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魔王様と16人のヨメ物語  作者: 九重七六八
激闘モード
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カンネの戦い 前編 その2

 カオス軍の慎重さに40万以上の大軍と相対することになった激熱の魔王こと源元馬であったが、霧が晴れて黒々とカオス軍が目の前に展開するのを見て、この男は燃えてきた。熱血魂がこみあげてくる。


「いいか、みんな、臆するな!十分引き付けてから戦え!大軍と言えど、目の前の敵は同数に過ぎない!」


確かに地形で三方を囲まれたところに布陣しているため、元馬と両脇の満天、アレクサンドラの軍が崩されなければ、正面以外からは攻撃されないのだ。同数対決なら魔界軍が有利である。だが、倒されても次から次へと襲い掛かってくるカオス兵に徐々に消耗させられてしまうために、ある程度崩したところで、敵の指揮官を討ち果たしにこちらも突入し、これを討ち果たし、また、陣に戻るという粘り強い戦い方が要求された。

 

 実際に戦いは非常に神経を使う防御戦となった。兄の左翼を守る源満天は、一糸乱れぬ兵への指揮でカオス軍を撃退し、崩れるのを待つ。少しでもチャンスがあれば、敵指揮官を一騎打ちで倒すチャンスを伺ったが、大軍を繰り出すカオス軍の前にむなしく撃退を繰り返すだけであった。


上将軍どころか、将軍への道も開かない。少しでも開けば、満天の高速移動によるスレイプニルで指揮官を倒し、カオス兵を万単位で葬ることも可能であるが、それはカオスもさせない。カオスの狙いはじりじりと消耗戦に持ち込むことだ。時折、満天は自らのウェポンであるグングニルの槍を振りかざし、兵と共にカオス兵を百単位で撃滅するものの、倒しても倒しても再び繰り出されるカオス兵に押し戻される。


「満天様、正面の敵に援軍が…」


「あと一歩だったのに、またしても敵指揮官には届かずですわ」


「アレクサンドラ様も苦戦中です」


「あの人は近接戦闘専門ですから、多数を相手にするのは苦手ですわ。下手を打って軍ごと敗走しなければよいですが」


大好きな兄に接近するアレクサンドラにはこのブラコン妹は評価が辛い。そんな妹の辛評にもめげず、アレクサンドラも根気のいる戦いに耐えていた。


「第1中隊前進、第2中隊は後退、弓兵隊は連射して援護せよ」


アレクサンドラの軍は8千余。対する敵は3万を超える。ただ、地形の有利さで正面で対するのはその3分の1もいないため、戦闘では圧倒しているがじりじりと消耗していくのは分かった。チャンスがあれば親衛隊と共に敵指揮官を倒すのだが、アレクサンドラもウェポン「ギャラハット」を全身にまとい、機会を粘り強く待つしかなかった。


中央の「激熱の魔王」こと源元馬も耐える戦いをしていた。彼の性格上、こういう戦いは好みでなかったが、有利な地形を捨てて前進するなどというバカげたことをするような愚か者ではなかった。チャンスがあれば自ら突入して指揮官を倒す機会を伺いつつも慎重な戦いをしていた。


元馬の軍は2万と多少余裕があるため、アレクサンドラや満天の軍の状況を見て、援軍を回す判断もしなければならない。また、後方に控える切り札、赤いドラゴンのシルエットの旗印である宮川スバルの機動部隊5千の投入時期もある。彼女のドラゴンランスによる突撃は、使い時を誤らなければ絶大な戦況の変化をもたらす。逆に誤れば、彼女自身を失う恐れもあった。


「全軍、それぞれの隊長の指示に従い奮闘せよ。我が軍3隊はよいが、桃花先生と魔将軍の方は大丈夫か?」


元馬は幕僚の情報参謀に確認する。最左翼でぺテル山麓に布陣する桃花先生こと第9側室エセル・バールと2人の魔将軍の軍も同様の戦いを強いられているはずだ。特にかたき討ちをしたいエセルが焦る思いで指揮を誤る懸念があった。


「エセル様以下、堅実に戦っておいでです。気になるのは最右翼で布陣が完成していないファナ様の方です」


「ファナ隊がどうしたのだ」


「敵がまだ攻撃していません。ファナ様が崩れると我が方のアレクサンドラ様の軍が危険になりますが、孤立したファナ様の軍を敵がなぜか攻めないのです」


「おそらく罠だと思っているのだろう。ファナ隊を破り、アレクの隊に攻めるにしても5万の天界軍に挟まれるからな。敵も次の一手を考えるとうかつには動けないとは思うが」


元馬は思案した。だが、敵がただ単にファナが孤立しているだけだと知ったら…いや、自分たちが善戦し、こう着状態になったら敵は次の一手を打つしかないだろう。1万2千のファナ隊に10万以上の大軍をぶつける。


左翼はアレクサンドラ隊がいるからつけないにしても、正面と右翼から猛攻撃を加えれば、さすがの「狂乱のファナ」と異名をとるファナ・マウグリッツもこのカンネの地に散ることになる。


(そこで指を加えて見ていていいのか…夏)


元馬は未だに山の頂に動かない「跳ね馬」の旗印を見てそう心の中でつぶやいた。



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