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魔王様と16人のヨメ物語  作者: 九重七六八
覚醒モード
14/139

夏とトリプルデート大作戦 元馬編

 1日目はVS源元馬である。待ち合わせはこちらの指定どおり駅の噴水前。初夏でからっと晴れたデート日和。ちょっと汗ばむ感じだったので、服を選ぶのに手間取った。


朝から女夏が主導権を握っていたので、ああでもないこうでもない・・と朝も早くから服選びで俺としては心の中で超いらついたが、結局、白地にブルーの水玉のワンピース。ちょっと胸元が開きすぎて、スカート丈も思ったより短くて、元馬の奴にサービスしすぎだと思ったが、これくらいの方が元馬が喜んでギクシャクした雰囲気を打破できるような気もした。


女夏もそんなことを考えてのチョイスだろう。妹の秋が薦めるミニスカやホットパンツはさすがにサービスし過ぎなので却下したが。


元馬は待ち合わせより30分も早く待っていた。昨日、急に彼女の方からメールが来て、もやもやした気分が吹き飛んだ。(そうだ・・・本日、はっきりさせる)と心に決めての初デートである。バイトも断って彼女優先。本当は来月の家計にピンチではあるが、夏の誘いを断るなら、食パンの耳と水で3日ガマンすればいい。


本当は大金持ちの子息の元馬であるが、家の取り決めで成人するまで学費以外の生活費は自分で稼ぐことになっている。だからといって、お金があればなあとも思わない。お金よりも熱いハートだ!と心に言い聞かせた。


「源く~ん」


遠くの方から愛しの彼女が走ってくる。白い日傘が彼女の動きとともに上下に揺れる。その姿は・・夏のお嬢さん・・という感じでとても素敵。思わず・・「いい・・」とつぶやいてしまった。


彼女の清楚な感じがいっそう引き立ち、まさしく俺好み!と元馬は天を仰いだ。


(この姿を見られて、源元馬、一生の悔いなし)


心の中をのぞけるなら俺は思わず突っ込みたくなる台詞だが、他人の心境まで読み取ることはできない。何故か空を見上げて両拳を握っている元馬に女夏が話しかける。


「どうしたの?源くん」


我に返った元馬。


「いや、なに、ちょっと、その、あの・・夏さん・・いや、夏」

(こいつ、さん付けから呼び捨てにしやがった。デートで気が大きくなったか?)


「その服、とても似合ってるね。君にぴったりだよ」

「あ・・ありがとう・・」


女夏もどう答えてよいか分らないようだ。まあ、男の俺は元馬の心境も分からなくはない。

きっと今日のデートだって、自分がリードしなきゃって昨日一晩考えたに違いない。決め台詞も話の内容も十分考えてきたが、思うように話せないのが当日なのだ。立松寺と初デートの時を思い出す俺・・。


(ちょっと待て!あの時は別れ際にその・・あの・だったが、女夏の奴、同じことするんじゃないだろうなあ。)


第三者的に見ると格好悪い元馬の言動に突っ込みたくなるが、優しい女夏は嫌な顔一つしない。さすが、魔王のヨメである。


 デートはお金のない元馬に合わせてウインドーショッピング(もちろん、見るだけ)やデパートの物産展の試食巡りだったが、高校生カップルなら十分楽しめた。いや、意外に楽しい。そりゃ、好きな相手なら一緒にいられるだけで楽しいだろう。心の中の俺は全然楽しくないが、女夏は心から楽しそうにしていることは分かった。


物産展では、売り子のおばちゃんに、


「そこの彼氏、きれいな彼女連れてるねえ。どうだい、このイカの沖漬け、彼女と試食してみて」


と言われて喜ぶ元馬。夏も夏で、オバちゃんから渡されたイカの沖漬けを小皿からつまようじで刺して、元馬にあ~んとやりやがった。どこから見ても熱々カップルである。


ウインドーショッピングでは、アクセサリーのしゃれたお店でステキな銀のペンダントを見て、


「これちょっと可愛いね。二人でペアっていうのもいいね」


と女夏が手に取り、どれどれと元馬も覗いて、値札を見ると、7800円也。思わず、二人で顔を見合わせて、


「高い!・・」

と声が合わさって思わず笑ってしまう。高校生カップルにとっては高い品物だ。本当はセレブの元馬には、きっと大した金額じゃないが(その気になれば、店のアクセ全部買い取りも可能だろう。)でも、「買ってやる」なんて言い出さない元馬は、夏にとってもとても気が楽な存在だ。


「ちょっと高いから、これなんかどうかな?」


夏は店の隅にあった棚からストラップを手に取った。小さな動物のキャラクター(ウサギもどき?)が付いている。男の子と女の子(動物ならオス、メス?)のペアになっている。

