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「年は? 今何歳だ」
「忘れた。多分、四十歳、と思う」
「名字」
「忘れた」
「十年間なにしてた」
「生きてた」
「家族は」
「忘れた」
頭が痛くなるのでルカは質問を止めた。指を使って年齢を数えるこの男が、自分の二倍生きたとは考えたくないようだ。なにやら呟きながら両手の指を折って伸ばしてを繰り返す姿は術の発動過程にも思えた。
端から見たら十分笑える光景だが自分の向かい側に座る相手としては少々問題がある。アーデルハイドの膝の上に乗った紙袋を手に取り、中からプレッツェルを取り出して左手に握らせる
「年はもういいから」
「いただきます」
年数えをあっさり止めてプレッツェルを口に運ぶ。ルカは躊躇いもせず食欲魔神と呟いた。
「よく食うな」
「経費で落ちるだろ。とりあえず腹が膨れたから寝るな」
「お前は牛か」
体を伸ばした後、壁に体を寄せて寝やすい位置を探り出す。向かい合うように座っているのだから座席に寝転んでも特に問題はないのだが、座ったまま寝るようだ。
「ちょっと出掛けるぞ。俺と車掌以外が来ても開けるなよ」
「あ、おやすみのキスとか」
「お前疲れて頭沸いてるんだな。可哀想に。さあ寝ろ」