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彼女が指を鳴らすと水が剥がれ落ち、中からちゃんとした肉体の彼女が出てきた。
波打つ銀髪は雪景色を思わせる色で、瞳は花曇りの柔らかな灰色。シミ一つない真っ白な肌に薔薇色の頬。華奢な体を百合の様に白いドレスで包んだ、端的に言ってしまえば絶世の美少女だ。
広場で何が起きているか見に来た野次馬や、彼らを止める自衛団に向けて妖精の様な指でドレスを摘み一礼。その仕草は帝国であった頃から変わらぬ城と非常に似合う、本来の所有者とさえ思う位に。
「あれ、壊したのお前か」
「そうですわ。あの虚像はアーデルハイドの何を描いたつもりなのかしら」
魔術師と戦えるのは魔術師のみ。誰も話しかけようとしない沈黙をルカが破った。
悪意がありながら罪の意識が見えない事より、また英雄殿かという不快感でルカの顔が歪む。
その時、唐突に城の方から何かが二つ投げ捨てられた。
「私はクラウリーチェ・カルス・バルツァッリ。神聖カルス帝国の皇帝ですわ」
着地の衝撃で何かから赤い液体が飛び散る音を背に、彼女は高らかに宣言した。