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魔王様と16人のヨメ物語  作者: 九重七六八
激闘モード
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カンネの戦い 前夜 その3

「どういうことだ?」


俺はロレックス嬢に状況を尋ねる。自分としては非力な自分の小隊が敵の正面に布陣するのはごめんなので、この山の頂上に留まるのはよいのだが、このままではランジェもリィも立松寺も遊兵になってしまっていることは分かっていた。


「リィ様とランジェ様、そして妃殿下元帥閣下がお見えになりました」


そうオメガ嬢が告げる。3人とも小雨の中、それぞれの陣から相談にやってきたのだ。


「ジークフリート卿の考えは想像できる。明日の戦いで自分が主導権を握りたいのだ。このまま戦えば、カオス主力は激熱の魔王の陣に殺到する。激戦になるだろう。頃合いを見て奴は敵の側背を突くつもりだろうが、一歩間違えれば全軍崩壊を招く恐れがある」


リィが陣形を眺めながら解説する。両軍が疲弊した頃合いに10万を超える軍が参戦すれば状況は劇的に変化をするだろうが、それまでに半数の魔界軍は壊滅的打撃を受けるだろう。カオスとしてはそこを狙って、総攻撃するはずだ。ジークフリートの作戦はカオスに2者択一を迫る策としては有効であるが、魔界軍の犠牲を厭わないという姿勢にリィは腹を立てていた。


「すまんアル。いっそ、ジークの軍を押しのけていくアルか?」


ランジェが提案するが、それでは味方どうしで戦いが始めってしまうだろう。特に奴はランジェを戦場には出したくないはずだ。


「土緒くん…。私の軍は山の反対側で明日、もし先端が開かれても完全に間に合わないわ。いっそのこと、今夜に山を迂回してカンネ平原に向かってみてはどうかと思うのだけど…」


立松寺がそう進言した。今から移動すれば、明日の午前中にはロビス街道を東進して戦場に到達できるはずだ。小雨から激しく降り出した雨の中、愛しの妻を夜通し移動させたくはなかったが、立松寺の意見は正論だろう。ここに留まっていては2万もの大軍が無駄になる。そうと決まると立松寺は立ち上がった。そして、美国ちゃんに向かって、


「雪村さん、私は土緒君の元からやむを得ず離れますが…」


(おお…立松寺の奴、美国ちゃんに宣戦布告か?)


と俺は思ったが、それは誤解であった。


「土緒君、いや、明日の戦闘では魔王様の元を離れてはいけませんよ。あなたの軍は魔王様の近衛兵の役割を担うのです。これは正妃としての命令です」


「はい、妃殿下」


美国ちゃんの軍はわずか800人ではあるが、屈強なおっさんが集まる筋肉オヤジ大隊である。少なくとも俺のハーレム小隊よりはマシだろう。女官に大きな和傘を差させて、立松寺は自分の陣に帰って行った。リィもランジェもとにかく、明日の早朝にジークフリートが所定の陣地に移動するよう念を押す使者を出すことにして、今晩は自陣へ戻ることにした。どうやら、今晩は2人とも俺のところに泊まるつもりはないようだ。


(う~っ…せっかく立松寺がいなくなってチャンスだったのに…)などとは考えなかったが、側にいる側室は美国ちゃんだけになって、(やばい!)と心の声が叫んでいた。美国ちゃんは、それを知ってか知らないでか、う~ん…と両手を伸ばして、


「今日はどうしようかな~先輩のところに泊まっちゃおうかな~」


などと言っている。


(ちょい待ち!いくら鬼(立松寺)の居ぬ間に洗濯とはいえ、美国ちゃんには手を出せないぞ)


「あのね、美国ちゃん」


「なんですか?先輩」


「今日は帰った方が…ほら、陣の外でオズボーン隊長がずぶ濡れで美国ちゃんのこと待っているし…」


確かに、オズボーン隊長を筆頭に筋肉ムキムキの数名の護衛兵が美国ちゃんの帰りを微動だにせず片膝をついて待機している。こんな小娘に対して大した忠誠心だ。うわさによると昔、うさぎの笛の所有者の側室に村の危機を救われ、代々、うさぎの笛の所有者に仕えるしきたりがある村の出身者たちらしいが、なぜか、そのしきたりを越えた崇拝をこのちんちくりんな娘に抱いている。


「えーっ。美国つまんない。カミラちゃんもいないし、今晩、ひま~」


「だから、子供は早く帰って明日に備えて寝ないと…」


「美国は子供じゃありません!そりゃ、背もまだ小っちゃいし、胸もまだ成長途中だけど、れっきとした大人、16歳です!」


「はいはい、分かったから、とりあえず帰りましょう」


「ずるい、先輩。カミラちゃんには手を出してるくせに…」


(いやいや、カミラちゃんは一応、俺よりものすごく年上だから)


確かに魔界女は人間出身の俺よりも実際年齢ははるかに上だ。見た目年齢はちょっとやばいが。美国ちゃんは正真正銘NGだから、さっさと保護者に引き渡す。オズボーン隊長に付き添われた美国ちゃんであったが、


「仕方ないなあ…美国は帰るけど、何だか嫌な予感がするんです。ライオネル3世もそう言ってます。ファナ様のところに行ってあげたら?軍勢は無理だけど、麓に降りられる道があるってオズボーンさんが言っていました」


と言って、その道を知っている兵士を一人残していった。


(そうだな…ファナのことが心配だ。明日は彼女の軍が敵の大多数と戦闘することは避けられないのだから…)


俺はロレックス嬢の目を避けて、こっそり麓のファナの陣へ移動することを決めた。


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