カルタゴの戦い 後編 その5
いよいよ、内乱の最終決戦、カルタゴの戦いも終わりに近づきました。
この作品自体もそろそろ、潮時かもしれません。
第1陣のリィ・アスモデウスの軍団が分断され、開かれた決戦への道を突破して、暴虐の魔王こと一柳宗治の軍団が、激熱の魔王こと源元馬の軍とぶつかったのは、このカルタゴの戦いが開始されて約1時間後であった。元馬、隆介らの魔界軍にとっては作戦通りの展開、宗治にとってはあえて踏み込んで一縷の勝利を目指した結果であった。
「さすがだな…」
激熱の魔王こと源元馬は、阿修羅のごとく、自軍を撃破していく敵軍に感嘆せざるを得ない。目的がはっきりしている。宗治の狙いは自分と一騎打ちをすること。そのために、防御を厭わない激しい攻撃で、自分の本陣に迫る必要があった。兵士への訓令が行き届いているのだろう。一糸乱れぬ戦いぶりで、徐々に自分の本陣に道が開かれていくのを感じていた。
(だが、その一騎打ちで宗治先輩を倒す。それに簡単に本陣に近づけさせるほど、俺の兵も弱くはない。待ってろよ、夏妃。必ず、俺はお前を救い出す…)
元馬は伝令を送って前線の指揮官に命令を出す。できるだけ、宗治の戦力を削るのだ。
「殿下、そろそろですね」
加奈子が激熱の魔王の軍の様子を見て、そう隣にいる隆介に促した。作戦の第2段階である。
「そうですね。メグルの軍に伝令を。左から回り込み、敵の右翼に突入せよと。そして我が軍に伝達。右から迂回して、暴虐の魔王の左に攻撃をかける」
軍勢が自分の命令通りに移動していくのを見ながら、最終的には自分たちが宗治を倒さなければならないことを知っていた。なにしろ、魔王を滅殺することができるのは、自分たち別の魔王か、一部の側室にしかできないからだ。隆介は自分のウェポンである「鎮魂の双魔銃」を見つめた。
これで意見を同じくしない先輩にご退場願うしかない。
「物部カルマ…もはや、負けは確定だアル。降伏するアル」
序列第2位エトランジェ・キリン・マシニッサ、通称ランジェは、総崩れとなった自軍の兵士に微動打もせず、聖弓「森羅万象」で次々と立ち向かってくるランジェの兵士を倒していくカルマにそう呼びかけた。満天の軍とランジェの軍に挟撃され、2倍以上の敵に対して奮闘した序列第6位の物部カルマであったが、もはや、勝敗は誰の目にも明らかであった。
だが、カルマとしては簡単には降伏はできない。
(宗治のためにも、少しでも時間を稼がないと…)
その一心であった。だが、それも限界に達していることは彼女自身も分かっていた。実際、カルマの軍が総崩れとなり、あとはランジェに任せればよいと判断した序列3位の源満天は、兄(源元馬)に立ち向かう暴虐の魔王の軍の後背を突こうと軍を引き上げつつあった。だが、カルマにはそれを黙って見過ごすしかできなかった。
可能性としては、今、ここでランジェを一騎打ちで倒すことだが、序列2位のランジェを自分が倒すことなど、それこそ奇跡が起こらない限り難しいことであったが、カルマは意を決した。元婚約者である宗治のためにやるしかない。
(人間界出身の私は死ぬと人間界に戻るだけ。ただ、記憶はすべて失われ、宗治との関係もなくなってしまう。でも、それでも、彼のために戦って散るしか私には道はない)
カルマは「森羅万象」を握りしめた。矢をつがえて、遠くで呼びかけてくるランジェに狙いを絞る。
「ランジェちゃん…いざ、勝負!物部カルマ、全力であなたに立ち向かいます!」
自分に向かって叫び、矢を放つカルマを見て、ランジェも戦いを決意した。もはや、側室同士の意地だ。ランジェは1の矢を手に持った魔槍ゲイ・ボルクで叩き落としたが。その後ろに2の矢が同じ弾道で放たれていた。矢が自分の目の前に来る。
「うおおおおおっ…」
小さな体に似合わない雄たけびをあげて、ランジェは体をねじった。矢じりが頬をかすめて後方の兵士を射倒す。
「カルマ~っ…」
カルマの連射をかわしつつ、ランジェはダッシュする。それに連射で対抗するカルマ。容易には近づけさせない。
「無駄です!ランジェちゃん、森羅万象の特殊能力は連射。しかも、ただの連射ではありません。森羅万象と特殊能力発動!百花繚乱」
連射された矢が百の矢に分裂し、まるで巨大なホースで水を撒くようにランジェに襲い掛かる。ランジェは側転を繰り返して矢の洪水を避け、最後にポンと地面を蹴って飛び上がった。
「我がウェポン、ゲイ・ボルク…行けアル!」
ランジェが槍を投げるとそれは消え、カルマを中心とした3方向に現れた。
3つのゲイ・ボルクがカルマに向かう。カルマは真後ろに体を反らせ、手をついて後方転回してかわす。3つのゲイ・ボルクが先ほどカルマがいたところに突き刺さる。それは1本になり、すぐさま、ランジェの右手に戻る。
「ランジェちゃん、やりますね。槍を投げるなんて…。でも、たった3つに分身するだけでは、私の森羅万象にはかないませんわ。長距離攻撃では私の方が上のようね」
「カルマ、知らなかったアルか?私のゲイ・ボルクは投槍アル。そして、3方向からの攻撃は基本設定アル」
ランジェはゲイ・ボルクを再び投げる。そして、それは消えた。
カルマは次の3方向はどこか、見回す…だが、無数のゲイ・ボルクが自分を取り囲んでいるのが見えた。
「うそ…こんな攻撃って…」
「不本意だが、私のゲイ・ボルクはあの女好き種馬の魔王の強化の力によって、レベルアップしているアル…その数は…千本」
千の槍が全方向から襲い掛かる。これを避けるなど不可能だ…。
カルマは目をつむった…
(宗治…さよなら…)