カンネの戦い 前編 その4
ついに美国ちゃんが出陣します。あのウサギの笛の能力で戦況を変えることができるでしょうか?無理かな~?
カイエン上将軍を倒し、これで7万余のカオス軍を撃破しつつあるファナ隊の前に、新たな軍が現れた。将軍2人に率いられた4万の軍勢と上将軍2名に率いられた10万の軍勢である。北西方面の激熱の魔王との戦いに備えて後方にいた予備隊であった。
「ファナ様、敵に援軍が…」
「カイエンの敗残兵に構うな。奴らは戦力外だ。次の戦いに備えよ!」
ファナは体の激痛に耐えながら、そう兵士に指示する。侍従に命じて救護兵に魔法で治療させる。絶対回復の力がある夏妃が入れば、折れた個所も治せるだろうが、せいぜい出血と痛みを和らげる程度で折れた個所のダメージまでは回復は難しい。前線の激しい戦いの最中ではこれが限界であった。
「なあに、将軍2人に上将軍2人、すべてわらわが倒せば済む話ではないか!」
少しだけ不安に駆られた兵士に希望がわいた。この人ならやってくれると疑わない。ファナ隊の兵士は、この敬愛する指揮官の一騎打ちのために敵指揮官に通じる道をこじあけようと死に物狂いで群がるカオス兵に突っ込んでいった。
ティソちゃんと山頂で戦況を見ていた俺は、ファナ隊に信じられない大軍が向かっていくのを見て、このままではファナが危ない…という恐怖感がわいてきた。
(何とかしなければ…)
戦闘経験のあるティソちゃんも俺の顔を見て、
「このままではファナ様が危ないです。魔王様、なんとかしないと」
ここで隆介や元馬のように固有の兵力と魔王としての能力があれば、なんとかできるのだが、自分はわずか30名の女の子小隊しか動かせないし、自分は何の能力もない。
(そんな自分に何ができるんだ?小部隊では、戦場に行っても役に…)
待てよ…と思った。例え、隆介のように大軍を指揮していてもこの山の頂では動くこともできない。小部隊の方が動けるのではないか…。
「ティソちゃん、俺は行く。護衛を頼む…」
「魔王様。どこへいらっしゃるのですか?」
「美国ちゃんの陣地だ」
雪村美国率いる部隊は800人。人数こそ少ないがすべて筋肉隆々のおっさん部隊で、その力は数倍に達すると噂されている。数倍といっても下の戦場に行けば、戦況を変えられるほどの影響は与えられないが、時間稼ぎにはなるだろう。小部隊だから、昨晩使った獣道でこっそり降りられるはずだ。
美国ちゃんの陣地に行き、ちょこんと座っている美国ちゃんに声をかける。
「美国ちゃん、一緒に行こう!」
「はい!先輩!」
どこへ?などと聞かないこの能天気ぶりが今はありがたい。あの激戦の中へ行く悲壮感がまったくないのはどうかと思うが、この明るいノリで美国ちゃんの部隊も士気が落ちないだろう。
「魔王様と最前線に移動します。オズボーンさん、兵に準備を」
「我れらのハイ・レディ。すでに準備はできております。後は兵士に命令してくだされば、全員、奮い立ちましょう!」
「さすが、オズボーンさん、じゃあ、みんな、行くよ!」
「おーっ!」
と800人の声が山々にコダマする。