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魔王様と16人のヨメ物語  作者: 九重七六八
覚醒モード
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夏妃と側室戦争~前夜

 どれだけたっただろう。女夏は薄暗くなったお堂で目覚めた。あの出来事は夢?だが、すぐ側に裸の宗治が傍らに倒れ、赤いゆらゆらとしたオーラに包まれている現実を理解した。胸には赤く光る∞マークが見える。魔王の印だ。どうやら暴走は収まったらしい。ふと見ると自分も裸であることに気づいた。魔王と化した宗治に激しく愛された跡(胸のキスマーク)が残る自分の体を見て、恥ずかしさで手で胸を隠してうずくまる。


「ご苦労でした御台様」


いつのまにかリィがいて、自分の赤いマントをそっと夏に羽織ってくれた。


「魔王様が暴走状態のままでしたら、大変でした。天界からの刺客もやってきたでしょうし、ここは戦場となったでしょう。御台様のおかげです。身を呈して押さえ込むとは、正室しかできません。」

「私・・私・・・宗治のこと好きよ・・だから、後悔したくないけど・・ないけど・・」


リィはそっと夏を抱きしめた。嗚咽する夏。宗治を選んだということは、隆介や元馬とはお別れということだ。だが、二人の顔を思い浮かべると夏はどちらもまだ好きなのだ。


「御台様、隆介殿や元馬殿もまだ魔王になれます。鏡が二人の数値が100のままで止まっています。御台様の気持ちも100のまま。考えられないことですが、魔王様は3人ということでしょうか」

「それって、私の夫は3人いるということ」


夏は宗治に愛された後の自分の体を見て、こんなこと3人からされたら自分が壊れてしまうと思った。


「分かりませんが、宗治殿、いや今は魔王、暴虐の魔王様と呼びましょうか、その方と結ばれてもあとの2人はあなた様のことをあきらめ切れないようです」

「そんな・・」

「ここは去りましょう。暴虐の魔王様が目覚めれば、また、あなた様を求めるかもしれません。」

「えっ・・それは嫌~、もう耐えられないよ、もう体中がががたがた・・」

「ふふ・・御台様、冗談です。魔王様はあと何時間かはこのままです。次に目覚めたときには真の魔王様となっているはず。今はそのための休息の時間ですわ」

「魔王様って、いい気なものね」

「あなた様の夫でいらっしゃいます。それではつかまってください。家まで移動します」


 リィは女夏を連れて、夏の自宅まで飛んだ。そこには女夏から分離し、復活した男夏の体があるはずだ。魔王の復活によって夏が完全に女化し、行き場をなくした男夏の魂に新たな肉体が提供されたはずだ。人間界では2人はおそらく双子とかの設定だろう。


 

 長い眠りから目覚めた俺。見慣れた天井が目に入る。


(おおっ・・俺の部屋だ。)


慌てて飛び起きようとするがひどく体が重い。そこへ急に扉が開いて、妹の秋が入ってきた。


「もうお兄ちゃん、寝すぎ!いつまで寝ているのよ。」


俺は休日の最終日、昼からベットで昼寝を楽しんでいたらしい。外は真っ暗である。


(おいおい、、目覚めればどういう設定だ、これは?)


俺は魔界の適当な歴史設定に悪態をしつつ、秋に家族構成について尋ねた。妹にそんなことを尋ねるなんて、寝すぎで頭が腐ったと思われるが致し方ない。


「お兄ちゃん、バカあ?」


あきれてものが言えないような口調で秋が言う。


「お父さん、お母さん、お姉ちゃんに私にお兄ちゃんでしょ。寝すぎでどこかに行っちゃったんですか?」


(お姉ちゃんか・・。)


 俺は、ほっと溜息をついた。どうやら、女夏と分離して双子の姉弟という関係になったらしい。ちなみに名前は俺が夏で女夏が夏妃なつひ。そういえば、夏妃のやつ、宗治を覚醒してから未だに帰っていないなんてやばくないか?俺はあの状況で夏妃が無事では済まないだろうとは思ったが、今は自分に戻れてよかったとしか頭になかった。


「お姉ちゃん、遅いなあ・・宗治先輩と行くとこまでいっちゃたのかしら?」

(秋よ・・お前のカンはするどい。感心する。)



 それからしばらくして、夏妃はリィに連れられて家に帰ってきた。どこか疲れきった顔で明らかに宗治と何かあったような感じである。夏妃は、夏を見て、


「あなた、よかったね。無事、戻れたようね」

「おかげさまでね。この世界では姉貴と呼んだ方がいいか」

「どうでもいいわ。いずれ、私はこの家からいなくなるでしょうから。それまでお姉さん設定でも妹設定でも構わないわ」

(そうだよな。)


