カルタゴの戦い 前編 その1
俺こと土緒夏は魔王であるが、今のところ人間離れした力は何一つ持っていない。
だが、力が覚醒していないだけで、実はすごい力があるに違いない。でも、そのためには…
一方、慌ててカルタゴに逃げ戻ったカテルは、すぐさま防衛線を築く。予想はしていたので、計画通りに兵の動員、配置をすぐさま行ったが、リィに壊された南門は簡単には修復できない。
(現在、我がカルタゴの兵力は駐屯する守備兵を合わせても3万もいない)
カテルは自軍の兵数を整理する。自分が1万、カルマが8千、蝶子が4千5百が主力である。偵察に出した兵からは次々に魔界軍の全容が伝えられる。
前衛は妃殿下元帥の2万、その後方にリィの1万5千、ランジェの1万2千が続く。
その後方には激熱の魔王と天智の魔王2人が兵を率いている。その数、10万を軽く超える。
「宗治様の不在を狙って、全軍で来るとは…。敵も思い切ったことを…」
カテルはそう言ったが、戦況は極めて不利であった。せめて、暴虐の魔王こと一柳宗治がいればだが、まだ、カオス討伐から帰還していない。
「籠城しかないな。しばらく支えて、魔王様のご帰還を待つ!」
カテルはカルマと蝶子にそう告げた。
「だが、カテルさん、南門はどうします?修復はとても間に合いませんが…」
カルマがそう意見する。敵正面の南門は一番激しい戦いが行われると予想できるのだ。
敵が大軍である以上、ここに防御施設がなければ極めて不利である。
「住人に家の家具を供出させ、それを積み上げてバリケードを作って対処します。蝶子さん、お任せしてよろしいかしら…」
「やるしかないですわ…」
藤野蝶子が退出する。
(いっそ、町に引きずりこんで市街戦に持ち込んだ方が活路を見いだせるかもしれない)
そう思ったが、このカルタゴの町が火の海になったら宗治に叱られることは予想できる。
首都を任されたカテルとしては、ここは少しでも時間稼ぎをするしかなかった。
(それに…)
カテルの危惧は、例え、城門を補修したところで、リィの「万騎崩壊」を受ければ、また破壊されること。つまり、リィがいる限り、籠城は無意味ということになる。カルマも同様のことを考えていたようだ。
「いっそのこと、場外に打って出た方がよいかもしれません。まだ、敵は前衛だけのようですし…」
カルマは斥候からの報告を受けて、そう進言した。まだ、激熱の魔王と天智の魔王の主力軍ははるか後方で、現在、戦闘可能エリアに進軍しているのは、前衛の妃殿下元帥こと立松寺華子の2万とリィ・アスモデウスの軍1万5千だけである。エトランジェ・キリン・マシニッサの1万2千も進軍中であるが、まだ合流しているわけではない。
「そうだな。待っていては敵の数が増えるのみだ。兵力差が決定的になる前に戦うしかないだろう。魔王陛下も急ぎこちらに向かっているはずだ。打って出ながら時間稼ぎをし、魔王陛下が到着すれば、我が軍が数で逆転できる可能性もある」
カテルは決断した。一応、バリケードは築き、町の防御を固めるとカテル、カルマ、蝶子と持てるすべての兵力をカルタゴ郊外に展開したのだった。
さて、リィと合流した俺は、リィの陣営を訪れていた。中央に設営された豪華な天幕の中に入ると水浴びで体を清めたリィが、タオルを巻いたままの格好でマッサージを受けているところであった。
「リィ…」
フラフラとリィに吸い寄せられる俺だったが、リィは体を起こすと両手でストップとジェスチャーをした。お付の従者が気を利かせてそっと退室していく。
「殿下、ちょっと待って。これは長旅で汚れて疲れた私の体をメンテナンスしているところで、殿下の寵愛を受ける準備ではない」
「えっ?だって、お前が来いって言ったじゃないか?」
「確かに言ったけれど、それは別の用事があったからなのだ」
「別の用事?」
リィは例の大賢者オーディンから託されたモノを取り出した。
「リィ、それは…」
「ちょっと、恥ずかしいのだが…殿下、これをかぶって!」
リィがソレを広げるとバサッと俺の頭からかぶせる。
「おい、前が見えないが…クンクン…」
かぐわしい香りが鼻いっぱいに広がる。
「こ…これは…パンツじゃないか!」
なぜパンツを頭からかぶせられたのか理解に苦しむが、この形状…あきらかにリィの所有するパンツ…しかも使用済みほやほや…。
「大賢者オージン様が、殿下の潜在能力を覚醒するために渡してくれたものだ。どうだろう?何か変化が起こらないか?」
リィが心配そうに見つめている。
(いや、待て…これ…リィのパンツだろ。そんなのかぶせられて俺の潜在能力が覚醒するわけがないだろうが)
そう思った俺はちょっと興奮した気持ちを落ち着かせる。少しパンツをずらして目を出してリィを見る。リィの奴、裸体にタオル一枚の姿で俺を見つめている。
「なあ、リィ。こんなことで俺の力が覚醒すると思うか?」
「大賢者様が言ったのだ…間違いないと信じているが…」
「いや…たぶん…無理だと思うけど」
リィはぶるぶる震えだした。
「あのジジイ…私をだまして…」
リィが仁王立ちをして拳を突きあげる。同時にタオルがはらり…と落ちた。
「キャッ…」
リィのダイナマイトな体をまともに見て、俺の鼻から血が噴き出た!
その血がリィのパンツに振りかけられた謎の液体と反応して、青白い光となり俺自身を包み込む。俺はその場でうずくまる。なんだか体の中から湧き起るエネルギーに興奮が高まってくる。
「な…なつくん…どうしたのだ?」
リィが心配してのぞき込んだ。
「うおおおおおおっ…」
興奮が爆発した俺はリィを抱え上げる。そのままベッドに直行だ!
「ちょっ…ちょっと、待って!殿下!」
リィが本気モードで抵抗するが俺の行動は収まらない。普通ならリィのバカ力で軽く吹き飛んでいるはずなのに、完全にこの強大な悪魔娘を抑え込んでいる。しかも、俺のオーラのせいなのか、リィもだんだん力が抜けてきて、抵抗ができなくなる。
リィのバスタオルをはぎ取ってベッドに組み伏せた俺は強引にリィと唇を重ねる。
「うぐぐ…ダメえ…殿下~」
リィの豊かな胸をモミモミする。その時、リィの体に電気が走る。ビリビリ…としびれて全身に快楽が流れる。
「こ…これは…」
リィは体中を駆け巡る快楽に抵抗して目を開けると、ベッドの横に置いてあった花瓶に手を伸ばした。
バリ…ドカ…と鈍い音がして俺は気を失った。
「はあ…はあ…危なかった…」
リィはシーツで体を隠すと倒れている俺を見つめ、クスッと笑った。
「夏くん、強引なのは嫌いじゃないけど、今はダメだ。が・ま・ん。それより…」
リィは右手を開いて見つめる。何だか、不思議な力が宿った気がしたのだ。
(これがオージン様が言っていた、夏くんの隠された力の一つ?)