1つ250円。これなら高校生のお財布にも響かない。二人でお金を出し合って、お互いにプレゼントする。


「初デート記念ね」


無邪気に微笑む夏を見て、元馬は、


(く~っ・・可愛い、抱きしめてえ・・。)


という衝動と戦っていた。お昼にはお馴染みのハンバーガーチェーン店での食事。二人とも新聞チラシのクーポン持参。お好きなハンバーガーと飲み物とポテトMサイズ2つのペアセットで950円が800円になる優れものだ。コーラを飲みつつ、夏はフライドポテトを摘み、元馬に


「源くん、はい、あ~ん」


(おいおい、女夏。さすがにサービスしすぎじゃないか?)

(うるさいわね。元馬くんが魔王様かもしれないでしょ。これくらい当然よ。)


それにしても・・・あの熱血硬派男、源元馬が完全に骨抜きに腑抜けな顔。学校の取り巻き男子には絶対見せられない顔だ。


そして夕方になった。


「ちょっと遅くなっちゃったな」

「ううん・・まだいいよ。何だか、別れがたいよね」


まだ、日は傾いているがまだ暗くはなっていない。小さな公園のベンチに二人で腰掛け、ちょっと会話が途切れた。


「あの、夏・・聞きたいことが」

「宗治先輩のこと?」


「ああ、その何というか、先輩が君に告白したって聞いたけれど・・」

「源くんもしてくれたじゃない。私と付き合ってって」


「ああ、確かに言ったよ」

「それって、私のこと好きってことよね」


「ああ、そうだよ」

「う~ん・・そうだよじゃなくて・・」


(おい、女夏、何言い出すんだ。)

(あなたは黙って、ここからは女の子の駆け引き。)

(駆け引きって・・。)


こいつ、完全にデートの主導権を握ってやがる。


「夏、好きだ。愛してるって言って」


元馬は真剣な目で夏を見つめた。そして思い切ったように


「夏、好きだ。愛してる。宗治先輩や隆介には渡したくない」


「あ・・ありがとう。私も源・・ううん・・元馬くんのこと好き。」

「な・・夏!」


元馬が理性を失ったように女夏を抱きしめた。


「うれしいよ。ずっと大切にするから」


急に抱きしめられて元馬の胸に添えた右手できゅっと女夏は元馬のシャツを握り締めた。

合図だと思って体を離す元馬。


(おいおい・・初デート初キスは早いだろう!女夏!)


自分のことは棚に上げて叫ぶ俺。


(何バカなこと言ってるのよ。確かめるの。)

(確かめるって何を?それより、今の状況はヤバイって・・)


確かに元馬の野郎、真剣に女夏に向って顔を近づけてくる。どうする!女夏!!


「あの・・元馬くん?」


かなり急接近でも目を真ん丸くしてとぼけたように言う女夏。(うまい)

我に返った元馬が固まり、顔が急に赤くなる。(これは恥ずかしい。)

寸止めくらった元馬に女夏が、


「私のこと大事にしてくれるって言ったよね。どんなことが起きても夏のこと守ってくれる?」

「あ、ああ。守るよ」


「うれしい。その言葉、忘れないでね」


さっと、ベンチから立ち上がる女夏。(ひでえ・・。寸止めかよ。)


(簡単に落ちないのが価値を高めるの!立松寺さんと一緒にしないで。)

(一緒にて・・立松寺を侮辱するな女夏!彼女はなあ、彼女は、入学試験の時から俺のこと好きで好きでたまらなかったんじゃあ!!!!)


(はいはい、ごちそうさま。それはさておいて。これで元馬くんは、宗治先輩と同列の魔王候補ね。私のこと守ってくれるって心の底から思ってくれているわ。)


(お前が言わせたんだろ・・)と思ったが、女夏の意図が分かった。宗治先輩は魔界のことや側室戦争のことを知った上で夏を守ってくれると言った。夫たる魔王なら、ヨメたる夏を守ると言うに違いない。


だが、元馬は知らない。知らないが、きっと知れば宗治先輩のように夏のことを守ってくれるだろうことは、先ほどの言動から俺にも分かった。それくらい彼の思いは真剣であった。十分、魔王候補の心構えができているといっていいだろう。いっそのことキスして、確かめればいいのに・・と思ったが、女夏の気持ちもよく分かった。


こいつ、宗治先輩の告白にかなり宗治先輩寄りに心が傾いていた。だけど、元馬や隆介のことも嫌いではない。むしろ、好き。だからどうしていいか分からないのだろう。誰を本当に好きなのか。彼女なりに迷いがあるのだ。迷っているのにキスはできない。何といっても女夏も乙女なのだ。


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