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旭の街で

 サニーアの自衛団の者がハイジャック犯の回収や乗客の保護に当たっている。外は騒がしく慌ただしく、コンパーメントでたっぷり三十分気を失っていたルカが目を開けた。

 座席をベッド代わりに、濃紫のローブを毛布代わりにしていた為背中が痛むらしい。上体を上げ首の関節を鳴らした。


「おはよう」


 右肩と腹に血が染み着いた服を着て向かい側に座っている。調子の出ない頭のままルカはアーデルハイドを眺める。痩せた両手の先も赤く、胸から右頬を返り血が彩る。

 ぎょっとしてアーデルハイドの顔を見直し、曲剣に腹を貫かれたのではと、形状維持術の存在を忘れルカは問いを発した。


「塞がっているから大丈夫。内臓も順調に再生している」

「ああ、そうなのか」


 内臓を傷つける貫通痕、その深さは彼も自衛団員としての経験上知っている。何故顔色を変えないか、怪我をした当事者が平然としているからだ。

 そして何故自分が気を失ったのか、それを思い出して日に焼けて少し濃い肌を真っ青にする。アーデルハイドは自分を刺したテロリストを真っ二つにして転がしたのだ。

 まだ若いからと言う配慮で損傷の激しい死体を直接見る機会の少なかったルカにとって、それは刺激が強すぎた。

 腰から上下に切り離され、自分の下半身を見て悲鳴を上げるテロリストが。魔術による平らな断面から見える内臓が。乗客らのテロリスト共に拘束された時より大きいだろう悲鳴が。自分の顔に付いたアーデルハイドの血が。足首と襟足を掴んで車両からテロリストを引きずって行くアーデルハイドの、義務感といった表情が。姿が消えた直後聞こえた肉々しく水っぽい音が。

 全てがルカを昏倒させるのに十分だった。


「………そう急ぐ事もあるまい」

「怪我をしたそうじゃないか。慌てるに決まってる」


 不意に放たれた声は相変わらず太く、掠れた声はどこへ行ったのか疑問であった。山吹色の目はノックも無しに開かれた扉の向こうへ注がれていた。微笑みを向ける相手は黒と赤を基調とした軍服を纏うコーネリアス。


「久しいな。一人で老けて」

「アーデルハイドは痩せたな。ルカ、ご苦労様」

「どっと疲れました」


 ホテルの手配をしてあると言うコーネリアスに促されて、二人は列車から降りた。


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