黒の夏妃 破
マオヨメ全員集合!(蝶子さん以外…この女性本当にかわいそうになってきた)最後の戦いに向かいます。
「魔王様がご帰還なさいました」
夏妃の元へ侍女が告げると護衛の兵の肩に寄りかかり、ボロボロの状態で宗治が現れた。
「せ…先輩」
夏妃は宗治に駆け寄る。
「勝って、お前を俺のモノにすると言っておいて、このざまだ。どうやら余は主役にはなれなかったということだな…」
「しゃべらないで…今、回復を…」
「無駄だな…。お前の力でも無理だ」
夏妃は自分の絶対回復の力を開放したが、その魔力はむなしく宗治の体を素通りしていく。魔王としての魂が砕かれ、この魔界に存在自体が失われつつあるのだ。
「例え、お前に余を直す力があってもあの2人の手前、それは受けられぬしな」
「先輩、もう話さないで…」
しゃべることでこの魔界に存在するエネルギーが加速していくことを感じて夏妃はそう言った。宗治の手を両手でぎゅっと握る。
「いや、人間界に戻っても余はお前のいない世界にどう生きていくのだろうかと思うと残念だが、ここへやってくるであろうどちらかの魔王に幸せにしてもらえ…」
「先輩、目を閉じてはだめ…先輩…」
パキ…パキパキ…
宗治の魔王の魂が壊れていく…だが、そこから黒い光が現れ、宗治の体を抱きかかえた夏妃を包み込んだ。
「きゃああああああ…」
夏妃の叫び声に控えていたドミトル伯が夏妃を黒い光から放そうと夏妃の腕を掴んだ。だが、その掴んだ腕は冷たく氷のようであった。
「御台様!」
ドミトル伯は目の前で起こる光景に立ちすくんだ。
夏妃の長い漆黒の黒髪が広がり、着用していたドレスは黒に変わり、それでいて黒い瞳が赤く染まってこちらをにらみつける。体は宙に浮いて両手を広げている。
「わらわはもはや魔王の正室ではない」
「お前は…誰だ…」
「わらわはカオス女王」
「カオスの女王だと…」
カオスには王はいない。それは天界と魔界の通説であった。何度となく繰り広げられた戦いにおいてもカオスの王は戦場に現れたことがなかった。カオスの王は精神体のみで体が具現化していないのだと言われていた。
「そう、わらわは、カオスの女王、黒の夏妃とでも言おうか…これまで体を持たないわらわであったが、暴虐の魔王の心に住処を見つけ、今まで機会を伺っていた。魔王の魂が壊れ、この女の心に悲しみの傷ができる機会を…」
「最初から、御台様を狙っていたのだな」
「ふふふ…初めは人間界で誘拐しようと試みたが、こ奴の絶対回復を持つ強固な魂を虜にすることは難しいと考えた。それでこのような回りくどい作戦を考えたのだが、成功するとはな」
「御台様に同化してどうしようというのだ…」
「この女の無限大の回復力をマイナス方向に変えるとどうなると思うのだ?魔界の伯爵よ」
「無限大の破壊力…」
「そうだ。この女の力を開放し、魔界も天界もすべて無にする」
「そんなことはさせない」
ドミトル伯は剣を抜いた。
「無駄だ…お前ではわらわは倒せぬ。倒せるのは魔王と側室だけだが、ここへ彼らが来るには無限のカオス兵を倒せなければならない」
そう言ったやいなや、地面から無数のカオス兵が湧き出てきた。城やカルタゴの町の地面のいたるところから…。それらの兵は魔界兵や町の住人に襲い掛かり、阿鼻叫喚の世界へと変える。
ドミトルは今、夏妃を取り返すことをあきらめた。激熱、天智の両魔王に報告し、すぐさま、この2人と側室たちを伴っていくしか助ける方法はないと思ったのだ。現れたカオス兵を斬りながら、ドミトルは城のベランダから飛び出した。コウモリと化し、魔界の本陣へと向かう。
宗治を取り逃がしたものの、勝利を確信してカルタゴの町に侵入した魔界軍であったが、突如と現れたカオス兵に混乱した。それでも、なんとか軍を立て直し、攻撃体制を整えつつあった。この度の遠征の全指揮官を集めて、軍議が開かれていた。そこへ、城から抜け出したドミトル伯が現れた。報告を聞いて一同、驚きで声も出ない。
「すぐ城へ突入して、夏妃を救わねば…」
元馬がやっとそういったが、宗治から受けたダメージはまだ癒えていない。胸に巻いた包帯が痛々しい。
「私とランジェがカオス兵を引きつける。両魔王はその隙に御台様の元へ…」
「だが、カオス兵は無限に湧き出ている。いくらリィ殿やエトランジェ殿でもあれだけの数を突破するのは難しいぞ」
隆介はそう言う。ここは全戦力をぶつけるべきだろう。
「待てい!」
本陣に聞きなれないしわがれ声がした。リィにとっては聞きなれた声であった。
「大賢者オージン様!」
「夏妃様はもはや、カオスの女王となったのじゃ。そしてその能力を開放するために、祈りを開始した」
「それはどういうことです?」
「祈りが終われば、この魔界も天界も一瞬で吹き飛ぶ」
「そんな…それじゃあ、ジ・エンドじゃないアルか」
「おお…ランジェちゃんじゃないか、満天ちゃんに美国ちゃんに加奈子ちゃんも…おお、これがハーレムというものか」
「オージン殿!」
リィが一喝する。こほんと咳をして、オージンは続けた。
「祈りが終わる前に夏妃殿を討てれば、破壊の威力は縮小される。だが、少なくともカルタゴの町やこの辺りは全滅じゃろう」
「それでは、突入したものはみんな死んでしまうのか?」
リィが叫ぶ。
「死ぬのを覚悟で行くしかないが、それがなければ、この世は終わりじゃ」
「どうやら、行くしかないようだな。俺は夏妃のためにならこの命を捨てることができる」
元馬がそう言うと隆介もうなずいた。
「お兄様…わたくしも同行します」
満天もそう兄に同調する。
「人間出身のものは、人間界に帰るだけ。それなら、私たちも同行しますわ」
グールモンにいるはずの中村杏子とチュニスに守備をしている宮川スバル、後方で療養していた立松寺華子、ファナ、ひかるちゃん、カミラちゃん、アレクサンドラさん、桃花先生までいる。
15人の側室、正室が勢ぞろいしたのだ。全員、大賢者オージンが招集したのであったのだが。
「いやいや、蝶子ちゃん以外はすべてこの場にいるとは、死ぬ前によい光景を目にすることができたわい。眼福、眼福」
「オージン殿の冗談はともかく、夏妃さんのところまで行くための作戦案を言います」
中村杏子が作戦を告げた。
黒の夏妃は彼女の心深くに潜む腹黒な心にカオスが取りついた姿。倒せば終わり。最後のラスボスが主人公とは…ごめんなさい。安易な展開で。