私の王子様 その1
カテル様は身長170cmの長身美人。いつも目を閉じていますが、本気モードになるとその美しい目をお開けになります。前魔王の序列2位の側室でしたが、今は暴虐の魔王の側室をしていらっしゃいます。序列5位ですが、実力はかなりのものです。
カテルは小隊と共に宿屋を急襲した。恐れていたことが現実化した。宿はもぬけの殻であり、持ち物から第1側室リィ・アスモデウスと天界の上級査察官アサヒ・イズルだと判明した。カテルは城門を守る兵士に守りを固めさせると町全体に戒厳令を出す。藤野蝶子と物部カルマも招集した。
「リィさんがこの町に?単独で」
カルマがカテルに尋ねる。
「天界の上級査察官と一緒だが、たった2人で我らの本拠地にお出ましだ。なめられたものだ」
「宗治様の留守に敵方の重要人物を取り逃がしたとあっては、あとできつく叱れますわ」
蝶子が不安げに言う。ここは見事に討ち果たし、魔王陛下にお褒めの言葉をもらいたいところだが、相
手が第1側室のリィと聞いて、蝶子はすでにかなわないと思っているようだった。
「奴には私があたる。カルマ殿と蝶子殿は、私の援護をしてくれればよい」
「リィさんを倒せるのですか?カテルさん」
カルマもそう不安げに言う。
「いずれ、戦場で会いまみえるのだ。それが早くなっただけだ。奴を倒さないと我らの魔王様の天下は来ないぞ」
カテルの言う通りであった。近いうちに彼女を含む3魔王とその側室との戦いがある。今、リィを討っておけば、その分、勝利が近づいてくるはずだ。
だが、そのカテルの目論見も城門の方から聞こえるすさまじい衝撃音に意図も簡単に崩れ去った。カルタゴの正面、もっとも大きなサウスゲートの方からであった。
(しまった!裏をかかれた)
カテルは自分の計算がひどく狂ったことを知った。極秘に潜入したのなら、出ていくときも秘かに脱出するはずだと思い込んでしまった。正門よりも手薄な東や西、北門から逃げるはずだと思ったのだった。東にはカルマを、西には蝶子を派遣し、自分は北へ向かっていた。
(まさか、兵員が最大でもっとも守りの固い南門に向かうなんて…)
だが、考えてみれば、リィには魔槍フィン・マークルの特殊攻撃、「万騎崩壊」があった。1日に1度だけだが、槍を巨大なビル並みに拡大し、突き刺す化け物のような攻撃法。名の通り、1万の軍を殲滅する破壊力があった。さらに言えば、いずれこの町を攻めるのだから、防御の高い正門を破壊しておくことは理にかなっていた。
「しかも、私は兵の動員も後手に回った」
カテルはわずか1個小隊(30人)程度を連れているに過ぎない。今から自分の軍団を動員していては、間に合わない。だが、破壊された南門に急行すると、カテルにもまだ運は残っていた。500名の近衛騎兵隊が南門に到着したところだったのだ。
「カテル様、近衛騎兵隊のルーブリック大尉です。町の巡回を終え、終結して解散する予定でしたが、南門の異変に気づき、急ぎ駆けつけたところです」
「ルーブリック大尉、よく来てくれました。これより、私の指揮下に入りなさい。第一側室リィ・アスモデウスを追います。それと東門と西門のカルマと蝶子に伝令を出しなさい」
カテルと近衛騎兵隊は、南門を破壊して逃亡するリィたちを追跡する。
「リィ殿…敵が追ってきます。数は500ほど。カテル殿が陣頭に立っています」
森の入り口で木に登って、後方を確認していたイズルがそう報告する。
「まずいな…」
自分たちの勢力圏まではずいぶんある。追いつかれれば、戦闘は必至だが、足止めをされれば近隣から軍隊が到着しよう。それにカテルだけでなく、カルマや蝶子が来たら、いかにリィでも勝算がなくなる。だが、行商用に連れてきた馬では、カテルの軍馬にいずれ追いつかれてしまうのは時間の問題であった。
(せめて、夜明けまでに敵勢力圏から逃れなければ…)
リィは馬に鞭打って先を急ぐ。だが、森を抜けた草原でついに追いつかれた。
「リィ・アスモデウス…やはり、お前か」
「カテル・ディートリッヒ…久しぶりだな」
500の兵の歩みを止めて、カテルはゆっくり馬を進める。
「先輩には敬称を付けるべきだと思うが」
「先輩といえど、序列は私の方が上。先輩の方こそ、敬称をつけるべきかと」
「ふん。生意気な。では、剣技で思い知らせるほかはないな」
カテルは剣を抜いた。血がしたたる呪われた剣「フルティングの剣」である。激熱の魔王こと源元馬も苦戦した、防御無視の触れたものを溶かす剣である。
「カテル様…我々はどうしましょうか?」
ルーブリックがカテルに指示を仰ぐ。一斉に襲い掛かれば、あるいは…と思わなくもなかったが、500程度では時間稼ぎにしかならないのはリィの力を考えれば無用な犠牲だ。
「天界の査察官をけん制してくれればよい。まずは我が奴と一騎打ちで仕留める。なに、力は互角だが、しばらくすれば蝶子もカルマも駆けつけてくる。3人がかりなら、あの傲慢な女を虜にできるはずだ」




