デビルパレスにて
長編だったカンネの戦い編も終了。いよいよ、魔界の中での内乱編に突入。新しい登場人物も現れ、主人公のハーレム状態に危機が…?
カンネ会戦で辛勝した魔界軍がデビルパレスに凱旋したのは、戦いの1週間後。戦勝を祝うパーティが粛々と行われていた。魔将軍セエレ子爵の葬儀の後だったので、きらびやかな式典は自粛されていた。
だが、辛勝とはいえ、カオスの大軍の3分の2を撃破したことは、しばらくカオスと大きな戦いが遠ざかったことであり、デビルパレスのささやかなパーティとは違い、魔界の国民は喜び、勝利に酔いしれていた。
「勝ったとはいえ、我が軍の消耗も激しい。お前の軍はしばらく戦場には出られないだろう」
玉座に座り、宴を眺めていた隆介は、隣に元馬に話しかける。
「ああ。アレクサンドラも満天も補充しないと軍として再び遠征できる陣容ではない。
俺の兵もずいぶん失ったからなあ…」
一応、序列第15位の側室、中村杏子に命じて、今回の戦いで消耗した兵の補充を行っているが、新たに配置した兵を訓練し、前のように使えるようにするには、半月はかかりそうだった。
「夏のところもファナの軍の立て直しには1年はかかりそうだし、あそこはカミラもまだ戦線復帰はかかりそうだ」
「だが、宗治先輩との戦いには、夏の軍がどうしても必要だ」
確かに土緒夏こと、イレギュラーの魔王の軍団は、第1側室リィ・アスモデウス、第2側室エトランジェ・キリン・マシニッサともに戦い終盤に登場したので被害が少なく、正妃の立松寺華子の軍を合わせれば、5万近くの兵力を有していた。これが現在の魔界軍の主力と言っていい。
「宗治先輩もカオスの別動隊とにらみ合っているとのことだから、すぐには戦いにはならないとはいえ…」
これは隆介の命令で一柳宗治の動向を伺っていた序列第13位の側室、三ツ矢加奈子からの報告で、カオスの別動隊15万が宗治の本拠地であるカルタゴ付近に現れて、両軍がにらみあっているとのことだ。
「カオスさまさま…というところだが、夏妃が戦場に出れば瞬殺だろうな」
元馬は愛しの土緒夏妃のことを思った。彼女のことだ。宗治の囚われの身とはいえ、自分たちとの戦いには絶対出てこないだろうが、カオスとの戦いにはその力を発揮するはずだ。
「どちらにしても…夏妃をいつまでも宗治先輩の元にはおくなんて耐えられない」
「それは俺も同じだ。今からでも宗治先輩をぶん殴ってやりたい気分だぜ」
そう元馬は右手を握りしめて前に突き出した。その先には、先ほどこの祝賀パーティに到着した天界のジークフリート大司教がいた。
(あの野郎もぶん殴ってやりたいぜ)
元馬の思いは俺の思いと同じであった。
カンネの戦いでこの男が職務怠慢しなければ、魔界軍の被害はもっと少なく済んだはずだし、ファナもケガを負う必要はなかったはずだ。
(いけしゃあしゃあと…)
俺は我を忘れて奴に向かって駆けていき、ぶん殴ってやろうとしたが、立松寺に左手を掴まれた。
「放せ!立松寺、男として奴は許せん」
「気持ちは分かるわ…でも…」
立松寺はできた嫁であった。確かにジークフリート卿の5万の軍が職務怠慢でランジェやリィの軍を戦場に出さないようにしたとはいえ、戦略上、必要であったと弁解されれば、同盟関係である国同士としてはそれ以上追及ができないことではあった。
それに結果的にはジークフリートの率いる天界軍の活躍は著しく、ジークフリート自身も上将軍1人、3人の将軍を討ち果たす戦果を挙げていた。
(それは分かっている…それは分かっているが…)
俺は先ほど、部屋で見舞ったファナの痛々しい姿を思い出して怒りが収まらない。ファナは命は取り留めたものの、魔力の消耗が激しく、戦い終了後から昏睡状態であった。
それなのに、魔界の貴族令嬢にちやほやとモテモテ状態のジークの姿を見ていると、こいつに正義の鉄槌を食らわしてやりたいと思うことは普通の行動であろう。
だが、その思いは思いがけない形で具現化された。
パーン
甲高い音に一同はその音の方向に目をやった。
美しく着飾った小さな女性が天界の大司教の頬をひっぱたいたのだ。
「な…何するんだ!ランジェ!」
ジークフリートは痛みよりも衆人の前で恥をかかされたことの方に腹を立てた。
ランジェの胸ぐらを掴んで持ちあげる紳士らしからぬ暴挙に出た。だが、ランジェは足でジークフリートの胸を蹴ると後方に宙返りして脱出する。
「お前はどの面下げてこの会場にいるアル!」
ランジェの言葉も淑女とはかけ離れていた。
「何だと…」
「お前がしたことが賞賛に値しないことは、この会場にいる誰もが知っているアル。お前がこの会場にいる時間だけ、魔界の天界への信頼が失われていくアル。さっさと退席して、汚名挽回の作戦でも立てたらいいアル!」
ランジェの激しい口調にジークフリートは戸惑った。今までこんなことは一度としてなかった。自分が言ったことに黙って従ってきた女の子が自分に刃向っているのだ。
「ランジェ…それは私が君のためを思ってのことだ。大事なフィアンセを戦場で傷つけたくない気持ちを分かってくれ!」
「そんな気遣いは迷惑アル!」
(ちくしょう!ランジェをこんな女にしたのは…)
ジークフリートは俺をにらみつけた。
(おい、ちょっと待て。殴ったのは俺じゃないぞ!そりゃ、奴のフィアンセであるランジェは俺がおいしく頂いてしまったのではあるが…)
まだまだランジェを巡るジークフリートとの戦いは終わりそうにないです。ハイ