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魔王様と16人のヨメ物語  作者: 九重七六八
激闘モード
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カルタゴの戦い 後編 その3

 俺ことイレギュラーの魔王、土緒夏はランジェ隊の後方の丘に陣どっていた。美国ちゃんの800人もいたが、戦いに加わるつもりは毛頭ない。この丘は主戦場からは離れているが、戦況をよく見るにはもってこいの場所であった。丘のふもとには数騎の偵察兵が見える。旗から見ると三ツ矢加奈子の偵察隊らしい。


「魔王様、ここは安全とは思いますが、万が一もあります。旗を下げてはいかがですか?」


そう俺専属のメイド頭、ロレックス侍従長が進言するが、さすがにそれは男らしくないので却下した。自分が狙われるとはこれっぽちも思わないからだ。それにリィやランジェのことを思うと自分ばかり安全を計って見物というのもいたたまれない。


カミラちゃん、ファナとここ最近の戦いでケガをして療養していることもあって、これ以上、自分を慕ってくれる女の子たちを傷つけたくはないのだが、自分に力がないために、またしても彼女らを前線に立たせてしまっている。


「リィの軍が押されている…」


俺は遠くで繰り広げられている戦いの状況を分析していた。リィの金の双頭の蛇が、赤い鷲の旗に後退を余儀なくされている。


「カテル様の捨身の攻撃です。あの分では長く攻勢は続かないと思いますが、本陣に斬り込まれると…」


この間の戦いから、俺の副官になったティソちゃんが、そうコメントする。彼女は自分の小隊の中では戦いに使える唯一の人材である。


「リィVSカテルさんか…リィの奴、大丈夫だろうか…」


「剣技は互角、あとはウェポンの性能しだいだと思います」


そうティソちゃんは冷静だ。ウェポンしだい…ということは、魔王の愛しだいということ。俺のリィに対する愛の深さが試される。


「それならリィの圧勝だ!なぜなら、俺はリィがとても大好きじゃあ~」


思わず叫ぶ俺。ティソちゃんは、はあ~とため息をついた。


「魔王様、妃殿下にもファナ様の時もエトランジェ様の時もそう言っておられましたが」


「いや、俺は立松寺も大好きだし、ファナも好きだ。ランジェも可愛いと思っている」


「全部本気と言うことですか…。ある意味、偉大な方ですね」


この冷めた口調でぼそぼそっと話す副官との会話は、意外と新鮮で俺は最近心地よく思っている。お姉さん系のロレックス嬢やオメガ嬢とは違った魅力だ。


そこへ偵察に出していた兵が戻ってきた。


「魔王陛下、リィ様の軍が突破されました。暴虐の魔王の直属2万が激熱の魔王様と激突します」


「えっ?そんなバカな?ランジェや満天ちゃんはどうした?」


「第2陣のランジェ様、第3陣の満天様は後方より左右に展開したようですね。これは魔界軍の作戦ではないでしょうか?」


「作戦?」


俺はこの戦いでもまったく貢献していない自分の不甲斐なさと同時に、そういった作戦が知らされていない事実に腹正しい気持ちを持った。確かに自分自身は大した戦力を持っていない。戦争のやり方もド素人であるから、配下のリィやランジェにはそれぞれの指揮で動いてもらっている。だからといって、作戦内容を知らせてくれないでは、彼女たちの安全すら自分は知ることができないということである。


「くそ!元馬と隆介の奴…俺を無視するならリィやランジェを先鋒にするなんて虫がよすぎる。1回、がつんと言ってやらねば…」


「魔王様、この戦い、私たちは別の目標を持って臨むべきかと思います」


急に傍らにいたロレックス嬢が割って入ってきた。


「別の目標って?」


そもそも大して貢献できない兵力でのこのこ戦場にいるのは、リィやランジェのことを心配してなのだが、ロレックス嬢が反対もせず、ここまでやってきたのは妃殿下元帥こと立松寺華子から、重大な作戦を指示されていたからだ。


「申し訳ありません…実は妃殿下元帥よりある作戦を指示されています」


「立松寺が?」


ロレックス嬢は小声で俺の耳元でそれを伝える。


(立松寺…お前はなんて…できた嫁じゃあ~)


 リィはカテルの攻勢に押されながらも、作戦通り自軍を2つに巧みに分離し、中央突破をされたフリをした。一歩間違えば、全軍崩壊につながる行為である。兵士の士気を失わないように激励しながら、分断されたままその場で戦い続ける。カテルの軍も2手に分かれてリィの左右の軍と相対し、突破して切り開いた道を宗治の2万の兵が突き進んでいく。


後方のランジェと満天は左右に分かれて、元馬の前から移動していた。これはカテル隊の後方で遠距離攻撃しているカルマ隊を挟撃するためだが、宗治の軍を奥深く誘い込む作戦の一環でもあった。


(ランジェと満天がカルマさんを撃破する。4倍以上の兵力での挟撃だ…。いくらカルマさんでも持つまい。そしてカテルは私が倒す。その後、後方より、暴虐の魔王を包囲殲滅する)


「だが、天智の魔王が立てた作戦通り、進むかは分からない…。この作戦どおりに突き進むことも、暴虐の魔王の唯一の勝機でもあるからな」


リィは戦況を眺めながら、カテルとの一騎打ちが近いことを知った。


敵の第1陣リィ・アスモデウスの軍がもろくも崩れ、カテル隊が中央突破したという報告を受けて、一柳宗治は、


「早すぎるな…」


とつぶやいた。副官の将校が、


「魔王様、作戦どおりです。進軍なさいますか?」


と指示を促したが、しばらく考えこんだ。その姿を見て副官は、


「あっ…敵の罠の可能性もあります」


と慌てて斥候兵に状況を再度確認するように命じた。

すぐさま、恐るべき報告が入る。


「敵の第2陣、3陣が移動、左右に展開しつつあります」


「やはりな…」


「魔王様、敵は手薄になったと見せかけて、我が主力を誘い込もうとしているのではないですか?」


「その通りだ。だが、進まねば我が軍の勝機もなくなるのは事実」


確かに兵力に劣る宗治としては、短期決戦で元馬と隆介を倒すこと以外に逆転の目はないだろう。敵の作戦に乗るが、敵の予想を超えた攻撃力で撃破するしかない。


「全軍に命令。カテル隊が確保した通路を通り、一挙に敵の主力を撃破する」


2万の軍勢が一丸となって突き進む。


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