夏とトリプルデート大作戦 隆介編
2日目はVS隆介である。隆介は幼稚園からの幼馴染であるから、改まってデートというのは奥がましいが、宗治先輩のことがあったので、隆介自身ももやもやを吹き飛ばしたいと言う意味で夏の誘いに乗った。但し、デートの場所は隆介の指定場所。というのも、家の仕事が入っていて、どうしてもキャンセルできなかったのだ。
彼の家は鉄道、ホテル、デパート等を経営する橘グループであるが、彼も高校生ながらも将来のために経営に一部参加しているのだ。(生徒会長をやりながら、本当にすごい奴だ。勉強は学校で1番。バスケット部のエースで全国制覇のメンバーでもある。)
「あの・・・この水着・・ちょっと恥ずかしい」
待ち合わせは、ホテルのプール。隆介とは初デートとは言えないが、いきなりプールで水着と言うのはちょっといただけないと思ったが、今日の隆介の仕事がこの新装オープンしたプールの視察とホテルのファシリティのレビューであったので仕方がない。なにやら若い層向けの仕様らしく、若い女の子目線での感想を教えて欲しいと言われていた。
(おいおい、デートじゃなくて仕事か?相変わらず、素直でない奴だ。このままじゃ、元馬や宗治先輩に夏を盗られちゃうぞ・・。)
と俺は心配したが、これはこれで隆介の精一杯のアプローチなのだろう。幸い、本日も女夏が主導なので俺は暇ではあるが。
恥ずかしい・・・と魔王のヨメが言った水着姿であるが、俺から見たら結構いい感じだ。今回は妹の秋お勧めの「清楚な中に野生の鮮烈さを!」をテーマにした(なんのこっちゃ)
水着。
スカイブルーを基調としたホルターネックで下半身はパレオを巻いているが、健康そのものの長い細い足が際立ち、右胸元にちょっとだけワンポイントのトラのプリントがある。ここが野生?だが、たぶん、夏を見た男はこのワンポイントに目が行き、夏の形のよい胸に釘漬けになるだろう。我が妹、秋・・さすが12歳のプレイガールである。本人は発育途上のナインのくせに・・・。
そんな妹の秋の思惑に専制パンチをくらった隆介は、いつも沈着冷静なのに思わず声がうわずってしまった。
「な・・夏・・その水着、このプールの雰囲気にぴったりだね」
ホテルの宣伝用パンフレット等に使うかもしれないとのことで、プロカメラマンが何人かのモデル嬢を相手に撮影していたが、現れた夏を見て、
「御曹司、彼女も撮っていいかな。素人ぽい娘の方がイメージに合いそうだ」
「夏、どう?」
「えっ・・・恥ずかしいよ・・。でも、橘君のためなら、夏は言うこと聞きます」
(おいおい、女夏。いつものご奉仕か?)
(いいの。橘くんには逆らえないのだから。)
そういえば。こいつ隆介の女房状態だった。これで、正式には付き合っていなかったって方がおかしい。いったい、隆介の野郎、今まで何してたんだ・・と俺は突っ込みを入れたかったが、カメラマンに要求されるままポーズをとる夏の肢体に釘漬けの隆介を見て、こいつも今日は勇気をふりしぼるはずだと思った。
プールを背景に夏の撮影が終わると、タオルとドリンクを持った隆介が夏に手渡して、プールサイドのテーブルに誘った。
「橘君、ここなかなか楽しいね。カップルならデートでも使えるかもね」
(確かに、男の下心を刺激するが。)
確かにプールサイドのバーカウンター、タイ式マッサージやエステが受けられる施設など敷居も高くない雰囲気でカップルで過ごすには飽きない感じだ。何より、おしゃれで高級感があるのがいい。会員限定か紹介がないと入れないとのことなので、一般人には縁遠い施設ではあるが。
「なあ、夏」
隆介はおもむろに話し始めた。夏とは家族ぐるみの付き合いで、水着でデートも別に初めてではない。二人っきりとなるともしかしたら今日が初めてかもしれないが、昨年の夏には一緒にグアムにも行った仲でもある。(もちろん、家族同伴)だが、今日はそういう時間にはしたくないと隆介は思っていた。
「覚えているかい、小学校2年生でオーストラリアのゴールドコーストへ行った時のこと」
「ええっと・・」
隆介とは毎年の夏、どこかへ行っているから記憶の検索に時間がかかる。特に俺には覚えがないから、女夏に頼るしかない。
「海岸で二人、貝拾いをしていた。君がトゲトゲのついた貝を拾いたいと言うから、僕が付いていったんだ。夕日が海に沈もうとして赤く海を照らしてキレイだったなあ・・」
(そうだっけ・・)
(覚えていないのか、女夏?)
(いや、何か大事なことを言ったような気がするんだけど。)
「ねえ、夏ちゃん。いつまでも一緒にいたいね」
貝拾いに夢中な小さな夏の姿を見て、小さな隆介がそんなことを言った。すると夏が、
「だったら、夏が隆介くんのお嫁さんになってあげるよ」
と言った。小さな子の無邪気な発言だ。幼馴染ならこういうエピソードは不思議じゃない。ゲームや漫画ならありきたりの展開だ。そして、ありきたりの展開は、予想通りにありきたりの結果になる。小学2年生でも頭のキレはすでに高校生級の隆介には、お嫁さん・・と響きが強烈にインプットされてしまったのだ。
「そう夏は俺のヨメさん。あの時の約束を俺は忘れてはいないよ」
「えっ?」
とまどう女夏。隆介がなけなしの勇気をふりしぼって、告白するかもしれないとは思ったが、告白どころかプロポーズまでレベルアップするのは行き過ぎだろ!
