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「………何なんだよ。父さん」
「どういう意味だ」
「俺があいつの事嫌いって知ってるだろ。何で」
テーブルを中心部にコの字に置かれたソファ、純黒檀の骨組みを軋ませて問う。その様を栗色をしたコーネリアスの目が剣呑な色を湛え見守る。
そこで交わされるのは軍人と魔術師の会話、問い詰める表情は厳しく、親子であるからこそルカは容赦ない声色を発する。
「彼の力は圧倒的だろう、アデルと契約した魔術師がそれを聞くのか」
「なんで知ってるんだ。まだ話して、」
「アデルの魔力は癖が強い上、簡単に消えるものではないからな。首の後ろに山吹色が残っているぞ」
コーネリアスが自分の項を指で叩き、慌てて契約印に指を伸ばし確かめる。ルカは今、魔術師としての機能を閉じている。アーデルハイドの魔力が付いているかは分からないが痺れるような違和感が走る。
「あいつが願えと言ったんだ。誰かと契約し願われなければ魔術は使えないと」
「嘘だな」
言い訳じみた、その自覚はあるものの言い返さずにはいられず。なけなしの意地を叩き割ったコーネリアスはルカの後方に向け、ソファに座るよう促す。バスローブ姿のアデルが二人を不思議そうに交互に見ていた。
「一つ聞きたい事がある。二人にだ」
アデルが座ったと同時にコーネリアスが口を開く。因みに三人の位置は、例えるならコの字の上の線にルカ、縦線にコーネリアス、下の線にアデル、バラバラに座っていた。
「契約した時に何か違和感はあったか?」
「特にない」
「………」
「アデル」
「ん」
友好的とは言えない雰囲気の中、毛先から滴る湯を拭う事に没頭するアデルは応えない。伸び放題にしては落ち着いた髪だが鬱陶しい事に変わりはない。
コーネリアスは盛大に溜め息を吐き、アデルの放置を決め込んだ。
「………父さんはなんでこっちに? 首都での仕事は」
「首都が皇女に乗っ取られたからだ。城や軍基地の上下水道から攻められて命からがら逃げてきたんだ」
「は?!」