リィの浮気? その3
今回のお話はちょっとだけ…エロい?
このぐらいは…ぎりぎりでしょうか?演技ですから。
2人は旅の商人の格好をしていた。果物を商う行商人の夫婦という設定だ。カルタゴの城門では厳しい監視が置かれ、入場するには暴虐の魔王が支配する都市の市長が出す手形が必要であった。
イズルは偽造した手形を差し出す。
「チュニスで果物行商人をしているラビンとその妻、エルリ…おい、女、顔を見せろ」
フードで顔を隠したリィを咎める兵士。リィとしては素顔を知っている者がいるかもしれないので、警戒をしたのだが返って不審がられたようだ。
「これエルリ、顔を見せなさい。すみませんねえ、妻は恥ずかしがり屋のようで」
イズルがごまかす。リィはやむなくフードを取った。
「おおっ…」
監視兵士の間からどよめきの声が上がった。みすぼらしい服装に身を包んでいるとはいえ、リィの美しさと気品は隠せないらしい。
「行商人の妻にしておくにはもったいないな」
そう兵士は手形をイズルに渡しつつ、そうぼやいた。
「いや、外見ばかりでこれがとんだじゃじゃ馬でして…親の言いつけでもらった嫁ですが、とおい昔、貴族だったことを鼻にかけて性格がちょっとねえ…」
「ああ、分かる分かる。気位だけ高い奴っているもんなあ。特に今は落ちぶれていても、ご先祖が貴族だと言い張る酒場の女がいてな。まあ。その女をからかうのが面白くて、人気なんだが。お前の嫁さんも行商じゃなくて酒場に働きに出せば大人気間違いなしだぞ」
「ご冗談を…」
「イズ…じゃなかった、あなた!早くいきましょう!早くしないと果物売れなくなりますわよ!」
そう言って、リィがイズルの手を引っ張る。
(あまり目立っては、兵士たちに疑念を招くというものだ)
リィはそう思ったが、イズルは逆に悠然と構えていて、兵士たちの世間話に付き合い、いくつかの果物を兵士に配布して堂々と門の関所を抜けたのだった。
「イズル殿、慣れたものだな…」
「ああいう時は、自然体でないとかえって疑われるものです。それに完全に騙せたわけではないようです」
イズルは目線を変えずにリィの手を握り、人差し指で手首に「うしろ」と書いた。リィは荷物を直すしぐさをして、マント越しに後ろを見ると一人の兵士が慌てて物陰に隠れるのを見た。
「イズル殿、ばれたのだろうか?」
「いえ、もし、バレたらとっくの昔に捕まっています。たぶん、あなたがあまりに美人なので、本当の夫婦か疑っているのかもしれません」
「美…美人とあからさまに言われると照れるなあ」
「ふふふ。目立たない風采の私はみごと行商人の若主人ですが、リィ様はみすぼらしい服を着ていてもお姫様の素性は隠せませんからね。いっそ、貴族のお姫様とその従者という設定の方がよかったかもしれません」
「天界の上級査察官殿を従者にはできん。それにこういう姿も悪くはない」
「リィ様にそう言っていただいてうれしい限りですが、あの兵士を何とかしなければいけません。私に付き合ってもらえますか」
「ああ…どうするのだ?」
「今晩の宿を探します」
イズルは計画どおりに町の安宿を訪ね、今晩の宿を確保すると所定の場所で行商を始めた。
リィも売り子として果物を売る。監視の兵士はそれを一部始終見ていた。
「おい、あの行商人やっぱりただの商人だぜ。カミさんは超美人だが」
「宿も同じ部屋を取っているし…夫婦ってのは間違いないな」
2人の兵士はそう話した。先ほど、この二人を通した後に一人の兵士が、妻の方を
「第1側室リィ・アスモデウス様によく似てます」
などと言うものだから、上官がもしかして?と軽く疑って2人を派遣したのだが、取り越し苦労というものだ。第一に、魔王の側室様という高い身分の方がこんな敵地のど真ん中に来るはずがないし、魔王以外の男と二人っきりなどとはありえない話である。
だが、戻ってきた兵士は上官から、「夜まで監視せよ」という命令を聞くことになった。
「イズル…いや、あなた。今日はたくさん売れましたね」
「そうだな、エルリ。今日は贅沢なものが食べられそうだ」
夕刻になり、店をたたみながら2人は夫婦らしい会話を演じる。だが、小声でイズルは、
「いっそのこと、あなたも私も行商人の夫婦として暮らしませんか?」
とつぶやいた。
「な…なにを冗談」
「ははは…冗談ですよ。それより、宿に戻りましょう。今夜が本番ですから」
「ああ」
昼間は行商人として行動し、夜中に大賢者オージンが隠遁生活している場所へ尋ねる予定なのだ。だが、相変わらず、2人の兵士が監視しているのを感じて、イズルはもうひと押し演技しなければと感じていた。
宿に戻った2人は酒場で料理と酒をたらふく飲むと宿へ戻った。6畳ほどの狭いスペースに2人で寝るには少々狭いベッドが1つ。木製の古いテーブルとイスがポツンと置かれていた。部屋のドアを閉めるとイズルは後ろからリィを抱きしめた。
「ふにゃあ~…イズル殿…何をするのだ~」
少々、酒に酔ったリィが思わず身を固くする。だが、酔ったせいで拒否反応は弱い。
「しっ…リィ様、ここが正念場です」
「ふああ?」
「監視の兵士が聞き耳を立てています。夫婦の営みの演技をしなければ」
「夫婦の営み~?そ…それは、嫌だ」
「演技です。あくまでも演技です」
そういうとリィをベッドに押し倒す。
「あん…だめ、イズ…」
「あなたでしょ…エルリ、もうがまんできない。愛しているよエルリ…」
「あなた…来て…エルリ、もう我慢できないよ」
「あん、だめ、激しいよ!こわれちゃうよ!あなた!」
ギシギシ…と安物のベッドのきしむ音がする。
アンアン…という女の嬌声を聞いて、監視の兵士は、
「ちくしょう、あんな美人の嫁さんとウハウハとは…」
「仕事とはいえ、やってられないぜ。うらやましい」
「まあ、これであの夫婦が側室様一行などというバカげた疑いは100%なしってことだ」
「そうだよな。魔王の側室様とあろうものが男といちゃいちゃはしないからな」
そう言って、2人の兵士は宿を離れた。