リィの浮気?
リィ様に浮気疑惑が…いや、魔王が浮気しまくってますから、リィ様も…と。
ファナ様、ランジェちゃんと話が集中してましたので、そろそろリィ様もヒロインの座を取り戻すべく出陣?
この数日間、俺は不機嫌だった。不機嫌すぎて今朝の朝食で出てきた魔界鳥のゆで卵の湯で加減に文句を言って、ロレックス嬢を困らせ、またラクロアちゃんやピアジェちゃんに陰口を叩かれた。
「魔王様って機嫌悪いよねえ~最近」
「たぶん、リィ様とうまく言ってないからだよ」
「そういえば、リィ様、最近、来ないもんね~」
「一昨日なんて、リィ様に魔王様がデートのお誘いしたのにお断りになったそうよ」
「やっぱり~ついに無能な魔王様に愛想をつかされたか」
(おいおい小娘ども。全部聞こえているぞ!お前ら当局の監視がなければ、あんなことやこんなことを…くそ!)
冗談はさておいて、実のところ、最近、リィの様子がおかしい。毎日、俺の顔を見に来ていたのに最近は顔も出さない。俺からリィの元へ行くと忙しいからと会わないし、デートに誘っても
(といってもデビルパレスのお散歩とか、町にお忍びで食べ歩きに行くといったしょうもないお誘いだが)
「またいつか」
と冷たいお返事。いつもは会えばお別れに一目を忍んでキスしてくるのに、それすら一切ない。しかも俺からキスしようとしたら、指で唇を抑えて軽く拒否された!
(リィの奴…どうしたんだ)
何だか不安になる俺。最近というか、あのパーティでイズルに呼び出されてからリィの態度がおかしい。
「くそ!おもしろくない。俺は昼寝をするぞ!」
「はいはい、魔王様。本日の予定は、午前中はキャンセル。お昼寝の後、ファナ様とカミラ様を見舞ってから、妃殿下とお夕食を取ることになっております」
「午前中と言っても、どうせ予定はないのだろう」
「はい。リィ様のところに行くとおっしゃっていましたが、リィ様とお約束はできなかったようで」
「ちっ…」
俺は再び、布団をかぶって寝る。
夢の中でリィが馬に乗って俺に背を向けて去ろうとしている。
「おい、リィ…どこに行くんだ。俺を置いていかないでくれ!」
リィは馬を止めて振り返る。
「魔王様、リィは無能な魔王に愛想が尽きました。新しい恋を探しに旅に出ます」
「おい、待てよ!俺のこと好きって言ったじゃないか」
「魔王様、じゃあ、華子ちゃんと私、どっちが好き?」
「えっ…それは…その」
「バイバイ。私は私を一番好きと言ってくれた人のところに行きます」
そういうとリィは先に進む。その先にはイズルの奴が待っている。
「それでは魔王様、リィ殿は私が幸せにしますから」
「おい、待てよ!リィ、行かないでくれ!リィ!」
ふと我に返った。目から涙が伝う。
(おいおい、なんという夢なんだ)
「土緒くん、大丈夫?」
立松寺が不思議そうに俺を見る。そうだ、昼寝の後、ファナやカミラを見舞い、立松寺と夕食を取っているのだった。立松寺も正妃として忙しい職務を全うしていて、あまり会うことがない。妻なのに毎日会わないのは変な話だが。魔王とは言っても特に仕事のない俺とは違い、元馬も隆介の奴も激務をこなしている。暇なのは俺一人だ。
それでも立松寺は忙しいスケジュールを都合して、2日に1回は俺と会おうとスケジュールを調整してくれていたできた嫁?だ。
「いや、なんでもないんだ。ああ、立松寺、このスープおいしいなあ」
「ふ~ん。何でもないの?妻の前で、行かないでリィ~とか叫んでおいて」
「えっ?そんなこと言いました」
「はい、残念ながら…」
そう言うとテーブルの下で立松寺がぐいぐい俺の足を踏む。
「私とのデートの途中で他の女の名前を言うとは万死に値しますが…。リィさんではその怒りも半減します」
少し立松寺の足の力が弱くなった。(よかった、俺の左足)
「土緒くん、リィさん、最近、アサヒ・イズル査察官と何やら行動しているそうよ」
「ええっ?」
「今日、リィさんから旅行の許可願いが出されていましたから…」
後宮の事務一切の決済は正室である立松寺が承認しないといけないことになっている。側室の出陣、移動等、魔王が命じても正室である立松寺の許可がないと側室はデビルパレスからは出てはいけないことになっているらしい。
「ちょっと、そんなこと俺、初耳なんですけど!」
「はい、だから、今まであなたがリィさんと町にデートにいったり、ランジェちゃんとアイスクリームを食べに行ったり、ファナさんと馬の遠乗りに出たことも全部、私は知っています。美国ちゃんとも観劇に行きましたよねえ…確か2日前」
「いや、あれはリィが断ったのでたまたま美国ちゃんがそばにいて、それ見たいというものだから…」
「ふん。どうだか。魔界の女の子は我慢します。でも、人間出身の娘だけは許しませんからね!」
「は…はい…立松寺さま」
俺は前回の戦いで美国ちゃんにキスしてしまったのだが、このことを立松寺は知らないらしい。知られていたら、左足踏まれるどころではない。(踏み抜かれる…)
「それに今の状況だと、私の気持ちも少しは分かってくれそうね」
立松寺はにっこり微笑んで、肉をナイフで切ると上品に口元に持っていった。
(嫉妬…てやつか、これが)
俺はまたしても呆然と料理を見つめる。立松寺はやれやれ…と肩をすくめ、
「でも、大丈夫よ、土緒君。女の子って、好きになった相手には一途なものよ。信じてあげるのも男の器よ」
そう言って片目を閉じた。
(男の器って、リィの奴、外泊旅行って、どこに行くんだ?まさか、イズルの奴と…)
俺は急いで食事を済ますと、すぐロレックス嬢に調査を命ずる。調査結果は…?