カルタゴの戦い 前編 その2
ただでさえ強い俺(土緒夏)の正妻、立松寺華子に強化を使ったらどうなってしまうのか?はい!無敵のヨメ一丁上がり…。
「痛たた…」
俺は頭をさすりながら、陣幕の椅子に立松寺とともに座っている。前にはリィと美国ちゃんが控えている。
「ふん。戦いの前に不埒なことをするからよ」
相変わらず、立松寺は厳しい。リィに襲い掛かって殴られたことを知っているらしい。
「妃殿下、魔王様は新しい力に目覚めたと思われます」
リィがそう告げた。
「新しい力?」
俺と立松寺が同時に聞き返す。
「はい。どうやら、エンチャットウェポン…強化の力です」
「強化?」
「はい…。私のフィン・マークルは1日に1度だけ、強力な破壊力を生み出す万騎崩壊を発動できますが、魔王様の強化の付与を受ければ、違う特殊能力が付与されることが分かったのです」
「側室の力を強化する能力ですか?そのためには、彼は何をすればいいのですか?」
立松寺が聞く。たぶん、この奥さん、答えをおおよそ知っている。
「はい。戦う直前にキス…とか、アレ…とか…アレ…とか」
リィも顔を赤くして話す。
「つまり、戦う直前にいちゃいちゃする…ってことね」
はあ~っとため息をつく立松寺。
「あなたらしい…といえば、あなたらしいけど。勝つためには黙認しなければいけない私の立場が憎いわ…」
「いや、これは俺が望んだわけじゃないから…」
俺は慌てて言い訳をする。
「妃殿下、私は魔王様に十分付与していただきましたので、この戦い、新しい力で勝利を妃殿下に捧げることを誓います」
「はい。十分に期待していています。リィ・アスモデウス」
机の下で俺の足をグイッと踏む立松寺。いつもの彼女の愛情?表現だ。
「でも、リィ。今回は私が出ます。宗治先輩が戻る前に戦力を削りとるわけですが、カテルさんは私が倒します。できれば、降伏させたいのですが。あなたは、後方で魔王様を守りつつ、宗治先輩の動向を監視しておいてください。いつ、戻ってくるかわかりませんから」
「しかし、妃殿下自ら出なくても…」
「元馬くんや隆介くんが来ると宗治先輩も収まりがつかなくなる恐れがあります。その前に宗治先輩を説得するのです」
確かにただでさえ劣勢な宗治が、さらに本拠地を奪われ、戦力の半分と指揮官である3側室を失えば、計算高い彼のことだから、戦いを止めるという選択をする可能性があった。
「妃殿下元帥様。カテル様ら、3側室様、全兵力で展開しています。平原で我々と戦うつもりです」
斥候からの報告に立松寺は、
「やはり…そう来ますか」
と言って机に広げられた地図をにらんだ。
「やはりって、町に立てこもった方が時間稼ぎできるんじゃないのか?」
俺は素朴な疑問をぶつける。宗治が戻ってくるのを待つなら、立てこもるべきだろう。
「いえ。立てこもってもこちらにはリィさんの万騎崩壊があるわ。町の中で乱戦になれば、カルタゴが本拠地である以上、宗治先輩には痛手よ。町に被害は与えたくないのが本音。それに待っていれば不利になるのはあちら。今のうちに私たちを各個撃破することが賢明だということよ」
「立松寺…」
「まあ、カテルがそれだけ有能だということだが、敵はカテルの他にカルマと蝶子がいる。油断はできないぞ」
そうリィは立ち上がって陣を後にした。
(カルマさんか…)
蝶子先輩はともかく、物部カルマとは曰くがあった。人間界では宗治の許嫁であった彼女だが、宗治には終始冷たくされて、一時、自分に迫ってきた女性だ。今は宗治の側室で聖弓「森羅万象」を使う弓使いだ。
俺はカルマさんの姿を思い浮かべて、まただらしない顔をしていたらしい。立松寺に頬をおもいっきりつねられた。
「土緒くん!また、別の女の子のことを考えていたんじゃないでしょうね!」
(するどい…さすが、俺のヨメ)
「いや、別に…俺は何も…」
「まったく、もう。それじゃ、いよいよ、戦いが始まるわ。土緒くん、早くして頂戴」
「早くって?なにを?」
立松寺は顔を赤くして後ろを向いた。
「何って…あなた、強化の能力に目覚めたんでしょ…それなら、私にすることがあるはず」
(ああ…)俺は妙に納得した。後ろから立松寺の腰に手を回すと振り返った立松寺にキスをする。青白いオーラが2人を包む。
この3秒後、調子こいて、立松寺の胸に触ろうとして、おもいっきり足を踏まれることになるのだが。