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「首都攻略の糸口はあるのか」
「その前に住人の無事は」
「報道統制も限界が近い」
混迷を極める会議の中、政治家が露骨に保身へと走らないのは軍人が多く出席しているからか、志が高いからか。
「だいたい、敵戦力の情報がだね」
「ローグ神国との国境で不穏な動きが」
座り心地の良い椅子の上で置物のように黙っているアーデルハイドをせっついてあの輪の中に落としてみた、ルカはそんな想像をしていた。
普段の馬鹿みたいな口調で慌てふためくか、偉そうな口調でこの会議を制圧するか。思いの外、暇つぶしには適していた。
「つまらんな」
さざ波の様に細かく多く重なり合っていた討論の声が一斉に止んだ。出席者らの目が口を開いたアーデルハイドに向く。
「私に出撃許可さえ下りたなら首都を奪還してみせるのに、何をそう躊躇っているのですか」
挑発的な笑みは深く、底無しの谷の様に怪しく、細めた眼は致死性の猛毒を湛えた泉。思想も信念もない純粋な力が、破壊を囁く。
静まり返った空気を変えたのはアーデルハイドの正面に座るライアーだった。
「フェステ農村群奪還作戦、計画中のだな」
「将軍! 危険過ぎますよ。あんな化け物じみた奴を奪還に組み込みなど」
「首都に近く食物生産が盛んな村を焼き払う訳にはいかぬ、と? 敵戦力がなんであろ彼は問題なく事を成し終える」
アーデルハイドの参加審議は、さながら非人道兵器の投入を決める様なものだった。その火種を放り込んだアデルは欠伸を一つ、それをコーネリアスに咎められている。
アーデルハイドが手持ち無沙汰なルカにちょっかいを出し始めた頃。
「少佐は敵主力部隊を農村群から引き離し殲滅する囮として働いてもらう」
ルカの金髪を三つ編みにしようとする姿勢のまま、にたりと笑った。