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軍靴を高らかに鳴らし男がアールヌーヴォーの会議室へ姿を表した。
白い詰め襟の礼服に太腿まである長い髪が絡み、金糸雀色の目が既に集まっている将校等を見やる。背後に二人の軍人を従え、上座へと座る。
「お久しぶりです、ライアー将軍」
向かいに座る隻眼の老将軍に不遜な笑みを湛えながら一方的に話し掛けよう。
十年以上老いもせず若い英雄に溜息を吐いて、老将軍は緩やかに口を開く。
「君は相も変わらず、一体何歳になったのかな?」
「四十三際です」
「そうか。もうそんなに………」
桁外れの魔力で保つ若々しさに老将軍はただ溜息を吐く。恐らくそれは、後二十年は残された寿命の中で停滞を続ける事への哀れみも含まれているのだろう。
背後のルカは眉間に皺を寄せ、隣のコーネリアスは顔を背け、結局本人が知る事ではないのだ。
「で、背後の彼らは誰かな。直属の部下は一人だった筈だろう………少佐」
ああやっぱり。吐き出せぬ溜息の代わりにルカは一人ごちた。
礼服の軍人しかいないこの会議は、基本的に将校でなければ出れないのだ。アーデルハイドが少佐であるにも関わらず出席している所から、十分におかしな話である。
それより下のエーレンベルグ親子なら言わずもがな。ライアーだけでなく他の将校の視線に耐えきれず、ルカは顔を伏せる。
「誰って、私と契約した魔術師ですよ」
「二人目か」
「彼の名はオルカーニャ、国内最高クラスの炎使いです」
「えっ、おい、いや、」
「今は見習いに毛が生えた程度でも、私と契約した魔術師なら簡単に実力を有するでしょう」
真新しい礼服姿のルカを示し、彼を自慢げに紹介する。思いもよらぬ相手からの高評価に慌て、アーデルハイドやコーネリアスやライアーの顔を順々に見る。
「少佐殿、そろそろ時間です」
「ああ、………ちっ」
息子からのエマージェンシーコールを無視し、コーネリアスはアーデルハイドに囁きかける。
アーデルハイドの舌打ちを最後に世間話は止み、ようやっと本題が始まった。