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前方車両で何が起きているのか、それを伺い知る事は出来ない。ルカは苦々しい思いで二人組を睨む。ソードブレイカーとスティレットが冷たく輝く。
ただ一つ、アーデルハイドが向こうの車両で暴れているにしては静か過ぎる事だけは確かだ。
「さーて、手を上げろ」
「にぃちゃん残念だったね。デェト台無しだね。キャハハ」
「何のようだ」
「協力して貰わねばいけないんだ」
「逆らったら殺すよ。キャハハ」
ひとまずは、と両手を上げて隙を伺う。どこにでもいそうな中年と頭弱そうな喋り方をする少女との二人組だ。
ルカの腕力は平均より少々良い程度で二人を相手に、それもこの狭く危険な連結部で戦える技量も有してはない。
そしてルカはある結論に至る。意味が分からない相手に勝つ必要はない。少女がスティレットを突き付けたまま中年がルカが丸腰かを確認しに手を伸ばす。
「お前ら、乗客名簿とか持ってんのか?」
「なーんでにいちゃんに言わにゃきゃダメーなの? キャハハ」
「アーデルハイドが乗ってたぞ。向こうの車両」
「あの、アーデルハイドが?」
「えーうっそー! マジでぇ! イケメン? 二枚目? まさかピザ? キャハハ」
中年は自分の道を行く少女の姿に溜め息を吐いた。頭がお花畑な奴に振り回される者として、ルカは思わず中年に同情をする。
「で、そのアーデルハイドが英雄アーデルハイドという証拠は?」
「イケメンがしょーこだお! 英雄は顔パス! キャハハ」
「あー、気にしないでくれないか」
「おう。………あいつ、こんな事唱えてたんだよ」
深く息を吐いて急拵えの策を反芻する。多少緊張していても武器を突き付けられているから言えばいいと。
中年に促され、ルカは口を開く。
「“我はサラマンダーの友人、オルカーニャ・バルディ・エーレンベルグ”」
「にいちゃん? キャハ」
「灼熱の息吹」
激しい炎が連結部を包み込む。深緑の炎は断末魔ごと二人を飲み込んだ。