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「作戦は蚊月、二十五日、二五○○より開始となります」
そして軍用列車の中、彼らはブリーフィングの真っ最中だった。
単騎で囮となるアーデルハイドと、彼のブレーキ役のコーネリアスとブレーキ役その二オルカーニャだ。今は真夜中、本来なら眠気で作戦どころではないのだが。
「お嬢さんお名前は?」
「申し遅れました。アーデルハイド小隊の補佐を担当させていただきます、ガーランド軍曹です」
「下の名前は?!」
「ソフィアと言います」
ボブカットの美人秘書系補佐官の出現に、アデルとルカの士気とテンションは単純な理由で上昇していた。
後方支援ながら軍人に相応しい芯の強さを覗かせる琥珀色の目や、文官用のシンプルな青い軍服のさりげないアレンジもさることながら、二人が舞い上がる理由は別の所。
体型の分かりにくい軍服の上からでも分かる、古来より豊穣の証と崇め讃えてきた柔らかな二つの膨らみ。
「肩凝りする?」
「いい加減にしろアデル」
気心の知れた者同士のコントじみたやりとりにソフィアが笑い、それを見たルカが鼻の舌を伸ばした。
一瞬魔力が散ったと思うと、アデルの顔が列車の床に沈んでいた。後頭部を押さえ涼しい顔でコーネリアスが続きを促す。
「はい、では続けますね。アーデルハイド小隊は本隊を離れ農村群の東へ移動、アタックポイントへ二四三○の到着予定。本隊の準備次第で作戦開始時刻が繰り上がります」
効果の薄い抵抗をバタバタ繰り返し、ようやっとコーネリアスは手を離した。立ち上がりながら風よ、と一言。アデルは顔面に付いた埃を吹き飛ばし、ちゃっかりコーネリアスの方に飛ばした。
「作戦指揮官からは一言、派手にやれ。との事です」