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「ルカは初陣、アデルは十年振り、もう少し緊張感をだな」

「これから言う説教を三行で説明してよ」

「ふざけるな」

「このノータリン共」

「怪我しないか心配なんだ」


 アデルの言霊でほぼ強制的に短縮化された説教に、カーネルはこれはこれで苛立ちを募らせる。

 だがそれに対する言及は窓ガラスを叩く小型のワイバーンにより阻まれた。ソフィアが窓を開けると竜の伝令がコーネリアスの元へ。抱えていた手紙を取ると内容を読み上げる。


「『敵兵アリ 囲マレタ スグ戻レ』………アーデルハイド」


 作戦とはかけ離れた現状報告に、車内がしんと静まり返る。規則正しい振動が虚しく響く。

 スパイでもいたのかと三者三様に考えを巡らせる中、アーデルハイドが口を開く。


「『心配無用』で、それを至急戻せ。味方には絶対に当てない、ここから放つ」

「少佐!」

「出来るのかそんな事」

「当たり前だ。私は人であり精霊で、容易だ」


 自信ありげに吐いた言葉に山吹色の魔力が籠もっている。コーネリアスの指示で、既に進行方向を本陣へと戻す列車の扉を開ける。


「では、魔術師の夜を始めよう」


 列車の扉から身を乗り出すとアーデルハイドはそう告げた。冷たい風が吹き荒び、結んでも尚広がる彼の髪を撫でつける。


「この身は鋼を喰らう茨で出来ている」


「あの心は全てを吸い上げる大地で出来ている」


「その魂は全てを浸蝕する風で出来ている」


「全てが至高。しかし以来望まれぬ子のままで生きる私は」


「アーデルハイド」


 社内を照らす、ガラスで覆われたカンテラの火が不安定に揺らぎ、次々に消える。魔術師でないソフィアの視界すら、淡黄色の薄いフィルターを通した様に染まる。

 闇に包まれた列車は止まる様子もなく、言葉は魔術師の名乗りから朗々とした詠唱へと移行する。


「瞳は梟、力は精霊、体は器、理性は人間」


「雷鳴求む、終わらぬ嵐、他が為でなく我が為に」


 雨の一滴もなく雷雲が闇夜の空を埋める。一呼吸ごとに針の様に突き刺さる冷たい空気が傍観者と化した三人を満たす。

 進行方向を映すカナリア色の目が、黒雲が纏う稲光に照らされる。


「天から地へと」


 声に合わせ、細いカナリア色の雷が滝の様に降り注ぐ。既に開戦した戦場へ一直線に落ち、一瞬真昼の様な明るさを見せる。空気を引き裂く轟音は、何かの悲鳴のようにも聞こえる。

 アーデルハイドの支配から解かれた雲は当然、大量の雨を降らせる。雨を嫌がる猫の様にアーデルハイドが列車へ逃げてきた。


「ルカはアーデルハイドの補佐として付いていけ。私は軍曹と」


 コーネリアスが今後の動きを説明しだした刹那、砲撃を食らったような音が列車内に響いた。敵対する反乱軍は勿論、自軍の大砲の射程圏には入っていない。魔導砲ならばアーデルハイドが撃墜している。

 ならば、なんだとコーネリアスが思考する間もなく、アーデルハイドがうつ伏せに倒れた。


「アデル!」

「し、少佐!」

「アーデルハイド!」


 正しくは、空いたままのドアの前にいたアーデルハイドが侵入者に蹴り倒されたのだ。旧帝国軍服であるグレーの詰め襟に身を包んだ筋肉質の男と、その部下二名が堂々と立っていた。


「アーデルハイド殿はいずこか!」

「てめーの足ふきになってるぞ」


 ルカのボヤキ通り、当代最強の魔術師は筋肉質の敵に踏まれて伸びていた。


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