森の賢者
村人が近寄りもしない森の入り口へ差し掛かると、いかにもといった獣道が一本出来ていた。広葉樹と雨の多さが重なってよそでは見られない位下草が生え、埋もれやすい獣道が分かりやすくなっていたのだ。
最初なのだからとルカはありがたく獣道を辿る事にした。
心地よい木漏れ日を浴びながら村に住むより森に住む方が楽そうと感じていた。だが、そうならば何故魔がいると老人は言うのか、理由を考え始める。草に埋もれない頻度で人が入っている理由も分からなかった。
少なくとも今は人に害を与える存在の気配を感じず、耳を澄ましても木が風でざわめく声しか聞こえない。アーデルハイドが村人を追い払う為に流した嘘かと思う位平穏な森だ。
尤も魔術師は嘘を吐けば力が消え、魔力が一線を超えると言った事全てが現実と化す、そんな伝承がある人種だ。誇張はあるにしろその一線を超えかけたアーデルハイドが噂を流せば本当になりかねない。
「なら、何故?」
口を出るのは疑問。魔術師でいるからこそ理解出来ない点もあり、父がアーデルハイドの居場所を知っているのかも疑問で、そんな状態で考えても堂々巡りを繰り返すだけだ。
結論を出す事を諦めた頃、道の先に小屋が見えた。