 俺は思った。魔王を覚醒させたということは、いずれこの女、魔界で暮らすということだろう。その時はまた、俺と秋だけの兄妹設定ということになる。両親も設定が変わる度に子どもが増えたり、減ったりで大変だ。


「まあ、俺は普通の人間に戻ったようだし、これで魔王とか側室戦争だとかには関わらなくていいのだろう。バトルエリアでは、俺は背景。まあ、魔王も復活させたことだし、戦いもないか」


「…いや、そうでもないようだぞ」


リィが俺の右腕を掴むとシャツの袖をまくった。そこには、二の腕に黄色く光る∞のマークが・・。


(えっ?うそ!そんな展開あるのか?)

「∞マークは・・魔王の印だっけ?」


俺はおそるおそるリィに聞いてみた。女夏もリィもコクリとうなずく。


「うそだあ~・・ありえない!そもそも、魔王だったら、夏妃がヨメさん?ちょっと、今の設定だと姉貴だろ!姉が嫁さんなんて、どういう背徳設定だあ~」

「しっ・・静かにしないか」


リィが声を潜める。妹の秋が、


「またお兄ちゃん、寝とぼけてる・・」


と言っている声が聞こえた。


「お前の∞マークは黄色く光っている。ということは、お前の正室は御台様ではない」

「えっ?色で違うのか?」

「残念ながら・・というか、もはや、私の想定を超えている展開だ。ただでさえ、魔王様が3人誕生しそうだというのに・・」


リィは状況整理しながら考えていた。


(そもそも、魔王候補が3人で3人とも魔王になるかもしれないのは、御台様の力のせいだろう。歴代正室の中でおそらく最大のカリスマのせいだ。候補3人ともこの方にゾッコンなのだから・・。しかし、御台様と別れた男の方も魔王候補なんて予想外だ。しかも、系統が違う。いったい、次の魔界はどうなってしまうのだろうか。)


「正室が夏妃じゃなかったら、俺の正室ちゃんは誰かなあ?もしかして、立松寺・・いや、絶対そうだ。そうに違いない!」

「はあ・・あなた、本当にお気楽ねえ。魔王ってことは、側室もいるんでしょ。もし、華子ちゃんが正室なら、あなた、殺されるわね」


夏妃の冷静な一言。この女、だてに立松寺と過ごしてはいない。俺はその言葉にハッと我に返った。確かに、それはそれで恐ろしい。


「いずれにしても、光っている∞マークが出てるということは、お前はすでに傍観者ではいられないということだ」


リィが冷たく言い放つ。


「えっ?どういうこと?」

「つまり、お前は今のところ人間の力しかないのに、バトルエリアで戦いに参加するということだ。魔王様を狙う過激派の連中がさぞ喜ぶだろう」

(確かに・・正室候補からキスをしてもらわないと魔王の力は覚醒しない。)


 俺は何度も頭に刻み込んだこの設定を呪った。だが、気を取り直す。(死んでなるものか。)


「いや、それならリィ、お前が守ってくれるのだろう」


俺はリィの顔を見てそう言った。そうだ、この悪魔娘は、夏妃の護衛に来たのだ。

リィの顔が赤くなった。


「な、なぜ、私がお前を守らねばならない。私は御台様付きの護衛で、私の管轄は御台様のご主人である魔王様までだ。」

「そんなこと言わないで~助けてくれよ」


俺はリィに懇願した。もし、過激派に襲われてあのグールとかいう気持ちの悪い化け物と戦うことになったらと思うとぞっとする。ランジェにもらった武器は、夏妃の首にぶら下がったペンダントだから、俺は完全丸腰ということになる。


「まあ、お前が私たちと行動を共にするなら、必然的に守ることにはなるが」


リィがプイと目線を上に上げて独り言のようにつぶやいた。


「おお、リィ、お前、意外と優しいよなあ」


俺は思わず、この爆乳娘の手を取った。ますます、リィの奴、顔が赤くなる。


(あれ?リィって、こんなに可愛かったけ?)


まじまじとリィの顔を見る。


「わ・・私に気安く触るな!」


リィは急いで手を離した。(おいおい、この女とラブコメか?)


夏妃がご馳走様・・とつぶやいて自分の部屋に帰っていた。それにしても、俺のパートナー(正室)はいったい誰でどこにいるのか??それが立松寺であることを祈って俺は眠れない夜を過ごした。

単なる昼寝のし過ぎではあったが…


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