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自分にとっての幸せを発見する方法

作者: ごはん
掲載日:2026/09/06

高校一年生の春、私は「将来の夢」を聞かれるのが嫌いだった。


「何になりたいの?」


先生がそう聞くと、教室のあちこちから手が上がる。


「医者!」


「美容師!」


「保育士!」


私は下を向いた。


なりたいものがないわけではない。


ただ、「これが私の人生です」と言えるほどのものが、まだ見つかっていなかった。


「夢がないって、ダメなのかな」


帰り道、友達に聞いてみた。


「そんなことないよ。でも、やりたいことはあったほうがいいんじゃない?」


友達はそう言った。


たぶん、その通りなのだろう。


でも私は、ずっと小さな違和感を抱えていた。


みんなが「幸せ」と呼ぶものが、本当に自分にとっても幸せなのか。


いい大学。


いい会社。


たくさんの友達。


恋人。


結婚。


大きな家。


高い車。


私はそれらを否定したいわけではなかった。


ただ、


「私は、それが欲しいのかな」


と思っていた。


***


夏休みのある日、私は祖母の家に行った。


祖母は縁側で麦茶を飲みながら、庭を眺めていた。


「おばあちゃん、何してるの?」


「何もしてないよ」


「暇じゃないの?」


「全然」


祖母は笑った。


庭には小さな花が咲いていた。


「毎朝ね、ここに座って花を見るのが好きなの」


「それが幸せ?」


「そうねえ。今の私はね」


私はその言葉が少し気になった。


「今の?」


「幸せって、ずっと同じじゃないもの」


祖母は麦茶を一口飲んだ。


「若い頃は、また違ったわ。仕事が楽しかったし、友達と旅行するのも好きだった。子どもが小さい頃は、家の中が賑やかなのが幸せだった」


「じゃあ、幸せって人によって違うの?」


「もちろん。それに、同じ人でも変わるわよ」


私は庭を見た。


「じゃあ、どうやって自分の幸せを見つけるの?」


祖母は少し考えてから言った。


「自分の気持ちを、ちゃんと観察することじゃないかしら」


「観察?」


「何をしているときに嬉しいか。何をしているときに疲れるか。何をしているときに、自分らしくいられるか」


祖母は笑った。


「幸せって、突然見つかる宝物じゃないのよ」


***


その日から、私は小さなノートを持ち歩くことにした。


表紙には、


『私の幸せを探すノート』


と書いた。


最初のページに、祖母の言葉を書いた。


「心地よかったことを覚えておく。嫌だったことを無視しない。」


そして、その日の出来事を書いた。


『クラスでみんなの前で発表した。すごく疲れた』


『放課後、親友と二人で話した。楽しかった』


『テストでいい点を取った。嬉しいけど、順位を競うのは疲れる』


『一人で音楽を聴きながら帰った。気持ちよかった』


『知らない人がたくさんいる場所は苦手』


『海を見ていたら、時間を忘れた』


書いているうちに、私は不思議なことに気づいた。


「私、思っていたより、静かな時間が好きなんだ」


そして、


「たくさんの人に認められることより、安心できる人と過ごすほうが好きなんだ」


ということにも気づいた。


***


冬になった。


私は進路について、また悩んでいた。


先生から、


「将来のために、もっと難しい大学を目指したら?」


と言われた。


以前なら、きっとその言葉に従おうとした。


でも、その日はノートを開いた。


そこには、私の半年間の記録があった。


楽しかったこと。


疲れたこと。


嬉しかったこと。


苦しかったこと。


私は考えた。


「私は、どんな毎日を送りたいんだろう」


その答えは、意外と地味だった。


朝、慌てずに起きる。


好きな仕事をする。


気の合う人と話す。


帰ったら安心できる家がある。


休日には好きな場所へ行く。


たまには一人で過ごす。


大切な人と笑う。


それだけだった。


でも、


「それがいい」


と思った。


初めて、自分の人生に自分で丸をつけられた気がした。


***


高校を卒業する頃には、私は「幸せ」という言葉をあまり怖がらなくなっていた。


誰かが、


「この大学に行けば幸せ」


と言っても、


「その人にとっては、そうなんだろうな」


と思えるようになった。


友達が、


「絶対結婚したい!」


と言っても、


「素敵だね」


と思えた。


そして私は、自分に問いかける。


「私はどうだろう?」


答えがすぐ出なくてもいい。


分からなければ、分からないままでいい。


これから生きていく中で、きっとまた変わる。


だから私は、これからも自分を観察していこうと思う。


嬉しかったことを覚えておこう。


嫌だったことをなかったことにしないようにしよう。


「みんなが好きだから」ではなく、


「私は好き?」


と聞いてみよう。


「みんなが幸せだから」ではなく、


「私は幸せ?」


と考えてみよう。


幸せは、誰かが答えを教えてくれるものではない。


たぶん、自分の毎日の中に、小さなヒントが散らばっている。


笑ってしまった瞬間。


ほっとした瞬間。


時間を忘れた瞬間。


「もうやりたくない」と思った瞬間。


「またやりたい」と思った瞬間。


その一つひとつを拾い集めていけば、


いつか、


「これが私の幸せなんだ」


と思える日が来るのかもしれない。


春になった。


新しい道を歩きながら、私はふと思った。


人生の正解を見つけたわけではない。


夢が全部決まったわけでもない。


それでも、不思議と怖くなかった。


だって私はもう知っている。


幸せは、最初から用意された答えではない。


自分で感じて、自分で考えて、自分で選びながら、少しずつ作っていくものなのだ。


私は歩きながら、空を見上げた。


今日の空は、きれいだった。


ノートを開く。


そして一行だけ書いた。


『今日、私はこの空を見て、幸せだと思った。』

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