孤独病末期患者の病状
一人で住むには十分な広さの殺風景な小屋。男は朝食とも昼食ともつかぬ食事を淡々と口に運ぶ。
調味料を正確に測り味を均一化した目玉焼きを食べて、傍らのノートへ味を書き込む。この地に住み始めてから一日も欠かさない習慣をただ今日も繰り返す。日付の脇に味が薄く食欲が湧かないとだけ書き込み、紙が黄ばんでいるノートを閉じる。
異様な透明度を持つ薄黄色の目が残りの食事を観察する。トーストと食べかけの卵、コーヒー。諦めた様に瞬きをした後トーストをコーヒーで流し込む。食べる喜びとは程遠い行為、それを長く続けている事は痩せた体が物語っている。
今日も食べ終える事ができず、上から布を被せて目玉焼きは夕食のおかずになる事が決定した。
本音を言えば寝てしまいたいがそうもいかない。街から運ばれて来る食料が少し離れた切り株に届く日だからである。
護身用の弓矢を背負い小屋を出る。外に出て左へ少し歩くと例の切り株の上に置いてある。食欲が振るわない事は食料の手配をしてくれる友人に伝えている為、筋肉も贅肉も落ちた体でも楽に運べる量だ。
布袋の中身を確認し、手紙が入っている事に気が付いた。淡い黄色の封筒には差出人の名前だけが丁寧に書かれている。急いで中の本文を取り出し、外界と唯一の接点である手紙を読み上げて喜びを露わにする。
話す相手がいない生活の中で声帯が衰え、観衆を惹きつけ鼓舞した声は細く掠れた声へ成り果てていた。手紙を読み進める内、数える程度しか来ない外の人間が来るのだと知った。
「もてなさな、いと」
興奮気味に呟いて小屋へ駆けてゆく。掃除をして髪を解かして顔を洗って、やらなければならない事は山積みだと久し振りに見せる生気に溢れた顔を浮かべる。
小屋に戻る頃にはすっかり息が上がって、更に乱れた長い髪を手で退けて、アーデルハイドは嬉しそうに笑った。