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魔王様と16人のヨメ物語  作者: 九重七六八
激闘モード
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カオスVS暴虐の魔王

反乱を起こした宗治先輩の元にも平等にカオスが現れますが、彼には絶対の回復の女神がいます。わずかな兵力でカオスの大軍に立ち向かうのですが。

 魔界の第2の都市、カルタゴの北東30kmに暴虐の魔王こと一柳宗治が自軍3万の兵とともに布陣していた。いつもはカテルや蝶子の軍も伴うのだが、今回は彼と妃である夏妃だけであった。夏妃の部隊は2千であるが、主に回復を主とした救護兵で構成されており、夏妃自身の驚異的な絶対回復能力で共に行動する軍隊は何倍もの戦力となるはずであった。


 だが、対するカオス軍は、先日、戦った主力軍の陽動部隊とはいえ、15万余に上った。夏妃自身が初陣ということもあって、危険だとカテルらは宗治を止めたが、彼は一笑しただけであった。


(それだけ、私に対する信頼が厚いわけだけど…)


夏妃は目の前に展開する大軍を見て恐怖で体が硬直してしまうのを必死に耐えていた。


「御台様、魔王陛下がいらっしゃいました」


夏妃の心境を慮ってか、暴虐の魔王自身が足を運ぶ。部下や側室は駒としか思っていない態度であるが、夏妃だけには優しい。


「夏妃、いよいよ戦いが始まる」


「はい、先輩」


「夏妃は軍と共に我が軍の中央にて進め。余は先陣で戦う」


そう言って宗治は毘沙門改を鞘から抜かずに前方を指した。


「戦いはすぐに決着がつく。相手は上将軍3人。すべて余が打ち倒す」


(この人ならできるだろう…)


夏妃はこの男が言っていることが何の根拠もなしの発言とは思わなかった。確かに敵の将軍や上将軍を倒せば、大軍のカオスも四散するだろうが、いかに魔王とはいえ、15万のカオス兵に阻まれては不可能な話である。


だが、夏妃の回復魔法「回復の歌」の範囲内にある3万の将兵はケガを瞬時に回復する。さらに攻撃力・精神力を高める「戦いの歌」でほぼ無敵状態と化す。強力な攻撃で致命傷を負えば、夏妃の部隊が回復に努める体制であるし、戦闘に立つ宗治一人なら、即死しなければ、絶対回復で元に戻るという凶悪さである。ただ、絶対回復は側にいないといけないので、戦場の真っただ中である以上、夏妃自身がピンポイントで攻撃される危険はあった。


「先輩、こちらの回復力を生かして、持久戦に持ち込んだ方が確実かと思いますが」


「それは無理だな」


宗治は一言そういっただけであったが、賢明な夏妃はその理由が推察できた。1つは持久戦で長くカルタゴを留守にすれば、天智の魔王や激熱の魔王が攻めてくる可能性があること。カテルや蝶子が守備しているとはいえ、3万にも満たない兵力では敗北は必死であった。


2つ目に敵カオス自体が陽動部隊であり、積極的に攻撃してくる姿勢に欠けていた。守りに徹していては、長期戦になってしまうことは間違いなかった。


「夏妃、最終局面ではお前に前線に来てもらうことになる。危険にさらすことになるが、お前は必ず余が守る。だから、余のためにお前の力を開放してくれ」


「はい。先輩。カオスに対しては先輩に従います」


「うむ。それでよい」


そう言って宗治は夏妃の両肩をがっしり掴んだ。夏妃はビクッ…と体を硬直させる。魔界に来てずいぶん月日が流れたが、3魔王とも夏妃を抱こうとはしなかった。キスすらしてない。3人とも夏妃の心境を考え、最終的に自分を選んでくれた時に…という思いがあるのだろうか。夏妃自身も自然と拒否のしぐさをしてしまう。


この時もぎゅっと目を閉じて体を硬直させた。宗治は何もせず、黙って去っていた。

他の魔王から離反し、夏妃を実質手に入れているのだから、それこそ力ずくで彼女をモノにすることは簡単なことであったが、それをしない。暴虐の魔王と言われていても、女性に対しては紳士的な態度を貫いていた。


 戦いの合図の大きな爆発音と進軍を告げるラッパそして、太鼓が打ち鳴らされる。夏妃はすぐに「回復の歌」を発動する。魔界兵が青い光に身を包まれる。カオス兵に斬りつけられても、傷口はすぐ閉じる。痛みも瞬時になくなる。


「御台様のお力だ。恐れることはないぞ!」


兵士たちは口々に叫び、阿修羅のように剣や槍を振るった。戦いにおいて無敵状態だと感じる兵士ほど、勇敢なものはない。さらに夏妃の「戦いの歌」が発動されて、魔界兵の士気が上昇する。もはや、手の付けられない凶悪な3万の狂戦士がカオス軍を蹂躙する。




「バカな!こんなバカなことがあるものか!」


上将軍の一人、ヘカントンケイルはわずか3万の兵の前に溶けるように減っていく自軍を見て叫ぶ。


「魔王の女のせいだ。奴は危険だぞ」


そうもう一人の上将軍ヒポカンパスが言う。すでに3将軍が暴虐の魔王に打ち取られている。このままでは、ことごとくこの地に屍をさらす破目になる。


「逃げるか?」


そうヘカントンケイルは同僚のヒポカンパスに独り言のように尋ねた。


「バカを言うな。何も戦果を挙げずに退却したとあっては、お前も俺も処刑されるぞ」


「それはそうだが…」


(ここに居ても暴虐の魔王に処刑されるだけだ…)


とヘカントンケイルは思ったが、それは口に出すことはしなかった。この同僚は何か策を持っていると感じたからだ。


(ここはこいつに任せて、状況に応じて逃げさせてもらおう。ある程度善戦してくれれば、敗戦責任はとらされまい)


そうこの上将軍は思った。指揮官である将軍、上将軍のこのモラルのなさがカオス軍の弱点であるのだが、協力や助け合うという概念がカオスの住人には元々欠落しているのだから仕方がなかろう。


ヒポカンパスには勝算があった。いかに回復の歌でリカバリーをしても疲労は蓄積するはずで、攻撃力が無限に続くはずがない。体力の限界点で攻勢をかけることもあるが、魔界軍の最大の弱点は指揮官を倒せるのが、魔王ただ一人であること。いかに魔王でも5将軍、3上将軍と戦ってダメージが蓄積しないはずがない。そうなると絶対回復を使用するために魔王の妃が出て来る。これを殺せば、形勢は逆転する。魔王に妃自身は攻撃力は皆無だから、できない作戦ではない。


「そのためにも…」


ヒポカンパスは、ついに前衛の上将軍であるデュラハンと一騎打ちを始めた暴虐の魔王の戦いぶりを遠くに見つめた。それを援護しようと残り2将軍が加勢に加わっている。


(デュラハン…お前はこの地で死ぬだろうが、仇はとってやるからな。せめて、少しでも魔王にダメージを与えてから死んでくれ)


ヒポカンパスの思考はヘカントンケイルのそれよりも若干積極的であるというだけであった。


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