(ヨメさんって・・まだ高校生だし、それは早いぞ!隆介、一応、魔王のヨメではあるが)
突っ込みを入れる俺。その突込みの声が届いたのか、隆介は思いとどまったようだ。さすがによく知った幼馴染とはいえ、結婚してくださいは早い。やっぱり、手順を踏んでからだろう。生唾を飲み込み、勇気をふりしぼった。でないと、一直線で夏にアタックする元馬や大人魅力でせまる宗治先輩に大事な夏を盗られてしまう。
例え、夏が自分を選ばず、どちらかと付き合うにしても隆介は今言わないと一生後悔するだろうと思った。戦うためには挑戦の名乗りをあげないと・・そう、今から言うのは戦うための宣言である。
「夏、俺は君のことが好きだ。絶対、君を幸せにするから・・俺と付き合ってくれ」
夏の両手をそっと握る。
「本当に・・・幸せにしてくれる?夏を守ってくれる?」
「ああ、本当だ」
「夏、うれしい。だけど、付き合ってって、隆介くんと私って今まで付き合っていたような感じだったけどね」
「確かに・・そうだけど、やっぱり、こういうことってはっきりしなきゃ」
(元馬や宗治先輩とは別れてくれるね・・。)という言葉が喉元まで来たがグッとこらえた。それを言うと夏が困るかもしれないと思ったのだ。唯一の一人になって欲しいけれど、それは夏が決めること。今、挑戦者として名乗りを上げただけでいいじゃないか・・と自分に言い聞かせた。女夏の中の俺は内心、
(独占欲の強い隆介のことだから、元馬や宗治先輩のこと問いただすかと思ったが、意外とこいつ、大人だな。)
と思った。二人の彼氏がいても意に介さない宗治先輩に対抗できる度量の大きさである。まあ、宗治先輩は魔王のこと知っているから余裕の対応であるとは思うが。この年頃の男は独占欲まるだしで、彼女の行動を監視してちょっと友達の男の子と話すことさえ嫌がる狭い奴が多いが、若いだけに致し方ない。
だが、女の子の心は縛れない。要は自分に振り向いてくれるだけの魅力があるかないか・・である。そういう意味で、元馬も宗治先輩もこの隆介も恋愛初心者にしては、なかなか優秀である。俺も心の中で立松寺との付き合い方をよく考えなきゃ・・と思った。自分が幸せなら・・の気持ちではいつか、彼女を失いかねない。
「夏・・うれしい・・。私も隆介くんのこと・・好きよ」
「隆介って呼んでくれていい。今日から新しい一歩だ」
「そうだね・・」
ぐっと隆介の手に力が入る。いい雰囲気だ・・。(ちょっと待て!女夏・・ヤバイぞ)
そう隆介のやろう顔を近づけてきた。キスする気だ!勇気をふりしぼって告白したのに大胆な奴だ・・とまたしても自分のことを棚に上げている俺。だが、キスは単なるキスではない。魔王覚醒の引き金になる。よく考えた上でないと!
だが、女夏のやろう・・今度は寸止めする気がなさそうだ。あろうことか目をつむりやがった。
(ちょっと待て!元馬には寸止めで何で隆介にはOKなの?なぜじゃ?女の気持ちが分からない~)
(もう何だか、分からないけど、夏、行きます!)
だが、唇が重なる瞬間、聞きなれた声が二人をフリーズさせた。
「お坊ちゃま、次の視察の時間です」
運転手兼隆介の執事である須藤さんである。このおっさん、狙ってないか?
二人の状態を見ているのか見ていないのか分からない細い目で、右手に持ったPC端末を見て、
「お次はホテルレストランでサマーシーズンのプロモーションランチの試食、その後、新しく造りましたカップルスイートルームの見学がございます。」
「す・・す」
隆介の声がうわずっている。女夏はというと顔を真っ赤にして羽織ったタオル地のガウンの裾を握り締めている。
「ス、須藤さん・・タイミングが悪すぎ!」
「いえ、タイミングはぴったりでございます。夏様のお着替えの時間を勘案しまして、ここを20分後に出ましてその五分後にオードブルの皿がタイミングよく出せるよう調整させていただいています」
(うん・・あいかわらず、グッジョブだ!須藤さん!!)
結局、この後、チャンスがあれば続きを・・と下心ありありの隆介も仕事とデートを掛け持った罰で、そのチャンスも作れずあえなく終了。とりあえず、俺的にはよかったといえようか?いや、それとも魔王確定の方がよかったのか。
だが、女夏のことを考えるとやっぱりよかった。体を共有しているせいか、俺はこいつには魔王とやらとうまくいって欲しいと思い始めていた。最初のとにかく男に戻って立松寺とラブラブ生活に戻りたい!の一心であった以前の自分と比べてなんと大人になったことだろう。