リィの浮気? その2
俺の大事なリィに忍び寄る強力なライバル!リィ…いかないでくれ~リィ~。
調査結果はあっさりと出た。
「リィ・アスモデウス様、明日より1週間の予定でカルタゴにご旅行です。同伴者は天界査察官、アサヒ・イズル殿」
「イズル殿も天界に自身の移動届を出していますから、お二人でご旅行するのは確実なようです」
ロレックス嬢とオメガ嬢が報告文を読む。
(う…うそだ…あのリィが、男と二人で浮気旅行だと~)
「私、リィ様の気持ち、分かるなあ」
「イズル様って、ジークフリート様みたいに派手じゃないけど、誠実そうだもんね」
ラクロアちゃんとピアジェちゃんの聞こえる陰口が俺の胸をグサグサと突き刺す。
「くそ!俺もカルタゴに行くぞ!」
報告書を握りしめて、俺は立ち上がったが、ロレックス嬢にあっさり却下された。
「それはダメです。魔王様」
「な、なんでだ?」
ふう…とロレックス嬢がため息をつく。
「カルタゴは現在、暴虐の魔王様の本拠地です。イレギュラーの魔王様がのこのこ出ていかれては、処刑されてしまいます」
「え?そんなところに行くの」
俺の中に少しだけ光が差してきた。そんなところに行くんじゃ、これは浮気旅行でも何でもない。ひょっとかしたら、何か任務なのかもしれない。
「暴虐の魔王様に寝返ったわけでもありませんから、リィ様には何かお考えがあるのかもしれません」
そうロレックス嬢が締めくくった。
「そうだよな…なんだ、リィの奴、驚かせるなよ」
と発言した俺だったが、敵地に潜入とはいえ、男と二人きりだ。そういえば、俺がリィを初めて抱いたのも敵の真っただ中だった。危機を乗り越える異常事態の時に男女の関係は発展する…などという俗説があるが、リィの奴、ふら~っと…
(いや、俺が信じないでどうするんだ!)
と自分に言い聞かせた。いや、俺自身が言っても説得力がないのだが。
俺の心配をよそにリィ・アスモデウスはアサヒ・イズルと敵地カルタゴに侵入していた。
「暴虐の魔王は出征していて不在とはいえ、守備を任されているのはあのカテルだからな」
リィは前側室時に序列2位だったカテル・ディートリッヒの能力を高く買っていた。当時は、あのイセルと同等とも言われていたこともある。現世代では序列5位に下がったとはいえ、実力は自分より下とは到底思えなかった。彼女との戦いは絶対避けたい。
そもそも、側室序列第1位の地位にあるリィ自身が天界軍査察官のイズルを伴っているとはいえ、ほぼ単独で適地であるこのカルタゴに侵入したのは理由がある。
「なあ、イズル殿。本当にその御仁はこの町にいらっしゃるのだろうな」
「はい。私は一度、その方に会っています」
「それならば、その方をお連れすればよいのに」
「それが変わった方でして、美しい女性が迎えに来なければ一歩も動かぬと仰せで」
(ただのエロじじいじゃないか!)
リィはそう思ったが口には出せなかった。これから会おうという人物は、魔像ヴリドラを作ったという伝説のウィザードと呼ばれる人物であった。
(大賢者オージン…もし、彼の力を借りられれば…)
あのパーティの夜にこの話を持ちかけられたリィは、よく考えた上でイズルの提案に乗った。自分の大好きな魔王に関することであったからだ。
(夏くんの能力は何かの封印を受けて覚醒していないだけ。大賢者オージンならば、その覚醒していない力を見破り、封印を解いてくださるはず)
そう思っての決断であった。だが、魔界第2の都市カルタゴは、現在、暴虐の魔王である一柳宗治の本拠地であり、敵側の重要人物である自分が簡単に乗り込むわけにはいかなかった。しかも、イズルの話によれば、魔王の側室が直接出向かなければ、オージンは動かぬといっているらしい。
「イズル殿。数ある側室の内で私にこの話を持ちかけたのはなぜだ」
「それは要件がイレギュラーの魔王様のことですから、それに関係ある女性にお出ましになるのが筋ですし、だからといって正妃様がお出ましになるのは危険かと…」
「華子ちゃんがダメだということは、序列からいけばこの私に…ということか」
「まあ、そうですが…私の好みの問題もありますし…」
イズルの言葉は最後は小さく、よく聞き取れなかったのでリィは言葉を続けなかったが、イズルはそんなリィの横顔を見て、
(一目ぼれしたとはまだ言えないな。この人、今は魔王様に夢中だからな。だが、幾人も愛人がいる魔王よりも私の方が有利であることには違いない)
そうイズルは計画段階の1段階目をクリアしたことに満足した。彼の緻密で正確な作戦により、最終的にはリィを自分の妻に迎えるのだ。しかも相思相愛で。




