスモデウスの新しい武器だ。


「魔王様をお守りするのが側室たる私の務め。目の前のケダモノを排除します」


リィが跳ぶと手にした魔槍を投げ下ろした。魔槍から発せられたオーラがリィの体全体を包み込み、大きな光の塊となる。そして、体を大きく反らしたリィは渾身の力で槍を投げ下ろした。槍は轟音と共に一直線にオルトロスの右首から2つめの頭を貫通し、地面に突き刺ささった。魔槍フィン・マークル・・恐るべき力である。魔界の危険な魔物が完全に沈黙した。


(リィ・・強くなった・・。圧倒的じゃないか・・さすが、側室No.1、でも、誰の側室??やっぱり・・俺だよなあ・・どうしよう・・立松寺に何ていえばよいものか。)


俺のことをにらんでいる立松寺の視線を感じながら、俺はこうなってしまった昨晩のことを思い出した。


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