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ルカがコンパーメントを出る姿を笑顔で見送って、深く息を吐いた。ユキスズはあまり代わり映えしなかったものの、列車一つとっても十年振りの外界は新鮮そのものだ。
鈍行と書いてあったが最後に乗った時よりも速く静かで揺れず内装が綺麗で、先頭の魔石燃焼機関からこぼれる魔力が減っていて、その進歩に素直に感心する一方で取り残されていたという寂しさがアーデルハイドに染みてゆく。
ローブの襟元を寛げて胸部の契約印を確かめる。生の衝動の精霊との契約、経常維持術の為の第二契約、革命軍軍師との契約、ルカとの契約、印は鳥籠ごと燃やされる髑髏の形となり、既に契約当初の原型を留めてはいなかった。
痣の外周を指でなぞると自身に満ちる魔力がたぷんと揺れる。精霊が同じ肉体に入る事によって活性化する精神の一部分を『魔術師』と呼び、厳密には人間の部分ではないらしい。うつらうつらと
眠気は今まで重ねてきた昼寝の習慣、緩やかな眠気に任せ次々と移り変わる風景へと視線をやる。閉じ始める瞼によってぼやけた何かにしか見えないがそれはそれで楽しいらしい。
外がうるさいと一瞬眉をしかめ、アーデルハイドの意識は泥沼に沈もうとしていた。
個室の鍵が外側から開けられ、人が入ってきた為実際に眠る事はできなかった。