表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
渇望の檻  作者: トワイライト
制御

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/19

第11話 新生活

 新居に入って三日が経ち、段ボールはすべて片付き、家具も家電も所定の位置に収まり、生活はもう仮の状態ではなく完全に動き始めていた。


 リビングに立ち、改めて部屋を見渡す。


 広い。


 前の部屋とは比べものにならないほど天井が高く、窓も大きく、午後の光が部屋の奥までまっすぐ差し込んでいる。


「……広すぎるだろ」


 思わず呟く。


 ソファ、テーブル、壁面モニター、無駄のない配置。生活感はあるのに、どこかモデルルームのように整いすぎている。


『導線は生活効率を基準に設計しています』


 脳内に響く声は、いつも通り落ち着いている。


「俺の家だよな、ここ」


『はい。塔攻略のための拠点です』


 言い切られると、否定の余地がない。


 廊下に出る。


 寝室の手前、横にもう一つ扉がある。


 それを開けると、小さなフリースペースが現れた。ヨガマットが敷かれ、可変式ダンベルとチューブ、簡易的な姿見が置かれている。


 走り回れるほど広くはないが、軽いストレッチや自重トレーニングなら十分にできる空間だ。


『こちらはコンディション調整用スペースです』


『本格的な高負荷トレーニングは外部施設を使用します』


 用途がはっきりと区切られている。


 ここは身体を整える場所。

 ここは回復を促す場所。


 生活の一つ一つが、目的別に切り分けられている。


「……恐ろしいな」


 思わず、そんな言葉が漏れる。


 ここまで完全に設計されていると、驚きよりも先に、少し怖さがくる。


『効率を最大化しています』


 感情のない返答が、静かに返ってくる。


 寝室も同じだった。遮光カーテン、温度自動調整機能付きエアコン、寝具の硬さまで指定済みで、休息のためだけに整えられている。


 生活が、目的に合わせて分解され、再構築されている。


 


 その日の午後、食材を買いに出た。


 塔から徒歩七分の距離にあるスーパーまで歩く。以前なら往復するだけで小さな疲労が溜まっていた距離だが、今は散歩の延長のように感じる。


『鶏胸肉を800グラム』


『卵10個。ブロッコリー2株。無脂肪ヨーグルト3個』


「細かすぎるだろ」


『七日間の栄養計画に基づいています』


 迷いがない。


 カゴに入れる。


『玄米2キログラム。アーモンド無塩タイプを1袋』


 棚の前で立ち止まる時間がない。


 気づく。


 今日何を食べるか考えなくていい。量も回数も、全部すでに決まっている。


 楽だ。


 だが、自分で選んでいない感覚が、わずかに残る。


 


 帰宅後、キッチンに立つ。


『フライパンを中火に設定』


『油は5グラム。入れすぎないでください』


『鶏肉は片面2分40秒』


 秒単位で区切られる工程に従い、淡々と手を動かす。


 まるでレシピ動画を完全にトレースしているような感覚だ。


『塩分は控えめに。代わりに胡椒を増やしてください』


 指示どおりに仕上げる。


 皿に盛り付け、椅子に座り、一口食べる。


「……うまいな」


 自然に言葉が漏れる。


 味は単調ではない。派手ではないが、毎日続けられるちょうどいい味に整えられている。


『継続可能性を優先しています』


 合理的すぎて、少し笑えてくる。


 


 夜、フリースペースで軽く身体を動かす。


 マットの上でストレッチをし、チューブで肩周りをほぐし、ダンベルで軽い負荷をかける。


 本格的なトレーニングは外部施設で行う予定だが、ここで身体を整えられるだけでも、明らかに準備の質が違う。


 以前の部屋では、ベッドと机の隙間で無理やり動くしかなかった。


 今は、動くことが前提になっている。


 汗を拭き、リビングに戻る。


 窓の外に塔が見える。


 近い。


 距離だけでなく、生活そのものが塔へ向いている。


「……拠点、って感じだな」


『目標到達確率、上昇しています』


 淡々と告げられる。


 自由は減ったかもしれない。


 だが環境は整った。


 塔は変わらずそこに立っている。


 けれど挑む側の条件は、確実に以前とは違っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