第17話 6階
あれから一ヶ月が経った。
トレーニングは、今も変わらずきつい。
内容が軽くなったわけじゃないし、むしろ少しずつ負荷は上がっている。
それでも続けられているのは、身体が慣れたからというより、このスケジュールに慣れたからだと思う。
朝の起床から就寝まで、分単位で区切られた時間の使い方。
食事、休息、鍛錬、反復、思考。
最初は窮屈だったその管理が、今では自然になっている。
一ヶ月前の自分と比べれば、明らかに違う。
動きも、判断も、迷いも。
成長している実感は、確かにあった。
だが。
スキル1の槍の本数だけは、増えない。
何度試しても、出てくる数は変わらない。
他が伸びているだけに、そこだけ止まっている感覚が気にかかる。
そんな朝だった。
「本日、6階に向かいます」
「……今日?」
反射的に聞き返す。
「今の俺は、6階に行けるのか?」
わずかな不安をそのままぶつける。
「はい」
「5階よりも難易度は低下します。あなたの現在の能力であれば、6階に到達する実力は十分にあります」
5階より簡単。
そう言われても、次の階というだけで緊張はある。
「……行くなら、前日とか数日前に言ってほしかった」
「事前に通達した場合、あなたは6階を過度に意識し、コンディションを低下させる可能性があります」
意識して力み、意識して崩す。
言われてみれば、確かにやりかねない。
「……否定できないな」
深く息を吐く。
「了解。行こう」
塔へ向かった。
転移の感覚。
一瞬、視界が白く塗りつぶされる。
次に目を開けたとき、そこは島だった。
外周には砂浜と海が広がり、波音が一定のリズムで響いている。
空は開けているが、中心部には木々が密集した森が広がっていた。
その瞬間、表示が浮かび上がる。
【ランダムクエスト発生】
《リザードマンを10体討伐せよ》
※達成まで退出不可
「……討伐か」
そして、退出不可。
簡単には帰れない。
「リザードマンは二足歩行の爬虫類型モンスターです」
「高い筋力と硬質な皮膚を持ち、武器を扱う個体も存在します」
森の奥へ視線を向ける。
「基本的に三体一組で行動する傾向があります。個体性能に加え、簡易的な連携を実行します」
三体で囲む。
単体でも強く、さらに連携もする。
面倒な相手だ。
「まずはフィールドを探索してください」
「6階から10階にかけての地形傾向、敵の分布、行動パターン、群れの規模を確認します」
島という構造。
森という中心。
リザードマンという主敵。
それらがどう配置され、どう動くのか。
闇雲に戦うより、まずは把握。
砂浜を踏みしめ、森へ向かう。
背後では波が砕け、前方では木々が揺れる。
まだ敵の姿はない。
だが、確実に気配はある。
退出不可。
その文字を頭の片隅に置きながら、俺は森の中へ足を踏み入れた。




