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魔王様と16人のヨメ物語  作者: 九重七六八
激闘モード
132/139

カルタゴの戦い 番外編 蝶子VS杏子

暴虐の魔王の軍の中でもやられ役のかわいそうな藤野蝶子さんと天智の魔王のブレーンの中村杏子さん。この目立たない2人の対決が実現しました。11位と15位ですから、蝶子さんの圧勝なはずですが…。

 藤野蝶子は眼下に魔界軍の補給基地であるグールモンを見て、歓喜した。


「宗治様…勝ちましたわ…敵はわずかに2千。しかも序列第15位の中村杏子のみ」


予想では第7位のメグル・インドラ・ハヌマーンが守備しているはずだったので、奇襲以外に戦う方法は見いだせなく、この行動は陽動の意味に過ぎないかもと内心思っていたので、思わぬ収穫があげられそうだと思ったのだ。


「全軍、一挙に敵を粉砕し、補給物資を奪い取るのだ」


蝶子率いる3千が襲い掛かる。兵力でも勝り、側室の能力でもはるかに上である。勝利は確定していた。だが、一騎打ちに出てきた中村杏子は静々と出てきて、中国の軍師が持つ鳥の羽の軍配をそっと自分の方に向けてきた。明らかに挑発している。蝶子は甲高い怒鳴り声で杏子に叫んだ。


「降伏しないさい。あなたが私に1対1でかなうはずないじゃない」


蝶子の持つウェポンはグレイプニルは鎖鎌。しかもその鎖に絡められたら抜き出せない強力な特殊能力を秘めている。対する中村杏子のウェポンは不明だが、噂によるとそれは武器ですらないらしい。


「未だに序列で勝負が決まるだなんて、先輩は頭にカビでも生えてるんじゃないですか?」


いつも知的な中村杏子だが、ここでは挑発するかのような口調であった。


「何をバカな!死にたいようね!来たれ、我がウェポン、グレイプニル!」


プライドの高い藤野蝶子は激高した。だいたい、15位ごときが11位の自分にかなうはずがない。


「そのおつむごと鎖でぎゅうぎゅうに絞め殺して、人間界へ叩き返してあげるわ」


「蝶子先輩こそ、負け犬ね。夏妃さんにも勝てず、この私にも勝てず…さみしく、人間界に帰るなんてかわいそ過ぎ~」


「その減らず口から、ふさいであげるわ!」


蝶子は自分めがけて突撃してきた。杏子を守ろうと立ちふさがる兵士をグレイプニルでなぎ倒し、本陣へ迫ってくる。


(かかったわ…蝶子先輩のお馬鹿さん)


確かにまともに戦ったら勝ち目はないことは承知である。だが、杏子には勝算がただ一つだけあった。そのためには蝶子が自分の攻撃エリアに入って来なくてはならない。それも気づいても逃れられない距離に…


「我がウェポン…3枚の金貨…召還」


中村杏子が両手を合わせて天に祈ると空からコインが3枚落ちてきた。


「何?あなたのウェポンはお金?ははは…笑える。守銭奴らしく、側室の象徴もお金とは」


「あなたのような野蛮な武器とは違いますわ」


「ふん。どうせ、金で天智の魔王に身を売った女でしょうが。けがわらしい」


「私は私の才能を買ってくれた橘隆介という男に惚れただけだわ。惚れた男に才能で恩返しをするのは女の矜持」


蝶子は杏子を自分の攻撃エリアに置いたまま、攻撃するのをためらった。この期に及んで、この余裕…杏子にどんな技があるか警戒したのだった。


「私のウェポンは召還系。3枚の金貨を投資することで召喚獣を呼べるわ。但し、召還は1回。金貨を3枚とも使い切れば半年は召還できないリスクもあります」


「何?召還系ですって…魔獣ごとき、私の敵ではないわ」


蝶子は人間界に居る時に側室戦争に巻き込まれて、ケルベロスに襲われて宗治に救われた経験があったが、側室となった今は、魔獣ぐらいでは脅威にも感じなかった。確かに魔獣を召還されれば、自分の兵士がいくらか犠牲になる可能性は大いにあったが、それは自分がすばやく倒せばよいだけである。


「魔獣クラス?金貨1枚ならその程度でしょう。でも、あなたに敬意を称します」


杏子は手にした3枚を空に放りあげる。


「金貨3枚投資…出でよ、我が元に」


空に暗雲が広がり、杏子の頭上に大きな渦を巻く黒い雲。ものずごい音と共に雷がなって、それは降りてきた…。


「古代の機械兵器獣…アルキメデス召還」


実のところ、3枚の金貨で呼び出せる召喚獣はハイレベルながら、ランダムで何が呼ばれるか分からない。だが、呼ばれた召喚獣の一撃は魔王すら倒すことも可能と言われる。その一撃をかわされれば、もはや勝ち目はないが、側室11位相手でこれだけ射程距離にあれば、撃ち損なう可能性は0であった。


召喚獣アルキメデスは見た目巨大なロボットであった。体のところどころから蒸気が噴き出て、歯車やゼンマイが回っている。体の一部がスケルトンになっているので、この生き物?が機械仕掛けであることを示唆していた。その召喚獣アルキメデスが巨体の上半身を雲から出し、口から巨大な砲を蝶子に向けていた。


「うそ…こんなの…こんなのうそよ!」


蝶子は前進を止めて、逃げにかかった。この召喚獣はヤバいと感じたのだった。自分の後ろから強烈な光を感じた。


「うそよ…私が、こんなところで…」


光が蝶子を包み込む。アルキメデスの一撃が発射されたのだった。


「そ…宗治~っ…」


その巨大なレーザー砲によって、藤野蝶子は拝領した3千の軍とともに魔界から消えた。


「ごめんなさい…蝶子さん」


中村杏子は藤野蝶子のことを思ってちょっと涙ぐんだ。一柳宗治という男は、きっと蝶子を使い捨てのつもりだったに違いない。おそらく、彼女をここへ派遣することで、少しだけも魔界軍の戦力を削ごうと考えた程度に過ぎない。


それを予想してメグルの軍を前線へ送ったので、結果として藤野蝶子は犬死であったのだ。


(彼女の一途な思いを感じていれば、せめて自分の傍で死なせてあげれば、彼女も幸せだっただろうに…)


そう中村杏子は思った。まあ、自分も蝶子が激高せずに冷静に攻撃してきたら、おそらくこの世にはいなかった。自分の攻撃は1度っきりで、しかも射程外に出られたら一撃で仕留められなかっただろう。そうなればなぶり殺しであった。


(さて、主力同士の戦いの行方はどうなるかしら?)


中村杏子は決戦が行われている北に目をやった。


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